科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

瀬古 博子

消費生活アドバイザー。食品安全委員会事務局勤務を経て、現在フーコム・アドバイザリーボードの一員。

今月の質問箱

牛レバ刺し禁止の影で忘れられていること

瀬古 博子

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 7月1日からの生食用牛レバー販売禁止に向けて、最近は「レバ刺し」に関する報道が目につきました。牛レバ刺し禁止は行政による「過剰規制」なのか、安全のためにやむを得ない措置なのか、「食文化」をどう考えるかなど、ネットやメディアで議論が盛り上がりを見せています。

 しかし、繰り広げられるレバ刺し談義を見ていると、大事なことが忘れられているのではないかとも思えます。牛レバ刺しの禁止は、腸管出血性大腸菌による食中毒の防止対策です。では、カンピロバクターやサルモネラ、ノロウイルスなどの対策を今後どうするのか――。

Food borne illness

厚生労働省 食中毒統計より作成

 とくに、カンピロバクターは、2011年の食中毒発生件数では336件とトップになっています。2005年の645件、2008年の509件からは減少していますが、2009年以降、300件台にとどまったままです(グラフ参照)。

 カンピロバクターによる食中毒は、下痢や腹痛、発熱などが主症状で、死亡例はきわめて少ないのですが、感染後に神経疾患のギラン・バレー症候群を発症することがあります。ギラン・バレー症候群は急速に手足の筋力が低下し運動麻痺が起こる病気で、致死率は2~3%とされています。

 カンピロバクターによる食中毒の原因食品としては、鶏肉がとくに多いことが知られています。鶏肉によるカンピロバクター食中毒をいかに低減することができるでしょうか。
 食品安全委員会のリスク評価によれば、農場での衛生管理強化や食鳥処理場での二次汚染防止などの対策があげられていますが、消費者側で実行可能な対策もあります。それは、鶏肉の生食を減らすこと。たとえば、鶏わさ、鶏レバーのさしみ、湯引きした半生の鶏肉などを食べる割合を減らせば、食中毒のリスクを低減できます。

 鶏刺しは九州地方の郷土食であるとも聞いています。郷土食として、その作り方、食べ方が受け継がれるときには、食中毒を防ぐ方策など安全対策もあわせて受け継がれているものと思います。しかし、グローバル化の時代にあって、郷土食が「どこでも食べられる一般食品」へと変化するとき、効率化、大規模化の中で、本来もっとも重要だった安全対策の伝承がぬけ落ちてしまうことはないでしょうか。

 人がどのようなものを食べるかはなるべく自由であってほしいし、自由ななかで自律的に安全な食べ方ができることが望ましいと思います。今後は、「鶏さし禁止」といった話題が出てくる前に、生で肉を食べることのリスクについて、あらためて考えていく必要があるのではないでしょうか。

執筆者

瀬古 博子

消費生活アドバイザー。食品安全委員会事務局勤務を経て、現在フーコム・アドバイザリーボードの一員。

今月の質問箱

いろいろな場面で食品安全や食品表示の質問、疑問に遭遇します。自分なりに、気になる質問のコタエを探したい