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執筆者

瀬古 博子

消費生活アドバイザー。食品安全委員会事務局勤務を経て、現在フーコム・アドバイザリーボードの一員。

今月の質問箱

「海外ではマーガリン禁止!?」のウソ・ホント~トランス脂肪酸のまとめ

瀬古 博子

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 マーガリンは危険な食品で諸外国では禁止されているのに、日本では規制がなく“野放し”状態だという話を聞くことがあります。

 たしかに、ネットで検索すると、マーガリンは危険だという情報があちこちに。その理由は、マーガリンに含まれるトランス脂肪酸にあるというわけです。トランス脂肪酸は、飽和脂肪酸同様、心筋梗塞などのリスクを高めるとされており、WHO(世界保健機関)ではトランス脂肪酸の摂取量を摂取エネルギーの1%未満にすることを勧告しています。今回は、このトランス脂肪酸に関する事実のまとめです。

<海外の状況>
 では、海外の規制の状況を見てみましょう。トランス脂肪酸については、含有量の規制をしている国と、表示の義務付けをしている国があります。

・含有量を制限している国

 トランス脂肪酸の含有量を制限している国・地域はデンマーク、スイス、ニューヨーク市など。
 たとえば、デンマークでは、食品中のトランス脂肪について、最終製品に含まれる油脂100 g当たり2gを超えてはならないとする規則を設けています。油脂100g当たりの含有量が1g未満の場合には、「トランス脂肪酸を含まない」と表示できます。デンマークでは、油脂100g当たり2gを超えてトランス脂肪酸が含まれる食品の割合は、2002年(規制開始前)の26%から2013年には6%に減少したとしています。

・表示を義務付けている国

 トランス脂肪酸について表示の義務付けを行っている国は米国や韓国などです。
 米国の場合、栄養表示の義務付けの中で、脂肪全体、飽和脂肪酸、トランス脂肪酸、コレステロールを表示します。トランス脂肪酸含有量が1サービング(1食分)あたり0.5mg未満であれば、「ゼロ」と表示できます。
 米国人のトランス脂肪酸摂取量は、2003年(表示義務付け発表時)の1日4.6gから2012年には1日約1.3gに減少したとしています。

・そのほかでは…

 デンマークのように独自の規制を行う国もありますが、EUとしては、現在のところ、トランス脂肪酸について特に規制を行っていません。
 EUの食品表示では、脂肪、飽和脂肪酸の表示義務化はされていますが、トランス脂肪酸は表示義務対象ではありません。

 また、英国では、トランス脂肪酸の平均摂取量は、最大でも摂取エネルギーの2%未満にすべきだとしており、国民のトランス脂肪酸の摂取量はその半分の1%程度にとどまっています。英国ではトランス脂肪酸よりも飽和脂肪酸を大量に摂取していることから、脂質の量に関しては、「飽和脂肪酸の低減に注力することがより重要」としています。

 オーストラリアとニュージーランドでは、トランス脂肪酸の摂取量が摂取エネルギーに占める割合は、平均でオーストラリアでは0.5%、ニュージーランドでは0.6%と推定され、WHOの勧告値である1%未満をかなり下回っています。また、産業界がすでに製品中のトランス脂肪酸を相当減らしており、食品中のトランス脂肪酸の量はリスクとなるレベルよりもかなり低くなっているとしており、トランス脂肪酸の表示の義務付けはしていません。「問題は自分たちの飽和脂肪酸摂取量が多いことだ」としています。

 トランス脂肪酸についての諸外国の取り組みについては、農林水産省のウェブページ「トランス脂肪酸に関する情報」に詳細がまとめてあります。

 また、各国のサイトも参考になります。
デンマーク/ 米国英国オーストラリア・ニュージーランド

・米国の暫定的方針

 「マーガリン/トランス脂肪酸は諸外国では一切禁止」との誤った情報が散見されますが、どこからこのような情報がくるのでしょうか。
 米国では2013年に、トランス脂肪酸の摂取源となる部分水素添加油脂についてGRAS(一般に安全と認識される)とみなさないとの暫定的な決定がされました。
 このことが「トランス脂肪酸全面禁止」との誤解を生んだ可能性があります。
 この暫定的な決定については、FDAがパブリックコメントを募集(2013年11月~2014年3月)しましたが、その後、まだ確定はされていません。海外のメディアでは、この5月~6月にも最終決定が下されるのでは、との記事も見られます。

<日本の食品の含有量>

 日本人のトランス脂肪酸摂取量は、平均約0.7g。摂取エネルギーに占める割合は約0.3%です。
 WHOの勧告値の「1%未満」の範囲内に十分おさまっています(食品安全委員会の季刊誌30号)。

雪印メグミルク株式会社 http://www.meg-snow.com/news/2014/pdf/20141001-920.pdf及び、日本生協連 http://jccu.coop/food-safety/qa/qa01_02.htmlより作成

雪印メグミルク株式会社 http://www.meg-snow.com/news/2014/pdf/20141001-920.pdf及び、日本生協連 http://jccu.coop/food-safety/qa/qa01_02.htmlより作成

 では、食品中にはどの程度トランス脂肪酸が含まれているのでしょうか。
 日本ではトランス脂肪酸の表示は義務付けられていませんが、一部のメーカーは公表しています。
 飽和脂肪酸の情報もあわせて公表している商品の例を下に紹介します。

 注目していただきたいポイントは2点。まず、米国の表示制度では、1サービング当たり0.5g未満であれば「ゼロ」と表示できることは前述しましたが、日本で流通している商品でも、米国の制度では「ゼロ」と表示できるレベルのものが多く見られること。
もう1点は、トランス脂肪酸が少なくても飽和脂肪酸が多いものがあること。トランス脂肪酸だけに注意するのではなく、脂質全体を考える必要があります。

 実は、国内のマーガリン類のトランス脂肪酸含有量は減少傾向にあり、飽和脂肪酸は増加傾向にあります。2010年度の食品安全委員会の調査では、2006年度比で、トランス脂肪酸含有量の平均値はマーガリンで約41%、ファットスプレッドで約19%減少し、業務用マーガリンとショートニングの平均値は1/10以下に減少しましたが、飽和脂肪酸は業務用マーガリンで約1.4倍、業務用ショートニングで約1.9倍増加していました。トランス脂肪酸の低減が進む一方で、代わりに飽和脂肪酸が増加している様子がうかがえます。(食品安全委員会の評価書より)

 「日本人の食事摂取基準(2015年)」では、飽和脂肪酸の目標量はエネルギー比7%以下ですが、2010~2011年の国民健康・栄養調査では30~49歳の女性で7.6%と目標量を超えているという現実があります。

 脂肪の摂取に関しては、メディアや世の中の関心はもっぱらトランス脂肪酸に向けられているようですが、そろそろ英国やオーストラリア・ニュージーランドのように、現状を見て問題を考える動きが出てきてもよいのではないでしょうか。

執筆者

瀬古 博子

消費生活アドバイザー。食品安全委員会事務局勤務を経て、現在フーコム・アドバイザリーボードの一員。

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