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執筆者

瀬古 博子

消費生活アドバイザー。食品安全委員会事務局勤務を経て、現在フーコム・アドバイザリーボードの一員。

今月の質問箱

豆腐のリスク評価 ~ 常温保存可能な豆腐が誕生する?

瀬古 博子

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豆腐といえば、江戸時代に「豆腐百珍」というレシピ本があったほど、日本人にとって古くからなじみのある食品だ。冷蔵庫がなかった時代、豆腐をどのように取り扱ったのかはわからないが、現在のところは、豆腐は、冷蔵での販売、保管が当たり前。

豆腐は、ごくわずかでも細菌に汚染されていたら、保管の温度などによって急激な細菌増殖が起こりかねない。不衛生な取り扱いにより、細菌性の食中毒が起きてしまう。そこで、豆腐の規格基準として、冷蔵しなければならない旨が規定された。1974(昭和49)年のことだ。
厚生労働省 食品別の規格基準について 豆腐(現行)

●常温で日持ちする「無菌充填豆腐」

ところが、現在は、豆腐の製造技術も格段に進歩し、「無菌充填豆腐」というものが作られている。豆乳を、連続流動式の加熱殺菌機で殺菌し、殺菌・除菌した凝固剤を添加し、無菌的に充填した豆腐のことだ。

豆腐は、元々は日持ちしない食品だが、無菌充填豆腐は長く日持ちするという。しかも、無菌充填豆腐は、国内では豆腐の規格基準に沿って冷蔵で流通しているが、海外へは常温保存品として輸出されている。厚生労働省の資料によれば、1986(昭和61)年から、欧州等への輸出・米国での現地製造を常温保存品として行ってきた。欧州等への輸出は、過去10年間で合計約5,995トン、米国での現地製造は過去10年間で約52,000トンで、常温で流通しているが、いずれも食中毒等の健康被害の報告は確認されていない。
厚労省資料 豆腐の規格基準の改正について

         10か月間保存可能な商品も

10か月間保存可能な商品も

無菌充填豆腐は、ネット通販で販売されたり、宅配の商品として扱われたりしている。商品には、「要冷蔵」等の文字があり、10℃以下で保存するよう表示されている。しかし、同じ商品が海外では常温品として扱われ、安全上も問題ないなら、国内でも同じように取り扱いたい、ということが、事業者側から要望された。消費者としても、安全上問題ないことが確認されるなら、商品選択の幅が広がるのはありがたいことだ。

●レトルト食品と同じ、120℃・4分間の加熱殺菌

厚生労働省が豆腐の規格基準の改正を検討し、食品安全委員会にリスク評価を依頼。食品安全委員会が、この無菌充填豆腐について、この1月に示した結論は、「冷蔵保存から常温保存に変更した場合、リスクに差があるとは考えられない」ということだ。厚生労働省が条件として示した殺菌、除菌等の製造工程(120℃・4分間の加熱殺菌等)を経た無菌充填豆腐は、食中毒を起こす危害要因となるボツリヌス菌、セレウス菌が死滅し、最終製品に残存しない(ウエルシュ菌等、その他の菌も死滅する)。ちなみに、120℃・4分間の加熱殺菌は、レトルト食品と同じだ。ただし、厚生労働省の指針に基づき、十分に衛生管理することが前提とされている。
 食品等事業者が実施すべき管理運営基準に関する指針(ガイドライン)の改正について
食品安全委員会 評価書詳細 豆腐の規格基準の改正

●「要冷蔵」か「常温可」か、しっかり表示を

この結論は、厚労省にすでに通知された。今後、厚労省で規格基準の改正が整うと、いよいよ常温保存可能な無菌充填豆腐が誕生しそうだ。

現在でも、豆腐は商品によって、日持ちに幅がある。今後、保存温度も異なってくるので、「要冷蔵」なのか「常温保存可」なのか、消費者が間違えることのないよう、保存方法、賞味期限などを、よりわかりやすく表示することが重要になる。

執筆者

瀬古 博子

消費生活アドバイザー。食品安全委員会事務局勤務を経て、現在フーコム・アドバイザリーボードの一員。

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