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リアル消費者道|森田 満樹

どんなコラム?
巷で紹介される消費者って何だかワンパターン。でも、私のまわりの消費者はもっと多様で面白い。新しい消費者像をリアルに伝えたい。
プロフィール
九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。

「毒ギョーザ事件がまた起こる社会?」中国の食品安全の現状は

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2012年10月18日

 尖閣諸島国有化後の日中関係の悪化を受けて、「中国産食品はやはり危ない」という報道が一部でみられます。日本人への怒りから中国の生産現場で毒物が混入されて、2008年の中国餃子事件と同様の事件がまた起こるのでは、といった内容です。

 しかし、中国餃子事件以降、日本向け輸出食品は安全性確保のために現地では様々な努力がなされています。フードテロ対策の措置も講じられるようになっています。だからこそ、政治問題と食品の安全は分けて考えるべきだろうと思っていました。しかし、先日ある専門家の講演を聞いて、思わず考え込んでしまいました。

 10月2日に開催された、農林水産省・農林水産政策研究所の河原昌一郎・国際領域上席主任研究官による研究成果報告会「中国の食品安全問題―食品安全に関する中国の現状と取組―」です。霞が関の政策研の研究成果報告会には時々参加するのですが、今回はいつもの会場に入りきらないほど、多数の参加者であふれていました。

 河原研究官は、中国に関する問題について主に農業農村を対象に政治、経済、社会の各面からの調査、分析を行う専門家で、多くの論文を政策研のウェブサイトで読むことができます。
 当日の講演プログラムは、1)中国の食品をめぐる一般的な状況、2)中国の食品安全の現状、3)中国の食品安全への取組と食品安全法制定の経緯、4)食品安全法の内容、5)食品安全制度の実施・検査体制、6)中国の食品安全の課題、でした。

 講演内容の中で印象に残った部分を抜き出してみます。

1) 中国の食品工業は2002年に1兆元(1元=12.5円)だったのが、8年間で約6倍に増加、特に乳製品の生産量は年平均5割ちかく増加している。規模別にみると、企業数は従業員10人以下が8割近くを占めているがその市場占有率は1割に満たず、零細企業が多くて利益の少ない、劣悪な生産状況のところが大多数を占めている。また、中国国内の農産物の流れをみると、中国には農協は無いのが特徴で、個人取引が基本であり、個人農家のトレーサビリティは免除されていることが問題である。

2) 中国の食品安全に対する住民意識調査の一例をみると、都市住民(北京、上海)の半分以上が中国の食品安全状況に不満を持つ。特に心配する問題として偽物食品(ブランド品の名を偽装したコピー品)の横行を心配している人が最も多い。都市部の中国人は食の安全に関しては悲観的だ。中国での食中毒事件発生状況は、中国衛生部の報告しかなくこれは氷山の一角。2010年の報告件数220件(中毒者数7388人)のうち、微生物性食中毒が81件(中毒者数4585人)とトップで、化学性食中毒は40件(882人)となっている。社会的影響の大きい食中毒の事例として、地溝油(ゴミ油:下水溝にたまった脂っこい浮遊物を抽出してできた油)、人毛醤油(毛髪からアミノ酸を抽出して醤油の製造に利用)、メラミン混入粉ミルク(メラミンを混入して窒素含量を増加させる偽物食品)などの事件が後を絶たず、全然なくならない。食品回収が命じられても未だに回収率は低い。中国はこういうことをする人がたくさんいて、それが悪いことと思われない社会である。

3) 中国の食品安全制度は、2004年から食品衛生法改正が着手されて、外国での名称を参考にしつつ「食品安全法」と名称変更が行われて2009年に施行されたのが大きな転換点となった。

4) 2010年には国務院食品安全委員会が設立され、これが中国の食品安全委員会と言われているが、日本とは似ても似つかない。中国の食品安全委員会の構成は委員15人によるが、中国の副総理などの3人の名誉職がトップで、他は関係行政機関の長。日本のように食品安全の専門家から構成されているわけではない。

5) 中国の食品安全関係機関の中で最も有力なのは、国家品質監督検査検疫総局(質検総局)で、全国に35の直属検査検疫局を設置している。権限が強く、食品生産加工企業の品質安全に係る監督、輸出食品生産企業の登録管理に関する業務を行っている。中国の検査体制は二重基準で、輸出入と国内ではまるで違う。輸出入検査は中央の直轄で直属の検査検疫局が行っている。一方、国内は直属組織ではなく、地方の衛生部に依存しており、金が無いので検査は実質行っておらず、安全管理は機能しておらず、国内向け食品は非常に不衛生。

6) 食品の安全の確保のためには、政府の指導、企業の自覚、消費者の監視という三つの要素が三位一体となって機能することが必要だが、中国社会は報道面でも規制は厳しく、消費者の監視機能は無い。消費者が企業を批判することは行政批判となり、そのような自由は消費者には与えられていない。このように中国の食品安全問題は、体制的、社会的な問題を背景としており、短期間の問題解決は困難である。そのような国から輸入する食品については、生産過程が適正に管理がなされ、生産履歴について透明性が確保されたものが必要だ。中国国内で一般に流通しているものを安易に輸入してはならず、輸入業者の責任は重大である。価格や量的充足を求めるよりも、国民の健康が優先することは論を待たない。

 そして、講演の結語は「今は日本の担当者が農地に出かけて、現地法人の生産過程を管理しているが、これを中国法人に任せるとすぐに事故が発生するだろう。現地化は無理で、何があってもおかしくない。いくら中国法人が任せてほしいと言っても、2008年の天洋食品の毒ギョーザは中国法人に任せて起きた事件である。現地に任せたら、毒ギョーザ事件がまた起こる社会であり、そのことを、輸入業者は十分に認識すべきだ。結局、日本人の食の安全は日本人が守るしかない」ということでした。

 これを聞くと、消費者として中国の食品をどう考えていいのか、混乱してしまいました。そこで思い切って質問をしてみました。

(森田の質問) 確かに中国の国内向け食品は問題が多いと思いますが、日本向けに輸出されている食品は生産から輸出まで日本向けの管理が行われており、自主検査なども充実しており、中国国内の食品安全とは分けて考えるべきではないでしょうか。そうでないと消費者は混乱してしまうと思います。

(河原研究官) 日本向け輸出は、自主検査等で努力していると思います。ただ、これはあくまで輸出向けであって、本来は国内がよくならないと、国内が輸出に回される可能性もあります。中国全体が良くならないとダメです。いくら日本向けの独特の管理でやっていても、その背後には問題のある食品があるという背景があります。ほんの一部の食品だけが管理されている社会がいいのでしょうか。

日本向けのものは商売だから、それはちゃんとしたものをやっていたとしても、大部分の背景の問題をなくさず、相手のものだけをよくやりましたということ、そのこと自体が問題です。まだまだ中国には、安心できないものがあり、中国の国内がよくなっていかないとダメ、中国の食品に対する警戒を緩めてはダメです。

(森田) 仰ることはわかりますし、だからこそ日本の消費者は中国の食品を不安に思ってしまうのでしょう。しかし社会的背景ということでいえば、米国の方がいいのでしょうが、日本における輸入検疫の違反件数について、輸入件数に対する違反率でみると米国の方が高いといえます。社会的背景に配慮していたら、消費者はいつまでも中国のものを食べられませんが、そこは厚生労働省が港での輸入食品の検査体制を充実させて、安全性を担保していると理解しているが、どうでしょうか。

(河原) 検査や違反は中国政府がやっているが、私は中国政府のことを信用しないですね。違反率といっても全量検査をしているわけではないんです。ごく一部しかやっていない。やはり背景となっている社会をみないとその国の食品の安全は理解できないと思う。全量やって違反率が低ければいいが、そうではないんです。

それから日本向けだけにつくったものを、それを食べたらいいのかということあります。私は中国政府の姿勢に非常に疑問に感じていて、自分たちの国民の安全を差し置いて、なぜ輸出なのか。そんなこと言ってないで、自国民のことを考えないのか。そういった国の作るものをもちろん輸入禁止しろというわけではないが、中国の食品は安心できない。まずは自国民に安全のものを食べさせてください、と強く申し上げたいと思います。中国の安全問題、日本人はそこを見極めていかないといけないと思っています。

 以上がやり取りです。さすがに全量検査を持ち出されたときは、厚労省の検疫体制についてもう少し理解しておいていただければ、と思いましたが、消費者が食を選ぶときに、社会的背景も考慮して考えるべきという主張はわかりました。

 しかし、後から輸入食品に詳しい知人に「あなたは質疑応答でムキになりすぎ」と言われてしまいました。しかし、ムキになるのはわけがあるのです。確かに中国の食品安全の仕組みには大いに問題はありますが、だからこそ中国に進出している企業は日本人を中国側パートナー企業に駐在させて、日本の基準に合致するよう、生産工程のそれぞれにおいて品質向上のために指導をしています。

 昨年11月、私は輸入冷凍野菜品質安全協議会に招かれて、中国山東省で日本向けに生産する事業者のほ場、冷凍野菜製造工場、自主検査機関を視察してきました。

 そこで働く日本人駐在員にも大勢会うことができ、品質保証専門の技術者集団が現地での残留農薬ガイドラインを作成して、評価制度を創設するなど様々な実績を重ねている様子を知ることができました。生産ほ場も見学しましたが、高いフェンスに鉄条網が張られていて、外から農薬が散布されることがないよう厳重に管理されていました。また生産工場の中は、これでもかというほど監視カメラで従業員の行動をモニタリングしていました。それを知人に言うと「あなたは、いいところだけを見せてもらったんだよ」と反論されてしまいました。

 この問題に関わっている日本の技術者たちは、中国の国家品質監督検査検疫総局や分析機関を巻き込んで、中国の検査分析技術の支援・協力事業を行い、中国のパートナー企業の分析技術のレベルアップにも貢献しています。食料の多くを輸入に頼る日本の現状がある中で、相手国の社会的背景を考慮しながらも、行政機関や民間レベルの品質保証の専門家同士の交流・親睦を深めていっている人たちが、確かにいるのです。

 中国だけではありません。たとえば東南アジアの途上国は、日本に輸出する品質を確保することで、自国の経済を成り立たせているところも多いのですが、彼らの貧しい社会的背景をどう考慮すればいいのでしょうか。異国の人がどれだけ商売の為に努力をしているのかをみると、それを有難く食べるのがなぜいけないのか、考え込んでしまいます。

 今回の講演は農水省の研究者の発表であり、中国の一面の真実でしょう。しかし、その現実を踏まえたうえで、民間は努力して日本向け輸出の安全性を、中国で構築してきたのだと思います。そしてそれを必要としているのは、日本の消費者です。

 日本は確かに安定した社会背景の国であり、日本の食品だけで足りるのであれば輸入食品は必要ありません。日本の現状は、農業人口の減少や高齢化によって自給率は減少し、加工してくれる安い労働力もありません。安定供給される安価な輸入食品が無くなれば、私たちのくらしは立ちゆきません。そして輸入食品の安全性を確保するために、厚労省が行っている輸入食品監視指導システムが拡充されてきたのです。

 日本の今後の食料政策をどうするのか、重要な政策研究を担っている研究者の方々とともに縦割り行政を超えて、生産者や事業者、消費者の議論が深まる場が増えればいいと思っています。(FOOCOMメールマガジン第73号より一部加筆修正のうえ転載)

 以上、私の中国食品に対する逡巡なのですが、これに対してFOOCOM「新・斎藤くんの残留農薬分析」を連載中の斎藤 勲さんから、さっそくご寄稿頂きました。
中国のカントリーリスクを捉えつつ、現地で汗をかいて技術支援をしている専門家のお立場からのご意見です。ぜひ、お読みください。

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