科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

瀬古 博子

消費生活アドバイザー。食品安全委員会事務局勤務を経て、現在フーコム・アドバイザリーボードの一員。

今月の質問箱

週刊新潮が不安をかきたてる「食べてはいけない国産食品実名リスト」とは

瀬古 博子

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週刊新潮(2018年5月24日号)がこんな記事を載せている。

「専門家が危険性を告発! 食べてはいけない『国産食品』実名リスト」。

週刊新潮

記事を読み始めると、冒頭「必要なのは、正確な情報を元に正しく怖れ、リスクのあるものを出来得る範囲で避けること」と、意外とまっとうな表現がされている。

この記事で、買ってはいけないと指摘する商品は、まず食肉製品類だが、添加物の亜硝酸ナトリウムについては、「ハムやウインナーを作るのに昔から広く使われてきたもので、毒性が判明して以降も基準を定めて、人体に影響がない範囲での使用が許可」されているとして、使用基準やADI(一日摂取許容量)なども、一応記述している。

断片的な情報でミスリード

しかし、愕然とさせられるのは、そのあとだ。

記事では、発色剤として使用される「亜硝酸ナトリウム」と保存料の「ソルビン酸」との組み合わせには「相乗毒性がある」として、その説明に、添加物等の安全性について科学的な評価を行う食品安全委員会の文書を引用しているのだ。

引用されたのは「ソルビン酸カリウム」の評価書。p19から「ソルビン酸が広範に使用される一方、亜硝酸塩も食肉製品の発色剤として多用され、両者がしばしば共存するという事実と、両者の加熱試験反応によりDNA損傷物質が産生されることが報告されている。」との記述。

これでは、食品安全委員会が、ソルビン酸と亜硝酸ナトリウムの相乗毒性があることを認めているようではないか。

しかし、実際には、上の引用部分は、次のように続いている。

「しかしながら、この結果は特別なin vitroにおける実験条件下で得られたもので、ソルビン酸と亜硝酸ナトリウムが食品中に共存した場合に実際に形成されることを意味するものではないとされている。」

つまり、DNA損傷物質は、通常の使用状況とは異なる、限られた条件下で生成されているということで、通常の条件下では、人の健康に対する危害要因はないとしている。

なぁんだ。

科学的な評価書の一部分だけを切り取って、「しかしながら」と続く部分を伝えない、このような記事の書き方は、どうなのか。読者をミスリードするものとしか思えない。

実は、この件に関しては、食品安全委員会が、ブログフェイスブックで、「食品健康影響評価書を引用した週刊誌記事について」と題する一文を載せている。

「食品健康影響評価書については、特定箇所のみ抽出された文節で判断するのでなく、前後の文節や、まとめとしての『食品健康影響評価』の項もご確認ください。」などと、この部分を解説しているので、詳細はそちらをお読みください。

●添加物の摂取量は?

週刊新潮の記事では「亜硝酸ナトリウム、ソルビン酸、リン酸塩のすべてが含まれる商品例をリスト化し、そのメーカーを問題視している。

亜硝酸塩については、添加物として使用される量よりも、野菜に多くの硝酸塩が天然に存在し、一部は体内で亜硝酸に変化する。ただし、だからといって、野菜の摂取を控える必要はない。野菜から硝酸塩を摂ったとしても、野菜を十分食べることは、それにまさる利点があるからだ。

厚生労働省が公表している食品添加物の一日摂取量の調査結果から、推定一日摂取量と一日摂取許容量の比較を見てみると、ソルビン酸では0.36%(平成24年度)リン酸化合物では6.47%(平成25年度)と、どれも許容量を大きく下回っていた。

リスクは「ある」「なし」ではなく、幅で考えるもの。それには、「摂取量はどの程度か」という量の概念が欠かせないが、そんなことは忘れられているようだ。

それから、記事では、グルタミン酸ナトリウム(MSG:Monosodium glutamate)について、「アメリカなどでこれを摂取しないようにする風潮が広まっている。」としている。

グルタミン酸ナトリウムは、昆布だしのうまみ成分を合成した、いわゆるうまみ調味料。FDA(アメリカ食品医薬品局)のQ&Aを見てみよう。

「Q 食べても安全か?」に対し、「FDAでは添加物MSGを『一般に安全と認められる(GRAS)』とみなしている。」と回答。さらに、MSGはトマトやチーズなど多くの食品に天然に存在し、添加物中のグルタミン酸と食品中のたんぱく質に存在するグルタミン酸を区別できない、などと説明している。

●なぜ「国産品」に限定する?

と、ここまで書いて不思議になったが、なぜ「食べてはいけない『国産食品』」なのだろう。国産食品であっても、原料も国産とは限らない。「輸入食品はこんなに危ない」では、ニュースバリューがないからなのか。

国産品でも輸入品でも、国内では同じ法律の下、同一基準で規制されている。原材料のグローバル化が進む中で、「国産品だから」、「輸入品だから」とレッテルを貼るのはいかがなものか。

実際、食品のリスクを考えると、鶏の生食、加熱不十分なジビエ、重金属、かび毒など、注意が必要なものはさまざま。家庭での食事であっても、食品の取り扱いを間違えると、食中毒から死者が発生することもある。

ありきたりの添加物・農薬のバッシングではなくて、実際に食品による危害を防ぐことにつながるようなアラート記事が読みたいものだ。

執筆者

瀬古 博子

消費生活アドバイザー。食品安全委員会事務局勤務を経て、現在フーコム・アドバイザリーボードの一員。

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