科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

瀬古 博子

消費生活アドバイザー。食品安全委員会事務局勤務を経て、現在フーコム・アドバイザリーボードの一員。

今月の質問箱

「ひじきを食べ過ぎてしまった!」

瀬古 博子

キーワード:

ひ素の影響が心配

 “放射能対策食”とでもいうのでしょうか、「みそがよい」、「アップルペクチンが効果的」などさまざまなことがいわれてきました。「ひじきをたくさんとるのがよい」という説もあるそうです。しかし、ひじきを多量に食べ続けてきた人から不安の声が寄せられることがあります。

 不安の原因は、ひじきに含まれる無機ひ素という物質で、発がんリスクが指摘されています。このことを知った人、特に、放射線の影響を心配して、ひじきを食べる量を増やしたり子どもたちにも毎日食べさせたりしていた人が、今度はひ素の影響について「子どもたちは大丈夫だろうか」と心配することになってしまいます。

どのくらいまで食べてよい?

 英国の食品基準庁では、ひじきには高濃度の無機ひ素が含まれるとして、消費者に摂取を避けるように助言しています。もちろん英国ではひじきは日常的な食品ではなく、主に日本食レストランで出されているほか、専門店で販売されている程度ですから、英国内の消費者にとってさしたる影響はないでしょう。

 厚生労働省のひじき中のひ素に関するQ&Aによれば、WHO(世界保健機関)では1988年に無機ひ素の暫定的耐容週間摂取量を15μg/kg体重/週としています。つまり体重50kgの人では、1人1日当たり107μgまでが、生涯継続して食べても健康に影響がないと判断される量となります。英国で調査されたひじき乾燥品は、水戻し後の無機ひ素濃度が最大で22.7mg/kg。このひじきを食べるとして、毎日4.7g以上続けて食べない限り、暫定的耐容週間摂取量を超えることはないということです。また、日本人の1日当たりの平均的なひじき摂取量は0.9gとされています。

 ただし、この暫定的耐容週間摂取量15μg/kg体重/週は、2010年に取り下げられています。日本においても、食品中のひ素のリスクはまだ科学的な評価が完了していません。

水もどしを十分して

 一つ言えることは、乾燥ひじきの場合、水戻しすることにより、ひ素を減少できることです。
東京都では、乾燥ひじきの調理法について次のような助言をしています。
・乾燥ひじきはたっぷりの水で30分以上水戻ししてから調理する
・水戻しに使った水は調理に使わない
・水戻しした後は、ボールに入れた水で2~3回洗い、よく水気を絞る
・ ゆでるときは水戻ししてからゆでる

極端な食べ方でリスクを増やさないで

 食品とともに口に入ったひ素の大部分は、尿中に排出されていきます。また、前述の英国食品基準庁では、ひじきを食べることによるリスクについて、子どもや乳児のほうがおとなよりリスクが高いということは「ない」としています。

 ひじきは適度に食べればおいしくてミネラルが豊富なよい食材です。水戻しをして、栄養バランスのよい食事を心がける中で、うまく利用していくことがすすめられます。
ひ素は環境中に存在し、米や野菜などの食品や飲料水にもごく低い濃度で含まれていて、「ゼロ」にすることはできません。大量にとり続ければ有害なものでも、ごく微量であれば影響を無視できます。リスクを減らそうとして“極端な食べ方”、“偏った食べ方”をして、かえってリスクを増やすことのないようにしましょう。

(参考)
厚生労働省「ヒジキ中のヒ素に関するQ&A」(2004年)

東京都 食品衛生の窓「ひじきに含まれるヒ素」(2007年)

農林水産省リスクプロファイル「ヒ素」(2010年)

執筆者

瀬古 博子

消費生活アドバイザー。食品安全委員会事務局勤務を経て、現在フーコム・アドバイザリーボードの一員。

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