科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

瀬古 博子

消費生活アドバイザー。食品安全委員会事務局勤務を経て、現在フーコム・アドバイザリーボードの一員。

今月の質問箱

有機食品はどこへ行く?

瀬古 博子

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 日本経済新聞の社説(6/25)で、めずらしく有機JASについて書いていた。(2017/6/25付「食の健康志向を脱・安売り競争に生かせ」)

 米アマゾン・ドット・コムが約1兆5000億円で、自然食品に強い高級スーパーの米ホールフーズ・マーケットを買収することにふれ、日本の流通業者もこの分野の開拓に真剣に取り組んではどうかとの内容だ。

 背景としては、健康志向の高まりから、付加価値が高い有機食品の購入者が増えていることがあるという。

 読んでみて、いくつか気になった点があった。

●有機=健康的か

 まず、有機食品が消費者にとって「健康によい」「安全性が高い」食品という、よくある思い込みである。

 有機農産物等、いわゆる有機食品を定義するのはJAS(日本農林規格)制度の中の有機JAS規格だが、これは環境面の規格であり、安全性ではない。

 有機食品は農薬、添加物の使用が抑えられているから安全で健康的と思われがちだが、農薬や添加物を使わなければ、かび毒や食中毒菌のリスクが増加する恐れもある。

 一つのリスク要因をたたけば、別のリスク要因が顔を出すという、「もぐらたたき」のようなリスクのトレードオフである。

●国産品の有機農産物はまだ少ない

 有機食品の市場規模は諸外国では増大しているが、日本ではそれほど普及が進んでいない。

 日本国内の耕地面積は451万8000ha。このうち、有機JASのほ場は9956haで、0.2%程度。

 一方、欧州各国を見ると、有機農業の面積割合は、イタリアでは10.8%、ドイツでは6.3%と桁が違う。

 生産量では、国内の農産物の総生産量のうち、有機JASの格付けをされた割合は、0.24%。

 有機JASの格付け実績をみると、野菜はほとんどが国内だが、果実や大豆は海外での格付け、つまり海外生産が多い。特に、大豆は94%が海外で有機JASの格付けをされている。そもそも大豆の自給率は7%程度しかないので、当然といえば当然の話だ。

 国内での有機農業が育たないことには、有機食品への需要が高まっても、輸入有機食品が増えるだけになりかねない。

 環境負荷を減らした食品といっても、海外からエネルギーを使って運ばれてくるのでは、素直に受け止めにくい。

●信頼できる表示を

 もう1点、JAS規格に関する表示の違反については、有機JASにかかわるものが圧倒的に多い。

 昨年度は、上半期15件、下半期39件の指導が行われ、大半が「不適切な『有機』等の表示」、「輸入品に不適切な『オーガニック』等の表示」などの違反だった。

 これは日本に限ったことではないようで、欧州でも、有機の認証に準拠しない有機表示の誤用増加が問題となっている。有機食品への需要の高まりと相まって不適切表示が増えるのでは、消費者が裏切られることになる。

 農林水産省では、有機農業のほ場面積を1%に上げようとしている。有機農業を推進するには、生産者の努力だけではなく、消費者が理解を深めることも大事だろう。現状は、「自然・天然こそ安心」のイメージが強く、消費者に十分理解されているとはいいがたい。有機食品を取り扱う流通業者はイメージ戦略に走るのではなく、商品についてごまかしのない情報提供に努めてほしい。消費者としても、有機食品を理解した上で購入したい。有機JASの表示も、一層のルール順守が望まれる。

執筆者

瀬古 博子

消費生活アドバイザー。食品安全委員会事務局勤務を経て、現在フーコム・アドバイザリーボードの一員。

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