科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

石島 藤夫

農薬メーカーに37年間勤務し、現在は(公社)緑の安全推進協会で、農薬の使用者等を対象とした講習会や電話相談などを担当している

農薬の今3

農薬への不安は、なぜ生じるのか

石島 藤夫

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 前回は、当協会に寄せられた一般の方からの電話相談についてご紹介しましたが、今回は一般の方が抱く農薬への不安や農薬の使用のための安全活動について見てみたいと思います。

 一般の方からの相談の傾向については前回述べた通りで、結論としては「農薬が使用されることへの不安を抱いている」ということでした。では、どうしてこのような相談が多いのでしょうか。

 以下の3つの要因が考えられます。
(1)メディア(テレビ、新聞、雑誌)やインターネット等の影響
 多くの方は、情報をメディア(テレビ、新聞、雑誌)やインターネットから得ていると思われます。特に簡単に多くの情報を得ることが出来るインターネット上には、根拠や出典を示さず「農薬などの化学物質は危険(毒だ、癌になる)だと言われている」というような伝聞による(信頼性が疑わしい)と思われる記述がたくさん引用されています。また、新聞などでも「農薬は危険」との論調や前提とした記事も多いことから、これらのメディア等の影響が大きいと考えられます。なお、メディアの影響については、西澤真理子さんも、その著書(リスクコミュニケーション、2013年11月10日、(株)エネルギーフォーラム)に詳しく紹介されていますが、まさしくそこに書かれていることが起きているものと思われます。

(2)未知に対する不安
 これは、農薬についての正しい情報を知らない(得られない)ことから起きている不安です。この不安は、知人等の信頼出来る人による説明や(第三者からであっても)分かり易く説明されることにより、その多くが解消出来るものであると考えます。 逆に言えば、この不安は、信頼出来ない人からの説明では解消されないものです。  そこで、相談を寄せられた方へは、「相談内容を良く聞くこと」及び「分かり易い説明」を心がけ、説明に当たっては、科学的な根拠を示す前に、先ず信頼を得ること念頭に親切かつ丁寧な応対に心掛けています。その結果でしょうか、相談者の中には、「誰も年寄りの話を聞いてくれなかった(この方は年配の女性)が、丁寧な説明が良く分かった。聞いてくれてありがたかった。」と感謝される方が見られました。「話を良く聞くことだけ」でも不安解消に役立つ場合があると感じます。

(3)情報を読み取る(理解)力の不足
 情報を受ける側の「得られた情報を正しく読み取る(理解)力の不足」にも問題があると考られます。受け手側も「危険なんだ」という先入観や視点での意識や興味が強く(当然なのかも知れませんが)、得られた情報を真に読み取る力が育っていないのではないかと思うことがあります。例えば、インターネット検索で「農薬は毒だ、癌になると言われている」というような記載があるとき、引用元や根拠(科学的な研究による報告等)が明示されていなくても、インターネットのように多くの方が閲覧する場所に書かれていると、記載内容を疑うことをしない(出来ない)ような傾向があるように思われます。このような情報を見聞した時は、「それでは農薬を使用している農家の人は全員が癌になっているのだろうか」とか「社会的に認知されている企業が、癌になるようなものをわざわざ登録して販売しているのだろうか」というような疑問を持てれば、「他の意見もあるのでは」という発想になると思うのですが、相談内容から考察すると、そこまで思い至らない方が多いと感じられました。

 それでは、農薬は一般の方々が考えられているほど危険なものなのでしょうか。私はそうは思いません。
 それに答えるためにも、農薬の製造や使用場面における人畜や環境への安全確保及び農産物の安全性の確保については、どのようになっているかについて、次の回以下で少し触れてみたいと思います。(緑の安全推進協会相談室長、石島藤夫)。

<お知らせ>
農薬について、気軽にご相談ください。疑問にもお答えします。電話番号は03-5209-2512。相談受付時間は午前9時から午後5時まで (土、日、祝祭日は除く)です。

執筆者

石島 藤夫

農薬メーカーに37年間勤務し、現在は(公社)緑の安全推進協会で、農薬の使用者等を対象とした講習会や電話相談などを担当している

農薬の今3

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