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執筆者

瀬古 博子

消費生活アドバイザー。食品安全委員会事務局勤務を経て、現在フーコム・アドバイザリーボードの一員。

今月の質問箱

遺伝子組換え食品の状況を変えるかもしれない作物とは?

瀬古 博子

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 少し前に、英国BBCのドキュメンタリで、遺伝子組換え食品をテーマにした番組を見た。
「Panorama “GM Food – Cultivating Fear”(パノラマ“遺伝子組換え食品-恐怖の育成”)」というタイトルだ。

 BBCによる番組紹介は、「遺伝子組換え食品の新世代は、政府と以前の批判者たちを味方にした。科学者たちは、遺伝子組換え食品は発展途上国での食料供給に役立ちうるという。遺伝子組換え食品への反対は、本物の安全上の懸念に基づいているのか。それとも、たんに不安をあおっているのか」というもの。

 番組を見ると、以前は遺伝子組換えに反対していたが、その後考えを変えた人たちが登場した。
 一人はジャーナリストで環境問題専門家のMark Lynas氏。
 2013年にそれまでの遺伝子組換え反対活動が誤りだったと謝罪して話題となった人物だ。
 この件については、宗谷敏氏「GMOワールドII」に詳しい。

 もう一人は、英国グリーンピースの元代表で現在はグリーンピースをやめているStephen Tindale氏。
 かつては遺伝子組換えの反対キャンペーンを主導してきたが、現在は、遺伝子組換え食品について、「圧倒的多数の科学者が安全と考えている。そうした新技術にあくまで抵抗するということは、道徳的に容認できない。」と語った。
 こうした技術を、干ばつや病気への対策にどう活かせるかが重要だということだ。

 番組では、遺伝子組換えの状況を変えるかもしれない作物が二つあるという。そのひとつが、バングラデシュで生産されているBTナスだ。

 バングラデシュではナスはメジャーな作物のようだ。しかし、ナスの実の内部に侵入する害虫を退治するために、農家は週に2回は殺虫剤をまかなくてはならない。
 ところが、害虫に強い遺伝子組換えナス「BTナス」を作付けしたところ、殺虫剤を減らすことができた。結果的に、農家にとっては殺虫剤のコスト負担が減ることはもちろん、殺虫剤を散布することによる健康被害も消えた。環境にもよいわけだ。

 取材を受けたバングラデシュの農家は、BTナスを調理した料理でBBCのレポーターをもてなし、レポーターは、(GMを生産していない)イギリスでは食べられないごちそうだと語った。
(なお、BTとは微生物のバチルス・チューリンゲンシスの頭文字であり、BT剤は微生物由来の農薬として有機農業でも用いられている。)
 BTナスの取り組みについて、現在は米国コーネル大学にも関係しているLynas氏が、コーネル大学が支援するプロジェクトであることを説明した。

 遺伝子組換えの状況を変えるかもしれないもう一つの作物は、英国で開発中のジャガイモだ。ジャガイモに少数の遺伝子を組み込むことによって、病気や害虫などの被害からジャガイモを守ることができる。こうしたジャガイモの病気は年間5500万ポンドもの被害をもたらしている。

 番組には、昨年までEUの首席科学顧問をつとめてきたAnne Glover氏も登場し、イデオロギーとして反対する人たちは何とかして反対理由をつくらなければならず、そして脅し作戦に出るが、NGOは自分たちの主張に合わせてエビデンスを作るべきではないと述べた。

 この番組は、科学の側に立つ意見を十分に伝えたようだが、放送後、反対する人たちからはバイアスがかかっているなど、批判が寄せられたようだ。

 番組を見終わって思い出したのは、フィリピンや中国の事例だ。
 ISAAA(国際アグリバイオ事業団)によれば、フィリピンでは遺伝子組換えトウモロコシの生産が広がり、トウモロコシ全体の収量を押し上げて、トウモロコシの国内自給率100%が達成された。
 また、中国での遺伝子組換え食品の生産は、農家の農薬散布による健康被害の減少につながっているとの話を聞いたことがある。(農薬による健康被害は、不適切な使用方法に由来しているかもしれず、農薬の適正使用の普及も必要だ。)

 ISAAAによれば、インドネシアやベトナムでも遺伝子組換え作物の承認が進められている。ヨーロッパでは、オプトアウト(EUが承認した遺伝子組換え作物でも加盟国が栽培を禁止できる制度)が話題だが、今後、遺伝子組換え作物の承認・生産は、こうしたアジア諸国などで進展していくのではないだろうか。

<参考>
Panorama “GM Food – Cultivating Fear”(視聴はできません。)
ISAAA(国際アグリバイオ事業団)の2014年次報告(バイテク情報普及会ホームページ)

執筆者

瀬古 博子

消費生活アドバイザー。食品安全委員会事務局勤務を経て、現在フーコム・アドバイザリーボードの一員。

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