科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

瀬古 博子

消費生活アドバイザー。食品安全委員会事務局勤務を経て、現在フーコム・アドバイザリーボードの一員。

今月の質問箱

BSE規制緩和に寄せられた消費者団体のコメントとは?

瀬古 博子

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 2月1日からのBSE対策見直しによる輸入牛肉の規制緩和は、主に経済ニュースとして取り扱われ、安全に関する解説はあまり見られませんでした。新聞各紙では、「米牛肉輸入緩和2月から 外食産業は歓迎 値下げ不透明」(朝日新聞1/29)、「牛肉の輸入規制 来月緩和 値下がり幅は小さく」(日経新聞1/29)などのように扱っています。

 NHKのニュース(1/28)では、全国消費者団体連絡会(全国消団連)のコメントとして、「世界的にBSE対策が進み、規制を緩和しても現在とのリスクの差は非常に小さいという科学的な報告もあるので、今回の対応は理解できる。」という言葉が紹介されました。

 食品のリスク管理対策については、消費者側の団体の「不安だ、規制強化すべきだ」という意見はよく耳にしますが、「対応は理解できる」といった肯定的コメントはこれまで聞いたことがありません。「えっ?」とテレビ画面を見直してしまいました。このコメントは次のように続きました。「ただ、消費者の不安を取り除くため、アメリカ側が生後30か月以下の牛の区別や特定危険部位の除去などをきちんと行っているかどうか、日本政府が定期的な査察を行って、情報公開してもらいたい」。
 つまり、理解を示しながらも、今後のことに注文をつけているわけです。消費者側としてはもっともな注文だと思います。

 全国消団連は、2005年の米国・カナダ産牛肉の輸入再開時には、「極めて遺憾」との意見を表明し、反対の姿勢を示しました。今回は理解を示しましたが、この変化はどこからくるのでしょうか。

 今回の規制緩和の前に、食品安全委員会がリスク評価を行っていますが、全国消団連がその評価について食品安全委員会に出したパブリックコメントでは、“2005年の米国・カナダ産牛肉のリスク評価は仮説に基づく評価だったが、今回はその後の研究・調査結果をもとに評価が行われており、この点で理解しやすくなった”と述べています。その上で、わかりやすい説明や継続的な研究・情報収集などを求めているのですが、要するに2005年以降に得られた研究結果などの知見の積み重ねが重要であり、それに基づいてリスク評価が行われたこと、その結果として規制措置が緩和されたことが「理解できる」となった背景にあるのでしょう。

 今回の規制緩和に対しては、「BSE対策の後退である」として批判を寄せる団体もあります。その一方で、こうした落ち着いたコメントが消費者側から出されたことについては、共感をもって受け止める人も多いのではないでしょうか。

 ところで、今回、全国消団連が厚生労働省宛てに出したパブリックコメントでは、米国・カナダ産牛肉に関する要望にとどまらず、フランス、オランダからの牛肉の輸出プログラムについても説明を求めています。これについては1月28日の厚生労働省の審議会で説明されたようで、厚生労働省のホームページに説明資料が掲載されています。

 今回の輸入牛肉の規制緩和では、経済問題とのかかわりのためか、米国産牛肉に関心が集まり、フランス、オランダ産牛肉の安全対策については見落とされがちです。消費者側としては、産業界での関心が薄い部分にも「食べる人」ならではの関心を寄せ、注意を向けていきたいと思います。

参考:
厚生労働省 1/28の審議会資料
全国消費者団体連絡会食の安全・安心関連情報

執筆者

瀬古 博子

消費生活アドバイザー。食品安全委員会事務局勤務を経て、現在フーコム・アドバイザリーボードの一員。

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