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リアル消費者道|森田 満樹

どんなコラム?
巷で紹介される消費者って何だかワンパターン。でも、私のまわりの消費者はもっと多様で面白い。新しい消費者像をリアルに伝えたい。
プロフィール
九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。

福島の桃 おいしく頂きましたーその2

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2011年9月8日

 前回、「福島の桃 おいしく頂きました」というコラムを書いたところ、福島県の農業関係者の方からご連絡を頂いた。「震災後は応援ムードもあり、それなりに取引されてきていましたが、7月の牛肉での放射性セシウム検出を機に状況が悪化しています。福島県の桃は半数程度が個人の贈答向けに宅配便で売られていましたが、それが完全にストップして共選(森田注:共同選果のための作業場)に桃があふれています。価格も、通常3,000円程度である5キロ箱がいま800円です。再生産どころか経費も出ないという水準で、生産者は精神的にも非常に参っているという印象です」という。

 私が8月下旬に都内の量販店で購入した時は、1箱18個入り5キロ箱で1500円。風評被害の影響を受けているとしか思えない価格だったが、そこまで取引価格が下がっているとは思わなかった。大変な思いをしている桃農家を少しでも応援したい。桃のシーズンはもうすぐ終わってしまう。数年前の夏、福島市内の観光果樹園で桃狩りを楽しんだことを思い出して、早速出かけることにした。

 私のお目当ての観光果樹園は、福島内の北西部にあるフルーツラインとピーチラインと呼ばれる道路の、ちょうど交差するあたりにある。このあたりはその名のとおり、サクランボ、桃、ブドウ、リンゴなどの観光果樹園が道路沿いに立ち並ぶ。桃は最盛期を過ぎているが、それでも店頭にはたくさんの桃が並んでいる。さっそく話を聞いてみた。

フルーツラインの観光果樹園

 「お客さんは例年の2割程度でした。フルーツラインを通る車自体が少なかった。うちの果樹園は観光収入よりも、お得意さんからの注文販売が主流なのですが、贈答用の注文数が減りました。それでも最初のうちは、良かったんですよ。それが牛肉問題以降、急に注文が減り、7月20日ごろには例年の半額に引き下げなくてはならない状況になりました。8月中旬には農協に持っていくことにしましたが、例年の4分の1の取引価格にまで落ち込みました」。

 お盆過ぎに、東京の量販店で大売出しとなったのはそういう理由だったのか…。「それでも、桃は出荷停止にならなかったから本当に良かった。知り合いには、出荷停止になった農産物を作っていたところもありますからね。出荷停止になったら補償がもらえるからいいだろうと思われるかもしれませんが、JAに出荷せず個別に取引している農家の場合は、補償請求の交渉も自分たちでやらなければなりません。手続きも大変で時間もかかります。野菜の農家などは、これを機に農業を止めるところも出てきています。桃は、今年は採算があわなかったけれども、誰かが食べてくれるだけでもいい。果樹ですから、野菜のように植え付けをすぐやめるというわけにもいきません」。

 店頭に目を向けると、これまで見たことがないような品種のものが並んでいる。東京では福島県産の桃は『あかつき』という品種しか見たことがないと伝えると、「今の時期にしか取れない品種です。ピンクの果皮が濃いのが『ゆうぞら』、夕焼けのような色でしょう。こちらが果皮も果肉も黄色い『黄金桃』、こちらが白桃の『川中島』です」と説明してくれた。こちらの果樹園では10種類ほどの桃を栽培しており、7月の早生の時期から2週間おきにいろんな品種が出るという。桃狩りをしながら試食をする。

 ゆうぞらは、皮が赤くて産毛のような短い毛がたくさん生えている。皮を剥くと果肉はピンクで、実はしまって甘みが強い。流通量は少ないが9月いっぱいまで楽しめるそうだ。黄金桃は、マンゴーのようにねっとりとしていて、独特の芳香とさわやかな酸味もある。川中島は白桃の王道のような味だ。そのおいしさ、珍しさに驚いた。そして、日本の果物の栽培技術が、世界に誇れるものであることを思い出した。

左からゆうぞら、川中島、黄金桃

 

 私は数年前、タイに2年間ほど住んでいたのだが、日本の桃が売られているのを高級デパートで見たことがある。1個1000円くらいだった。中国産や米国産のネクタリンの5、6倍はするが、日本の果物はその美しさ、おいしさに定評があり、タイの一部の富裕層に人気が高い。今回の原発事故の影響で、輸出用の果物も大変な打撃を蒙っている。ニッポンブランドの果物ファンの外国人も、さぞやがっかりしているだろう。

 そんなことを思いながら、私は自宅用、実家用、お世話になった人宛てに「ゆうぞら」を送った。宅配便の送料の方が高くなるほど、桃が安く販売されているのを見ると何とも申し訳ない気持ちになる。

 福島県は8月17日、農林水産業復興を目的に、「ふくしま 新発売」プロジェクトを始めた。福島県出身のタレントをサポーターにPR活動を行い、放射性物質の検査結果を検索できるウェブサイトを立ち上げるなど、農産物や水産物の安全性を広く発信するという。そういえば最近、近所のお店で、福島の農産物に県知事の写真入りのメッセージが表示されているのをみかける。そうした活動も結構だが、福島の農産物の検査結果の大多数が不検出か、暫定規制値を大きく下回っているという全体的なトレンドが何とか伝わらないものか。

 それにしても出荷制限を受けたことが無いような農産物まで、ここまで風評被害を蒙る現状をどう考えたらいいのだろうか。日本の農業現場は高齢化が進み、これを機に離農する人が増えれば技術の継承もままならない。これから福島の農家が農産物を作り続けるために、どんな情報が不足しているのか、それぞれがどう対応したらいいのか―答はまだ見つからない。

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