科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

瀬古 博子

消費生活アドバイザー。食品安全委員会事務局勤務を経て、現在フーコム・アドバイザリーボードの一員。

今月の質問箱

「ミネラルウォーター」の広告で、「放射性物質ゼロ」と書いてもよい?

瀬古 博子

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 公益社団法人日本広告審査機構(JARO)が出している冊子で、「ミネラルウォーターの広告で、<放射性物質ゼロ>をうたうことができるか」という事例が紹介されていました。カロリーなどであれば、健康増進法によりゼロ表示の規定が定められていますが、放射性物質はどうなのでしょうか。結論からいえば、そのような表示は「不適切」というのがJAROの答えです。

 その理由ですが、自然界には微量なりとも放射性物質が存在します。水道水に含まれる放射性物質についても、自治体が測定し、原発事故当初は数値が高かったものの、その後は「検知されず」という結果になっています。
 検知されないということは、必ずしも放射性物質が「ゼロ」ではなく、「微量のため、測定できない」ということを意味します。

 この事例のミネラルウォーターについても、含まれる放射性物質の数値が「ゼロ」なのではなく、「検知できず」という試験結果であるので、「放射性物質ゼロ」との表示は不適切になる、ということです。
 JAROではさらに、この事例の広告主に対し、「放射性物質が検知されなかった」という文言を広告に入れるのであれば、大きな見出しにせずに表示するよう依頼したとのことです。
 それにしても、放射性物質への不安から、「水道水を使わずにミネラルウォーターを利用している」との声が今も聞かれることには驚かされます。

水道水の水質基準は厳しい

 水道水では、水道法に基づき、50項目の「水質基準項目」が定められています。水道水はこれら50項目の基準値に適合しなければならず、検査が義務づけられています。
 さらに、水道水中で検出される可能性があるものなど、水質管理上留意すべき「水道管理目標設定項目」が27項目とその目標値が定められています(うち1項目には農薬など102物質が含まれるので全体としては128物質)。また、今後必要な情報・知見の収集に努めていくべき「要検討項目」44項目とその目標値も定められています。

 この中で、「水質管理目標設定項目」に含まれるのがウランです。ウラン及びその化合物は、目標値(暫定)が0.002mg/ℓ以下となっています。ウランは自然界にもともとある放射性物質のひとつで、地下水などで検出されることがあります。水道水の水質モニタリング結果(平成20年度)では、0.002mg/ℓという目標値を超過したものはありませんでした。また、定量下限の0.0002mg/ℓを超えたものは全国の浄水1873試料のうち1.8%でしたから、日本の水道水のウラン濃度はおおむね0.0002mg/ℓ未満だとわかりました。

 一方、ミネラルウォーターの水質基準はどうなっているでしょうか。ミネラルウォーターでは、原料となる水(原水)について、食品衛生法で定められているのは18項目とその基準値です。ウラン濃度について定めた目標値はありません。といっても、だからミネラルウォーターは危ない、というわけではありません。ただ、ウラン濃度については、日本各地の水道水よりも国産ミネラルウォーターのほうが高いものがあり、さらに外国産ミネラルウォーターはそれよりも高いものがあるとの傾向を示す分析結果があります。

「安全」なのか「安心」なのか

 水道水とミネラルウォーターを比べた場合、水道水のほうが、より厳格に規制値が定められていることはよく知られた事実といえます。ミネラルウォーターが「より安全」と考える人は、何を根拠としているのかよくわかりませんが、安心感があるということなのでしょうか。

 前述のJAROの情報では、放射性物質を除去するなどの広告が多くなり、問題となっているようです。不安につけこむようなうたい文句をうのみにしないよう注意が必要でしょう。

資料:
公益社団法人日本広告審査機構(JARO)「最近の審査トピックス」

水道水水質基準について(厚生労働省)

ミネラルウォーター類の情報(東京都水道局)

ウランの情報(食品安全委員会「評価書 食品中に含まれる放射性物質」)

執筆者

瀬古 博子

消費生活アドバイザー。食品安全委員会事務局勤務を経て、現在フーコム・アドバイザリーボードの一員。

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