科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

瀬古 博子

消費生活アドバイザー。食品安全委員会事務局勤務を経て、現在フーコム・アドバイザリーボードの一員。

今月の質問箱

トランス脂肪酸の報道から抜け落ちていること

瀬古 博子

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 前回、『「海外ではマーガリン禁止!?」のウソ・ホント~トランス脂肪酸のまとめ(4月27日)』で、トランス脂肪酸をめぐる海外での状況を書いた。
 その後、6月にFDAから部分水素添加油脂をGRASとみなさないとの決定が公表された。
 このことは森田満樹さんの6月27日付記事(「アメリカのトランス脂肪酸をめぐる日本の報道は?」)に詳述されており、皆様ご存じのとおり。FDAの動きを契機に日本でもトランス脂肪酸の報道が増えたようだ。

 先日も、NHK朝の7時台のニュースでトランス脂肪酸が取り上げられた。専門家の解説とともに、日本国内やアメリカでの状況が紹介され、「トランス脂肪酸だけでなく脂肪全体の摂取量に注意を」とのコメントで締めくくられた。
 日本国内の動きとしては、「トランス脂肪酸を含まない菓子」を製造し、注目を集める企業もあるという。
 北海道にあるその企業では、マーガリンやショートニングを使わず、バターを使うのでコスト高にはなるが、消費者の二―ズがあり、最近は売り上げが1.5倍に伸びたそうだ。

 「あれ?」と思ったのは、マーガリン・ショートニングは不健康、バターは健康的と決め付けたかのような話がすーっと流れたことだ。
 バターに多く含まれる飽和脂肪酸も、とりすぎれば当然ながら健康によくない。
 そして、実は、バターにも天然由来のトランス脂肪酸が含まれる。ただし、天然由来のトランス脂肪酸は、心筋梗塞との関係は低いと考えられている。

 このNHKのニュースも含め、このところの報道を見ていると、原料からのトランス脂肪酸の排除や表示問題をクローズアップする一方、「脂質全体をとり過ぎない」、「飽和脂肪酸をとり過ぎない」など、本来基本的なことについては取り扱いが小さく、印象に残らないことが多い。
 視聴者・読者には、「トランス脂肪酸というのはどうもよくないらしい」ということは伝わるが、通常の日本人の食生活ではトランス脂肪酸の摂取量は少なく、脂質に偏った食事をしている場合では、脂質全体についても注意したいということは伝わりにくい。

 そもそもWHOが「健康的な食事」として、脂肪の摂取について述べているのは次のことだ。
・脂肪の摂取量をエネルギー比30%未満にすることは、成人の不健康な体重増加を防ぐのに役立つ。
・さらに、非感染性疾患(糖尿病、心臓病、脳卒中、がんなど)のリスクは、飽和脂肪酸をエネルギー比10%未満、トランス脂肪酸をエネルギー比1%未満にし、双方を不飽和脂肪酸に置き換えることにより、低減する。

 トランス脂肪酸については、食品からの排除や表示問題が話題にされることが多いが、その摂取について、「エネルギー比1%未満」にするとはどういうことなのか、「不飽和脂肪酸に置き換える」とはどういうことか、具体的なことはわかりにくい。
 消費者が自分で実践できることとして、脂肪全体を含め、自分の摂取状況を知り、食べ方を判断する際に参考になるような、実用的な情報提供がもっとあってもよいのではないか。

執筆者

瀬古 博子

消費生活アドバイザー。食品安全委員会事務局勤務を経て、現在フーコム・アドバイザリーボードの一員。

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いろいろな場面で食品安全や食品表示の質問、疑問に遭遇します。自分なりに、気になる質問のコタエを探したい