科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

平川 あずさ

食生活ジャーナリスト、管理栄養士。公益社団法人「生命科学振興会」の隔月誌「医と食」副編集長

あずさの個別化栄養学

日本の子どもたちの「食格差=栄養格差」の関係を断ち切ろう

平川 あずさ

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健康で幸せな生涯を送るための“大きな鍵”の1つが、生活習慣病予防のための栄養教育だ。生活習慣病の低年齢化(貧困家庭では肥満が多く、子どもたちに血糖値が高いというハイリスクな例が見られるなど)が進む中、将来の心筋梗塞や脳卒中、腎不全などの引き金となる状態を喰い止める必要があり、このような子どもたちの現状を正確に把握することが、重要な課題だと考える。

また、発育・発達の観点から、身体の基盤をつくる子ども時代の栄養不良を長く続けることは、成長を妨げるだけでなく、疾病に対しての抵抗力が弱まるため、重症化や直接の死亡につながる可能性があり、栄養改善を行うことは急がれる。

学校給食の「供給量」と「摂取量」の乖離

平成27年度乳幼児栄養調査の結果によると※1、経済的な暮らし向きによって子どもの食生活に偏りが見られる。この、経済的な暮らし向きと食生活の関係は、学童期にもおそらく同様な傾向があると考えられる。

そのような学童期の子どもに、栄養供給面で最も貢献できるのは学校給食だ。しかし現場では「供給量」と「摂取量」との間にはかなりの差があることが知られている。その大きな要因として「残食」をあげることができる。

残食については各校で記録をとっているが、現在は「メニューの人気投票」的な要素が強い※2。残食の中身を検討して児童にどのくらいの栄養が届いているのか等のフィードバックはされていない。

主食・主菜・副菜・牛乳それぞれについて、児童がどの程度食べているのかを知る方法として、たとえば、給食室前に展示してある「見本」のどれくらいを(半分、同量、1.5倍、2倍以上)食べたかを、児童本人に記入させる、などもある。あるいは残食の栄養計算をして、給与量との差から児童の実際の摂取量を推測することもできるのではないか。

並行して、給食以外の食生活を把握するために各家庭の標準的な3日間の食事記録を提出してもらい(様々な問題もあると思うが)その栄養評価を行うことが必要かも知れない。このような方法で、学校と家庭における児童の栄養摂取状況を個別に把握することはできないだろうか。

その結果、もし現状のままでも(すなわち残食等を考慮しても)現在の実施給与量で大多数の児童の栄養状態が概ね良好であるならば、供給量(発注量等)を減らすなどの対策が考えられる。最初から残食の分を減らして発注することができれば、食品ロスもかなり削減できるのではないだろうか※3

そして、その分を栄養不足の児童に捕食をつける、あるいは、献立で野菜の種類を増やす、さらには食材を少しずつグレードアップしてみる等の工夫へと、その予算を振り当てることも可能になるかも知れない。

逆に、全体として栄養状態が良くないのであれば、給食を児童にしっかりと食べてもらうことに真剣に取り組まなければならない。

たとえば、給食を食べる時間を5分延ばした時、10分延ばした時でそれぞれの小学校で残食がどう変わるかなどを知りたく思う。

「学校給食は生きた食育教材」といわれて久しいが、きちんと味わって食べることができているのかも改めて調査してみる必要もあるであろう。それは現状では「給食時間」には「前の授業の後片付けと配膳時間」も含まれるので、実際に「食べる時間」がどのくらい確保できているのかを知ることから始まると思う。

栄養教諭の充分な配置を

さて、これらのことの実施には、学校長の理解がまず必要である。栄養教諭が学校長に申し入れてのスタートになるのだが、栄養教諭制度が始まってから12年が経過した今も公立小学校の栄養教諭数は3,866人※4で、公立小学校(19,642校*5)の5校に1人しか栄養教諭が配属されておらず、栄養教諭の数は充分とはいえない※6

実際の栄養教育には病態栄養の経験・知識も不可欠なので、栄養教諭が足りない学校は、地域の病院栄養士との連携をとるのが望ましいだろう。

まだまだそれぞれの小学校の現場レベルで、栄養不良を解決するためにできることがあるのではないだろうか。限界があることは承知の上でいいたい。学校給食の「供給量」も「摂取量」も、「平均値」を見てOKではなく、子ども一人一人の栄養状態を少しでも改善する方法を探り、たとえ小さいことでもできることを「今」、始めないといけない。

毎日の食生活の積み重ねが丈夫な身体をつくることから、子どもの頃からの予防医学的な栄養教育は国際的にも求められている。ハイリスクな日本の子どもたちを見つけ出し、個別に栄養教育を行うことができれば、子どもたちの健康度は向上するであろうし、経済的な暮らし向きと食生活の貧困さや栄養不良の関係を早期に断ち切ることも可能になるのではなかろうか。

※1 平成27年度乳幼児栄養調査
※2 残食調査三条市
※3 残食の食品ロスの値
※4  小学校 職名別教員数(本務者)栄養教諭数
※5  平成28年度学校基本調査(速報値)の公表について
※6 文部科学省栄養教諭の配置状況(平成27年4月1日現在

執筆者

平川 あずさ

食生活ジャーナリスト、管理栄養士。公益社団法人「生命科学振興会」の隔月誌「医と食」副編集長

あずさの個別化栄養学

食べることは子どものころから蓄積されて、嗜好も体質も一人一人違う。その人その人の物語に寄り添うNarrative Medicineとしての栄養学を伝えたい