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リアル消費者道|森田 満樹

どんなコラム?
巷で紹介される消費者って何だかワンパターン。でも、私のまわりの消費者はもっと多様で面白い。新しい消費者像をリアルに伝えたい。
プロフィール
九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。

食品の異物混入 消費者と事業者に求められる対応は?

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2015年1月14日

 食品の異物混入が話題となっています。虫やビニール片など、本来その食品に入るはずなかった異物の映像が、次々とニュースで流されるのは気持ちのよいものではありません。人気商品であればなおのこと、印象に残ってしまいます。

 日本マクドナルドのチキンマックナゲットに混入した異物は、小さなビニール片でした。これまでの異物混入の事例からみれば公表する必要がないと思われる案件です。しかし、チキンマックナゲットは、昨年夏に中国の工場でずさんな衛生管理が明らかになって以来、世間から注目されている商品です。それだけ特殊な事情があるということですが、大きなニュースになりました。

 同社では、他にも異物混入の申し出があったことが明らかになっています。7日には記者会見を開き、4件の状況を説明しています。
ここで記者から「同じようなケースがまだあるのではないか。年間何件くらいあるのか」と問われ、「お客様からの申し出はそれなりの件数はあるが、問題が発生したら保健所に報告し指導を受け、お客様にも説明して理解していただいて責任を果たしている。それぞれの状況が異なり、数字について申し上げることは控える」と答えています。

 食品の異物混入は、それほど珍しいことではありません。世の中の異物混入の件数は、どのくらいあるのか。国では件数をまとめていませんが、東京都では毎年、保健所等に寄せられた苦情件数の内訳をウェブサイトで公開しており、傾向がわかります。

 2012年度は全ての苦情件数が4,867件で、このうち「異物混入」は681件(14.0%)となっています。「異物混入」と一口でいっても、その内容は様ざまです。681件のうち「虫」194件、「寄生虫」27件、「鉱物性異物」109件、「動物性異物」119件、「合成樹脂類」80件、「木」11件、「紙」11件、「繊維」18件、「たばこ」6件、「絆創膏」7件、「その他」99件です。

 データはさらに細かく分類されており、たとえば、「虫」の異物混入のうち「ハエ」27件、「ゴキブリ」71件など。「動物性異物」のうち「人毛(毛髪等)」68件、「爪・歯」は10件などとなっています。また681件のうち施設別にみると382件が飲食店営業で、外食が占める割合が多いこともわかります。

 東京都では1987年から苦情件数を集計しています。この時代からの異物混入の変遷について、実践女子大学の西島基弘名誉教授(元東京都立衛生研究所)が、SUNATECウェブサイトに「異物クレームの実態とその対策」にわかりやすくまとめておられます。1995年くらいまでは苦情件数は年間2千件程度だったものが、食の安全に関心が高まった2000年に5千件を超え、そのころから高止まりしているということです。

 2000年の東京都の苦情件数に遡ってみると、全件数は5,390件で異物混入は年間1603件と、29.7%を占めていました。このうち虫の異物は603件で、2012年度の3倍以上の件数です。(くらしの衛生特集号食品衛生データブック2002)

 他の自治体はどうでしょうか。名古屋市の年間の苦情件数は2012年度1367件で、このうち異物混入等は200件(14.6%)でした。苦情件数のうち異物混入が占める割合は、東京都とほぼ同じです。

 事業者に寄せられる商品苦情やお問い合わせでも、「異物混入」は大きな課題です。日本生活協同組合連合会では情報を開示しており、「CO・OP商品に対する組合員のお申し出件数」を公表していますが、2013年度21,248件のうち、「異物混入」は30%です苦情分類別件数の推移(2008~2012年)をみても異物混入がトップ(P142)となっています。

 一口に異物といっても、虫のように一目でわかるものもありますが、「何かのかけらのようなもの」といった異物は検査機関で分析されます。ものによっては時間がかかりますが、異物を特定できて状態が確認できたら、次はどこで混入したのか原因を特定します。食品工場の製造工程、流通過程、店舗での作業工程、消費者の手に渡ってからか、様々な可能性をつぶしていくといいます。しかし、必ずしも異物や原因が特定できるとは限りません。このため、対応もケースバイケースになります。

 原因がわかったら、再発防止策が講じられます。製造現場では、原料由来の異物混入を防止対策、従業員の毛髪混入防止対策、虫混入防止対策などハード面、ソフト面の対策をたて、異物になるものを持ち込ませないよう徹底されています。食品工場を見学すると、いかに働いている方が大変かよくわかります。十数年前と比べると、製造現場の衛生管理対策は大きく向上していると感じますが、それでも異物混入はなかなかゼロにできないという現実があります。

 多数報告される異物の中でも、もっとも怖いのは硬質異物です。ガラス片や金属の異物は、混入していることを気づかずに食べると、口の中を怪我したり食道を傷つけたりします。

 国民生活センターが、2009年11月に「『外食』先で提供された食品に関わる事故―事故に遭ったときの対処方法などについて―」と題した報道発表資料を公表しています。この中には2004年から2009年までに外食分野で寄せられた事故が1225件報告され、そのうち異物混入は412件と約3割となっています。たとえば「喫茶店で食べたサンドイッチにガラス片が混入。舌を切り、店長同行のもと全治3か月の診断が出た」という事例が紹介されています。

 国民生活センターが発行したリーフレット「くらしの危険 外食先の食品での事故」では、「食事中に異物で事故が起きた場合は、混入の事実を従業員と一緒に確認しましょう。可能であれば混入していたものやその写真、医師の診断結果などの証拠となるものを残しましょう」とアドバイスをしています。

 異物混入と一口にいっても事故を起こすようなもの、気持ちが悪いものなど、様々な事例があることがわかります。食品事業者はそれぞれの状況に応じて「健康被害があるかどうか」「事故が拡大する可能性があるか」の2つの観点から、クライシスのレベルを定め、レベルに応じて自主回収や公表の判断をしています。状況に応じて保健所等に連絡、相談して、最終的に判断をすることになりますが、個別対応で十分な事例もあり、何でも回収、公表ということにはなりません。

 現在、年間で約千件の食品自主回収が行なわれていますが、ほとんどが加工食品の形で販売されたものです。農林水産消費安全技術センターでは、自主回収情報を品目別理由別に月別年度別に集計しています。 また、食品産業センターも食品事故情報告知ネットで、リアルタイムに事故情報を告知しています。これら回収理由をみると、表示違反が半数ちかくで、異物混入は1割に満たないことがわかります。

 食品産業センターの統計では、異物混入は「ガラス片や金属等硬質異物」と、「昆虫・毛髪等生物由来異物及び軟質異物」と、健康影響の2つのレベルに分類されています。2014年に自主回収を行った硬質異物は51件、軟質異物は35件となっています。特に2014年12月は、1か月だけで軟質異物の自主回収が10件報告されています。

 最近の異物混入をめぐる動きをみていると、健康被害がないのに自主回収が行われているケースが増えているように感じます。企業のプランドイメージを守るためにそのような判断をすることもあるでしょうが、まだ食べられる食品を捨てるのは、もったいないし、食品の廃棄ロスや環境負荷の増大にもつながります。回収コストがまわりまわって消費者の負担につながることも懸念されます。

 自主回収を決めるのは事業者の判断ですが、消費者として望ましい自主回収の形を考えようと、2012年にNACSから「リコールガイドライン」を提案しました。異物混入は、健康リスクに応じて適切な対応をしてほしいと考えをまとめたものです。

 一方で、異物混入を取り巻く環境は、変わってきているようです。消費者が食品製造の現場を知る機会は少なく、異物混入の実態や現場の取組みなどは伝わらず、異物に対して不寛容になってきているように感じます。異物が入っていたらお客様相談窓口に連絡する前に、SNS等で画像を掲載するなど企業とのアクセス方法も変わってきました。消費者と企業とのコミュニケーションが図りにくく、個別対応の問題解決が難しくなってきているようにも思えます。

 消費者は異物混入に遭遇したら事業者に異物の状態をきちんと伝えること、それをもとに事業者は原因究明と再発防止を確実に講じること―それが消費者と事業者に求められる対応の基本です。消費者の申し出と、事業者の対応がうまくつながれば、製造環境の衛生管理が向上し、異物混入の減少につながり、消費者の事業者への信頼にもつながるはずです。消費者と事業者とのコミュニケーションという面からも、異物混入問題は課題を投げかけているように思います。(森田満樹)

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