科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

瀬古 博子

消費生活アドバイザー。食品安全委員会事務局勤務を経て、現在フーコム・アドバイザリーボードの一員。

今月の質問箱

「新鮮なササミで鶏刺し」、それって大丈夫? ~カンピロバクター食中毒を減らすために~

瀬古 博子

キーワード:

●2017年の食中毒事件、最多の病因物質は?
毎年1,000件以上、報告されている食中毒事件。その原因となるものは、何が多いのでしょう。
2015年、16年と、原因のワースト1位は、ノロウイルスでした。2017年、ノロウイルスを抜いて、1位に躍り出たのがカンピロバクター・ジェジュニ/コリ。カンピロバクターは、この数年、毎年300件以上の食中毒事件を起こしています。

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●原因食品の多くは、生または加熱不十分な鶏肉
カンピロバクター食中毒は、大半が飲食店で起こっています。原因食品で多いものが、焼き鳥、鶏レバー串焼きなど鶏肉・鶏内臓料理。鶏刺し、鶏肉のカルパッチョなど、生食と思われる料理も目立ちます。
厚生労働省の資料によれば、カンピロバクター食中毒の約9割で、生または加熱不十分な鶏肉・鶏内臓が原因の疑いが。
また、約半数の事例で、仕入れた鶏肉・鶏内臓に「加熱用」の表示があったにもかかわらず、飲食店が生または加熱不十分な状態で提供していた実態も判明しました。

●鶏肉は通常「加熱用」
ここまで読んで、「え、鶏肉に加熱用なんて表示あるの?」と思った方もいるかもしれません。スーパー等の鶏肉売場では「加熱用」といった表示は見られませんが、鶏肉が食鳥処理場で処理され、卸売業者、飲食店に行くまで、「加熱用」の旨を表示等できちんと情報伝達するように、行政が指導しています。
通常の市販鶏肉は、当然「加熱用」。例外としては、南九州の一部で、生食用の衛生対策を自治体が定め、菌の汚染を最小限にする取り組みが行われています。

●レシピ投稿サイトでも
しかし、居酒屋など飲食店では、鶏刺しのような鶏の生食料理がごくふつうに提供されています。それだけではありません。レシピ投稿サイトでも、家庭で作れる「鶏の生食レシピ」が、写真とともに紹介されています。そういったレシピでは、「新鮮なササミで作って」とか、「レアで食べられる鶏肉を使う」、「銘柄鶏は大丈夫」などの文言が。
ですが、たとえ新鮮であったとしても、また、銘柄鶏であったとしても、鶏肉を生あるいは加熱不十分で食べれば、食中毒のリスクを伴います。

●新鮮だから生食OK、ではない
実は、カンピロバクターについては「新しい鶏肉ほど危ない」とよく言われます。カンピロバクターは「微好気性菌」といって、5~10%の酸素濃度で増殖します。大気中は酸素濃度が21%で、カンピロバクターは生存できず、時間がたてば死んでしまいます。
ただし、時間をおけば安心というわけではありません。カンピロバクターは低温のほうが常温よりも生き残りやすく、冷蔵庫の温度で生存期間が延びるので、注意が必要です。

●海外でも低減対策が
カンピロバクターの食中毒は、海外でも問題となっています。WHO(世界保健機関)では、カンピロバクターは、世界で下痢症を起こす4大原因のうちの1つとしています

海外諸国でもカンピロバクター対策のさまざまな対策が行われています。例えば、10年ほど前、カンピロバクター汚染率がEU平均よりも高かったイギリスでは、産業界や消費者団体とも連携し、カンピロバクター低減キャンペーンを実施。汚染菌数の多い鶏の割合が減少してきています。

●悪質事例は告発も含めて対応を
日本では、5月に食品安全委員会がカンピロバクターのリスクプロファイルを更新。130ページを超える、詳細な内容となり、今後の課題が整理されてきました。
厚生労働省では、「加熱用」の情報伝達の監視指導を行い、加熱用であることを知りながら生食料理を提供し、くりかえし食中毒を起こすといった悪質事例については、告発等厳正に対応していくとの方向性を示しています。
日本でも、産業界がカンピロバクター食中毒低減のために協力していくことが必要でしょう。

●どうやって減らす? カンピロバクター食中毒
消費者側でできる対策としては、食品の十分な加熱や二次汚染の防止が大切なのは当然ですが、「新鮮な鶏肉なら生でも大丈夫」との思い込みがなかなか消え去らないのが現状です。
まずは、鶏肉・鶏内臓のカンピロバクター汚染率は高いこと、通常の鶏肉はほぼすべて「加熱用」だということが、広く理解される必要があります。

<参考>
厚労省 細菌による食中毒 カンピロバクター
薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会食中毒部会 配付資料
食品安全委員会 食中毒を減らすために~カンピロバクターを中心とした食中毒について~

執筆者

瀬古 博子

消費生活アドバイザー。食品安全委員会事務局勤務を経て、現在フーコム・アドバイザリーボードの一員。

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