科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

瀬古 博子

消費生活アドバイザー。食品安全委員会事務局勤務を経て、現在フーコム・アドバイザリーボードの一員。

今月の質問箱

ぶどうによる窒息事故―4分割など安全に気をつけて見守りを

瀬古 博子

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今年9月、八王子市の幼稚園で、給食で出たぶどうの実をつまらせて4歳のお子さんが亡くなるという痛ましい事故が起こりました。

ぶどうの品種はピオーネで、サイズは直径3cmほどだったということです。

ぶどうの実を4分割して出していればのどにつまることもなかったであろうに、本当に残念な事故です。

6歳以下の子どもで多い

子どもの食品による窒息事故は、たびたび起こっています。

消費者庁によれば、2010年から2014年の5年間で、子ども(14歳以下)の窒息死事故623件のうち、食品による事故は103件(約17%)。

食品が子どもの窒息死事故の大きな要因の一つとなっていることが、わかりました。また、この103件の内、87件は6歳以下の子どもで起きています。

窒息を起こす原因となった食べ物は

小さな子どもの場合、直径4cmより小さいものは、誤嚥(食べ物が誤って気管に入る)、窒息の原因となる可能性があります。

窒息を起こす原因になった食べ物の例としては、下記があげられます。どれも、身近な食品ばかりです。

報告された事故例では

実際、消費者庁や日本小児科学会の傷害速報などによれば、次のような事例が報告されており、毎年のように事故が起こっていることがわかります。

安全な食べ方・食べさせ方を知っておこう

ポイントは、「食べやすい大きさにして、よくかんで食べる」こと。球形のものやつるつるしたものは要注意です。また、周囲にいる人は、しっかり見守ることも大事です。

2010年に、食品による窒息事故のリスク評価を行った内閣府の食品安全委員会では、次の注意点をあげています。

「見守る」ことについては、事故が発生したとき、バイスタンダー(現場に居合わせた人)が除去を試みることが、最悪の事態の回避につながります。

幼稚園、保育園でのガイドラインは

教育・保育施設での事故防止については、2016年に「教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン」(施設・事業者向け)が作成され、その中で、誤嚥についての事項が書かれています。

このガイドラインには、誤嚥・窒息事故を防ぐ取組事例も紹介されており、「給食での使用を避ける食材」として、

プチトマト、乾いたナッツ、豆類(節分の鬼打ち豆)、うずらの卵、あめ類、ラムネ、球形の個装チーズ、ぶどう、さくらんぼ、もち、白玉団子、いか

をあげ、「プチトマト 四等分すれば提供可能だが、保育園では他のものに代替え」などと具体的に示しています(浦安市作成のマニュアル)。

こうしたガイドラインが作成されたのに、今回のような事故が起きてしまったのは、どうしてなのでしょうか。ガイドラインには、自治体向け発生時対応もあります。周知徹底がされて、再発防止のためにきちんと活用されることが望まれます。

おやつの注意喚起表示は目立つように

子どもが好むおやつの類でも、事故例が報告されています。

人気のキャラクターが描かれていて、どこから見ても子ども向けであっても、子どもにとって安全とは限りません。

これをこのまま与えて大丈夫かなと、食品の形状や固さなどを確認してみることも必要でしょう。

丸くて小さいお菓子など、「のどにつまらせないように」など、注意喚起表示がついていることがありますが、多くの場合、小さな文字で、申し訳程度の表示です。

注意喚起の意味をなすように、より目立つ表示であってほしいものです。

円柱状の食品(ソーセージのような)については、輪切りにすると丸いままですから、たてにも2~4分割するなど、より安全な食べ方を示すイラスト表示が望ましいといえます。

もちろん、乳幼児の場合は、おもちゃやボタン電池などさまざまなものを口に入れる危険がありますから、食べ物以外でも十分注意が必要です。

応急手当の方法も知っておこう

では、万が一、食べ物がのどにつまってしまった場合は、どうしたらよいのでしょうか。

多くの場合、窒息が起こってから5~6分で呼吸が止まります。窒息に気づいたら、すぐに救急車を呼び、応急処置をすることが重要です。

下のような方法を知っておきましょう。

子どもがものをのどに詰まらせたときの応急処置

「政府広報オンライン」より転載

高齢者の場合は、ご飯やパンに注意

お子さんの事故について述べてきましたが、食品による窒息事故で亡くなる方は毎年4,000人を超えており、その多くは高齢者です。

2019年の人口動態調査でも、死者は4000人を超えており、その9割が65歳以上でした。

気道閉塞を生じた食物の誤えんによる死亡数

厚生労働省 人口動態統計(2019年)より作表

(「交通事故以外の不慮の事故(W00-X59)による死亡数,年齢(特定階級)・外因(三桁基本分類)・発生場所別」のうち「W79気道閉塞を生じた食物の誤えん<嚥><吸引>」による)

高齢者では、唾液の分泌が少なく、歯を喪失していたり、食べ物をかみくだく機能が低下しているので、かたいものやパサパサしたもの、ご飯やパンなど粘り気のあるものなどに、注意が必要です。水分をとりながら食べること、義歯の調整なども心がけましょう。

筑波大学が、2006年~2016年の全国での食物の誤嚥による窒息死5万2366例を解析した結果、73%は75歳以上の後期高齢者で、暦の上では1月1日が最多、次いで1月2日、3日が多かったと報告しています。

毎年、正月になると、「もちがつまって…」とニュースで報じられるとおり、「正月」、「もち」が気をつけるべき重要ポイントの一つです。

また、高齢者に限らず、だれでも、ふとしたときに誤嚥、窒息の事故は起こりうるものです。

安全な食べ方を意識すること、食事の際は、注意して見守ることも大事です。

執筆者

瀬古 博子

消費生活アドバイザー。食品安全委員会事務局勤務を経て、現在フーコム・アドバイザリーボードの一員。

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