科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

瀬古 博子

消費生活アドバイザー。食品安全委員会事務局勤務を経て、現在フーコム・アドバイザリーボードの一員。

今月の質問箱

日本の基準は甘すぎる?

瀬古 博子

キーワード:

●暫定規制値に疑問の声

 「日本の基準はWHOの10倍! 甘すぎるのではないか?」
 ネットでよく見かける、放射性物質に関する疑問です。福島の第一原子力発電所の状況が連日報道され、食品や水についての不安が払しょくされないまま、厚生労働省が定めた放射性物質に関する暫定規制値に疑問が寄せられています。
 4/12の本サイトの記事「なぜ健康影響はないと言えるのか?―第2回メディア情報交換会を聞いて」でも、記者たちの質問は「海外の基準値と照らし合わせて、日本の基準は甘すぎるのではないか」という点に集中したとありました。
 では、はたして日本の基準は国際基準や他国の基準に比べて甘いのか。甘いとしたら、どのくらい差があるのでしょうか。調べてみました(単位はベクレル/キログラム)。

日本の暫定規制値
<放射性ヨウ素>牛乳・乳製品300(乳児用は100)、飲料水300(乳児用は100)、野菜類2000、魚介類2000
<放射性セシウム>牛乳・乳製品200、飲料水200、野菜類500、穀類500、肉・卵・魚・その他500

米国
<放射性ヨウ素>170  <放射性セシウム>1200

カナダ
<放射性ヨウ素>食品1000、生乳100  <放射性セシウム>食品1000、生乳300

EU(欧州連合)
<放射性ヨウ素>乳幼児食品150、乳製品500、飲料水等500、その他食品2000
<放射性セシウム>乳幼児食品400、乳製品1000、飲料水等1000、その他食品1250
※日本から輸入される食品については基準値引き下げ。

コーデックス委員会(WHO:世界保健機関/FAO:国連食糧農業機関合同食品規格委員会)
<放射性ヨウ素>乳幼児用食品100、乳幼児用以外100
<放射性セシウム>乳幼児用食品1000、乳幼児用以外1000

●EUは基準値を強化

 このようにヨウ素とセシウムだけを見ても、各国及び国際機関の基準値はさまざまであり、食品の区分も異なることがわかりました。また、規制値なのかガイドラインなのかといった違いもあります。
 興味深いのはEUの基準値で、1986年のチェルノブイリ原発事故の際に広範囲な汚染の被害を受けたヨーロッパでは、現実的な基準値が設定されていることが伺えます。ただし、今回の福島での原発事故発生を受けて、EUでは4月12日以降、日本から輸入される食品には日本の暫定規制値に合わせて基準値を引き下げました。<放射性ヨウ素>は乳幼児食品100、乳製品300、飲料水等300、その他食品2000 <放射性セシウム>は乳幼児用食品200、乳製品200、飲料水等200、その他食品500となっています。

 冒頭の「基準値がWHOの10倍」との表現は、WHOの飲料水水質ガイドラインで、<放射性ヨウ素>について10ベクレル/リットルとされ、日本の暫定規制値の乳児との差が10倍となるためでしょう。WHOでは、ガイドラインの値は日常的な飲用を念頭にかなり保守的に設定されているため、原子力危機に際しての基準値とすべきではないとしています。

 基準値については単純に高低を比較して論じるよりも、それによって安全が確保されているかどうかという観点から考えることが大切なのではないでしょうか。日本の暫定規制値の場合は、放射性ヨウ素で年間2ミリシーベルト(甲状腺等価線量としては年間50ミリシーベルト)、放射性セシウムで年間5ミリシーベルトの実効線量について、食品安全委員会で“安全の側に立っている”との見解がまとめられており、これを超えて食品から被ばくしないように設定されています。

※等価線量:放射線の種類やエネルギーを問わず、人体組織への影響を表す量。
※実効線量:放射線被ばくによる全身の健康影響を評価するための量。
<記事中の基準値は瀬古が調べたものです。間違いがありましたらご指摘ください。より正確には、各国サイトなどの原典をご確認ください。>

  • 日本
  • 米国
  • カナダ
  • EU
  • EU・日本から輸入される食品
  • コーデックス
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    瀬古 博子

    消費生活アドバイザー。食品安全委員会事務局勤務を経て、現在フーコム・アドバイザリーボードの一員。

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