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執筆者

瀬古 博子

消費生活アドバイザー。食品安全委員会事務局勤務を経て、現在フーコム・アドバイザリーボードの一員。

今月の質問箱

保育園給食のヒスタミン食中毒、「だしパック」が原因?

瀬古 博子

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11月11日、東京都墨田区内の保育園で、ヒスタミン食中毒が発生。1歳~6歳の園児28名に、発疹の症状が出ました。原因食品は、給食のきつねうどん。
墨田区保健所は、原因施設に6日間の営業停止処分を行いました。

●報道された内容は

この件が、ニュースで「だしパックの煮すぎが原因? 保育園の給食で食中毒」の見出しで報じられ、「だしパックの煮すぎが原因なのか?」と、ちょっとした騒動に。

この記事では
▼使用済みのだしパックからヒスタミンが微量検出された
▼だしパックのメーカーは煮る時間を10分間としていたが、給食の調理業者は45分間煮ていた
と伝え、「都は『記載されている用法を守ってほしい』と呼びかけている。」の一文を付け加えています。

ヒスタミン食中毒を少しでも知っている側から見ると、だしパックの「煮すぎ」が食中毒の原因というより、だしパックが原因ならば、もともとの製品にヒスタミンが多かったのではないか、と考えるところ。

それが、「煮すぎ」に焦点があたってしまったことで、ネットでも
「だしパックは長く煮ると有害物質が溶け出てくるのか」、「顆粒のだしの素のほうが安全なのか」
などなど、勘違いする人も出たようです。

●Codex委員会の衛生基準にふれる濃度

現在では、他のニュースで、「だしを長く煮出すことで菌が生成されるという研究結果はない」とか「(だしパックの煮すぎは)あくまで可能性の1つ」などの東京都のコメントが紹介され、「だしパック煮すぎ」問題はひとまず収束したようです。

ところで、この給食のヒスタミン濃度はどのくらいだったのでしょうか。

墨田区・東京都の発表によると、検査結果は次のとおり。
・検食(きつねうどん、きざみ揚げ):5検体中2検体ヒスタミン8mg/100g、20mg/100g 検出、3検体検出しない
・残品(だしパック):2検体ヒスタミン5mg/100g未満
・参考食品(別ロットのだしパック):1検体ヒスタミン5mg/100g未満

どのくらい摂取すると食中毒を起こすかということが重要ですが、食品安全委員会のファクトシートによると、過去の食中毒事例から計算した例では、おとなで22~320mgと報告されています。

また、FAO(国連食糧農業機関)/WHO(世界保健機関)の専門家会合では、ヒスタミンの無毒性量を50mg(おとな1食当たり)としていて、Codex委員会では、衛生基準をヒスタミン濃度が200mg/kgを超えないこと(まぐろ、いわしなどの缶詰や急速冷凍水産加工品等)としています。

前述の給食の検査結果のうち、検食の「20mg/100g」のものは、Codex委員会の衛生基準にふれる濃度ということになります。

とはいえ、日本には、食品中のヒスタミンに関する規制値はありません。この濃度を超えたから食品衛生法違反、とはいえないわけです。

●微生物汚染と異なり、「ばらつきが大きい」

国内と海外のヒスタミン食中毒の比較では、ヒスタミン濃度が200mg/100gを超える事例が海外事例では約40%であったのに対し、日本では70%以上であり、日本では原因食品中のヒスタミン濃度が高い傾向であることが示唆されています(登田美桜ら:国内外におけるヒスタミン中毒、Bull.Natl.Inst.Health Sci.、127,31-38(2009))

また、ヒスタミンは、「微生物汚染と異なり、同じロットの製品の中でも汚染のばらつきが非常に大きい」とされ、国内で確認された食中毒事例で検体濃度が不検出の例があったり、残品や検食中の濃度と患者が喫食した食品中のヒスタミン濃度が必ずしも一致しないなど、原因食品の特定に悩む要因になる、とされています(出典:同上)

●加熱しても分解されない

ところで、ヒスタミンの食中毒は、いわし、まぐろ、かつおなど魚介類で多く起こります。
これらの魚には、遊離ヒスチジンが多く含まれていて、これらを常温に放置するなど、不適切な管理を行った場合、ヒスタミン生成菌が増殖し、ヒスタミンが生成されます。

一度生成されたヒスタミンは、加熱しても分解されません。

ヒスタミン食中毒は、主に魚やその加工品によりますが、ワインやチーズ、ソーセージ、みそ、しょうゆ、納豆などの発酵食品からもヒスタミンが検出されています。

●ヒスタミン食中毒患者は9歳以下が約4割

ヒスタミンの食中毒は、保育園や学校でもたびたび起きています。

今年は、1月に埼玉県の中学校で「ぶりの照り焼き風」、5月に大津市の保育所で「さばのカレー焼き」などで、ヒスタミン食中毒が発生しています。前者は患者数8名、後者は15名でした。

平成18年~27年のヒスタミン食中毒患者は、9歳以下が約4割、14歳以下まで入れたら約6割と、子どもの占める割合が大きいのです。

ヒスタミン食中毒では子どもにだけ発症し、おとなは発症しない事例があり(今回も患者は子どもだけ)、子どもはおとなよりも影響を受けやすい可能性が考えられています。

●適切な衛生管理で魚介類の安全性を高めて

ヒスタミン食中毒予防のために、原材料からの温度管理が重要です。

農水省では、関係事業者向けにリーフレットを作っています。

今回のヒスタミン食中毒については、原因食品が「きつねうどん」ということはわかっているのですが、だしパックが原因かどうかまでは、まだわかっていません。原因究明されて、再発防止策が講じられてほしいと思います。

かつおぶしや魚介類等については、HACCP制度化が進み、事業者の規模にかかわらず、安全性がさらに高まることを期待しています。

参考)

厚労省 ヒスタミンによる食中毒について

農水省 リスクプロファイル ヒスタミン

(FOOCOMメルマガより加筆転載)

執筆者

瀬古 博子

消費生活アドバイザー。食品安全委員会事務局勤務を経て、現在フーコム・アドバイザリーボードの一員。

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