科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

瀬古 博子

消費生活アドバイザー。食品安全委員会事務局勤務を経て、現在フーコム・アドバイザリーボードの一員。

今月の質問箱

韓国製ラーメンに発がん物質が入っていたっていうけれど?

瀬古 博子

キーワード:

 韓国製ラーメンから微量の発がん物質が検出され、回収されていることがニュースになっています。「韓国製ラーメンを食べてしまったけれど、心配だ!」という方や「これから韓国製ラーメンは食べないほうがよいのか?」という方もいらっしゃるかもしれません。
 問題の発がん性物質は「ベンゾピレン」。食品を焼くなどの調理過程や乾燥、加熱など製造過程でできてしまう物質で、肉や魚介類のくん製、直火焼きで調理した肉(焼肉、焼き鳥、焼き魚など)、植物油や穀物製品などに多く含まれています。

 ベンゾピレンは、化学物質などの発がん性を検討している国際がん研究機関(IARC)の評価では、「グループ1:ヒトに対して発がん性がある」に分類されています。
 ベンゾピレンのような物質は、調理過程でもできてしまうため、食事からの摂取をゼロにすることはできません。問題となった韓国製ラーメンを食べなくても、微量ですが摂取しているのです。たばこをすう人は、喫煙によってもベンゾピレンを取り入れています。

摂取量と健康影響

 では、私たちはどのくらいベンゾピレンを摂取しているのでしょうか。農林水産省のリスク管理型研究では、1日あたりの推定摂取量について、平均89~127ナノグラム(ng)という数字が示されています(1ngは10億分の1g)。
 一方、欧州諸国では1日あたり97~255ngとの調査結果がありますが、欧州食品安全機関(EFSA)では、平均的な摂取量の場合、消費者の健康への懸念は低いとしています。高摂取群(平均の倍程度摂取)では、健康への懸念の可能性とリスクの管理が必要になる可能性が示されています。

 韓国製ラーメンの場合、韓国ではベンゾピレンについて基準値が定められており、くん製魚肉は1kgあたり5,000ng、くん製乾燥魚肉は1kgあたり10,000ngなどとなっています。今回は原料に用いたかつお節について、くん製乾燥魚肉の基準値を超過したベンゾピレンが検出され、韓国内で商品の回収や是正の命令などが行われています。
 日本の場合、ベンゾピレンについて、食品衛生法に基づく基準値はありませんが、韓国で回収される製品については、日本でも回収が指導されることになりました。

ベンゾピレンだけではない

 食事由来の発がん物質はいろいろあり、アルコール飲料もその一つです。調理加工によって精製される発がん物質についても、ベンゾピレンに限らず、じゃがいもなど炭水化物の多い食材を高温で加熱したときにできるアクリルアミドなどがあります。アクリルアミドは、国際がん研究機関により「グループ2:ヒトに対しておそらく発がん性がある」に分類されています。加工食品については、メーカー側に対し、こういった物質の製造工程での低減化が求められます。

 消費者としては、肉や魚の焼け焦げに注意する、アクリルアミドについては炭水化物の多い食品を必要以上に長時間、高温で加熱しないなどの策が考えられますが、いずれにしても、一つの物質だけを排除すればよいというものではありません。安全性をトータルで考え、偏りのない、バランスのよい食事を楽しみましょう。

参考:
食品安全委員会 ファクトシート「食品に含まれる多環芳香族炭化水素(PAHs)」
農林水産省 食品安全に関するリスクプロファイルシート(検討会用)

執筆者

瀬古 博子

消費生活アドバイザー。食品安全委員会事務局勤務を経て、現在フーコム・アドバイザリーボードの一員。

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