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リアル消費者道|森田 満樹

どんなコラム?
巷で紹介される消費者って何だかワンパターン。でも、私のまわりの消費者はもっと多様で面白い。新しい消費者像をリアルに伝えたい。
プロフィール
九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。

食品リコールからみるアクリフーズ事件

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2014年1月23日

 食品リコールにおいて一番重要なのは、健康危害を引き起こすおそれが大きい食品の場合、いかに迅速かつ徹底的に回収するかである。アクリフーズ事件は、これまでの食品の自主回収とはまるで違う。あらゆる手段を講じて、緊急に回収が行なわれるべき案件だったが、それができただろうか。食品リコールと言う観点から、今回の問題を考える。

●最初の記者発表で、肝心な情報を伝えていない

 両社が記者発表をした12月29日時点で、群馬工場の出荷製品で様々な種類の10製品に、高濃度の農薬検出が確認されていた。汚染については現在までに15000ppmなどの数字がひとり歩きしているが、実態は未だにわからない。今後どの程度の危害が発生するか、どこまで拡大するのかもわからない。このため、工場生産品すべてを回収するという、前代未聞の自主回収を判断したはずだ。しかし、両社の記者発表は、大事な点が抜けていた。

 食品リコールで消費者に最初に伝えなくてはならないのは、「健康危害のおそれがあるかどうか」と「自主回収の対象商品」の2点だが、それがないのだ。2013年12月29日17時に最初の記者会見の資料をみると、これまでの経緯が言い訳のようにつらつらと書かれており「万全を期するために」自主回収を実施することにした、とある。

 このうち「健康危害のおそれ」については「消費者はもっと怒るべきだ~アクリフーズ事件」で松永が解説をしたとおりだ。29日の記者会見で問われ、誤った口頭説明をして「危険度はたいしたことはない」とする第一印象を世間に与えてしまった。

 もう一点、「自主回収の対象商品」の情報も不適切だった。食品リコールの告知において、具体的な商品名と商品数は大事な情報だ。しかし、今回のケースは数が多いのでいちいち商品名は掲載できないと判断したのか、それとも間に合わなかったのか。記者発表資料や社告には「対象商品:商品の裏面に、製造者『株式会社アクリフーズ 群馬工場』と記載されている全商品」とあるだけだ。

 これでは対象商品を全て網羅していない。群馬工場で製造する市販の自主回収品の数は49種類あり(PB商品20種類を含む)、そのうち製造者を記載していないPB商品は8種類(10品目)あるが、それが抜けている。この社告では、この8種類(10品目)の製品が自分の家の冷凍庫にあっても、該当するとは思わない。

 29日の記者会見でも当然、対象品について記者から問われている。両社は商品名のリストをこの場で配布しているが、これは品目の抜けがあったり、商品名の誤字脱字があったりして、現在のリストとは異なるものだ(このリストは公表されていない)。このリストにはPB商品も含まれているが、この時点ではPB商品の詳細情報はなく「PB商品には製造者表示がない」と伝えたようだ。このため29、30日の新聞では、記事の中で商品名やPB商品についての情報を掲載しているが、誤報が多い。

●具体的な商品の情報が伝わらなければ、食品リコールは進まない

 こんな社告で、自主回収が迅速に進むわけがない。厚生労働省は12月30日、「農薬(マラチオン)を検出した冷凍食品の自主回収について(第2報)」発表し、健康影響の情報と、商品名リストを開示した。前日の両社の記者会見の間違いを是正すべく、国が正確な情報発信をしたことになる。

 ようやくここで商品名のリストが開示されたが、この内容は小さい字でPB商品とNB商品がごちゃまぜに並んでおり、わかりにくいものだった。ここで、PB商品の商品名は明らかにされたものの、「どこの」PB商品かはわからない。たとえばこのリストの6番め「レディミールラザニア1個入り」は、「アクリフーズ群馬工場」の記載の無いPB商品であることはわかる。しかし、これがイオンの「トップバリュ」の一つであることはわからない。「どこの」PB商品だか、このリストではわからないのだ。

 そこで消費者庁は12月30日、「㈱アクリフーズ群馬工場が製造した冷凍食品は食べずに返品を」と消費者に呼びかける中で、PB商品について販売店の情報も加えたり、群馬工場の記載のないPB商品だけ抜き出したりして、「どこの」PB商品か、追加の情報発信を行った。

 年が明けて1月2日、アクリフーズはウェブサイトにパッケージ画像付きの市販用商品リスト一覧を公開した。厚生労働省、消費者庁もこの商品リスト一覧を転載した。

 1月第2週になって、テレビ等でもこのパッケージ画像と商品名リストを公開するようになり、メディアも一緒になって食品リコールの情報を発信した。また、消費者庁はアクリフーズへの電話がかかりにくい状況が続いていることから、全国の消費生活センターでこの件の相談を受け付けることを決めた。テレビ等では消費者庁の消費者ホットライン(全国統一番号)がテロップ等で紹介されるようになった。ここにきてようやく、自主回収が急速に進むことになった。

 1月8日の全国紙朝刊には、「アクリフーズ群馬工場回収商品ご協力のお願い」とする一面のカラー社告が掲載された。両社はこの告知をもっと早く出すべきだった。このような正確な商品名や画像イメージが一目でわかるような告知がなければ、消費者も自主回収には協力できない。

●アクリフーズがPB商品の情報を発信できなかったのは、なぜ?

 それにしても、今回の商品リストをみて、アクリフーズに製造委託したPB商品がこんなにあったのかと驚いた。私の友人は「中みはみな同じか、と思ってしまった」というが、それは違う。PB商品の製造を委託する側は、原材料、食品添加物、製法など、自社のこだわりを「自分の仕様で」発注したり、時には技術提携を結ぶこともある。

 このため、PB商品の製造を委託する際には、製造者と委託者は守秘義務などを細かく決めて契約を結ぶという。中には製造を委託していることにも守秘義務を課して、「商品企画、設計から品質、お客様対応まで委託者が全て責任をもつので、製造者の情報は一切出さない」ところもある。一方で、委託者が「消費者がどこで作ったか知りたいので、製造者の情報はできるだけ開示する」ところもあり、考え方も様々だ。

 問題は、今回のような緊急事態の場合に、どちらが責任をもって情報を開示するかだ。製造者か、委託者か。アクリフーズの問題はそれがネックになって、12月29日の記者発表の場で、商品名の公表を躊躇したのではないだろうか。

 また、今回の食品リコールで気づいたのは、PB商品の販売者によって、対応がかなり異なるという点だ。日生協は、12月29日にすぐにウェブサイトで告知し、12月31日には全国紙に社告も掲載している。会員にも個別に自主回収を呼びかけている。

 一方、他の販売者はウェブサイトの告知ですましており、その時期もバラバラだ。自主回収にあまり積極的でないような様子がみえる販売者もある。しかし、ここは製造者まかせにせず、販売者も一緒に迅速かつ徹底的にリコールをするという初期対応があるべきではなかったか。特に、PB商品に「アクリフーズ群馬工場」という製造者の記載が無い場合は、なおさらだ。

 初期の段階で販売者が社告などで情報発信をしていれば、「どこのPB商品の〇〇」がアクリフーズ事件を受けて自主回収をしていることがわかる。消費者もそのつもりで、冷凍庫の中をチェックできる。それができていれば、今のような「製造者の記載がないのはけしからん」という話にならなかったのではないか。

 消費者からみると、リコールを呼びかける主体が製造者であれ、販売者であれ、回収対象の商品名がもれなく、正確に、迅速に知らされることが重要だ。こうした不測の事態がおきたときに、委託者はどこまで責任をとるのか、情報開示は誰がするのか、製造者と委託者が事前に取り決めをしておくべきだろう。そちら側の都合で告知が遅れては、消費者としてはたまらない。

 自主回収はまだ終わっていない。1月21日現在で回収率は85.9%(回収対象商品数の想定が640万個、流通在庫が約510万パック、お客様からの返品数が約40万パック)である。回収率だけをみると多いように見えるが、分母の回収対象商品数の想定など、数字を精査しないと自主回収の実態はわからない。

 幸いなことに、現在のところ農薬の混入が原因とみられる健康危害の拡大は確認されていない。しかし、原因がわからず実態も把握できていないことに変わりない。加えて冷凍食品であり、長い期間、冷凍庫の奥に眠っている場合もある。両社には、引き続き自主回収対応を進めて、回収率を上げてもらいたい。

●健康危害に応じた適切な食品リコールを

 現在、日本では年間約1,000件程度の食品リコールが実施されている。しかし、今回のような緊急に回収を要する事例は多くない。同じ農薬でも、たとえば原料由来による残留農薬基準値違反のような場合は、健康危害のおそれはないが、法令違反のため、社告やウェブサイト等で自主回収が行なわれる。これはこれで、もったいない。

 しかし、今回のように緊急事態の食品リコールは、通常の食品リコールの中に埋もれさせてはならない。製造者、販売者、国や地方自治体、消費者は、健康危害に応じて適切な初期対応をするべきだ。

 今後も不測の事態が起きないとは限らない。そのときに誰が責任を持ってリコールをするのか。どうやってそれを消費者に伝えるのか。また、消費者はその情報を受け止めて、すぐに手もとの食品をチェックしたり、その食品を食べずに自主回収に協力できるだろうか。アクリフーズ事件は食品リコールの観点からも、様々な問題を提起している。

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