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リアル消費者道|森田 満樹

どんなコラム?
巷で紹介される消費者って何だかワンパターン。でも、私のまわりの消費者はもっと多様で面白い。新しい消費者像をリアルに伝えたい。
プロフィール
九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。

TPP交渉参加 改めて日米の食品添加物の制度を考える

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2013年4月26日

 日本のTPP(環太平洋経済連携協定)協定交渉が進む中で、「TPP参加によって食の安全が脅かされる」と懸念する報道をよく見かけます。特に最近、日米両政府の事前協議(2013年4月12日発表)の内容を受けて、食品添加物の基準が緩和されるといった記事が目立つようになりました。

 たとえば4月13日の日経新聞では、「米側が日本の食品添加物の審査手続きを早めるように求めた。日本が認める添加物は約800種類で米国は3000種類ある。日本で規制緩和が進めば米国の食品メーカーの輸出増につながるとみている」と報道しています。

 また、4月20日の朝日新聞は「米国で使える添加物は約1600種類なのに対し、日本は653種類で、輸出できないお菓子などがある。この種類を増やす審査は申請から1年半ほどかかるが、米国はもっと速くしろと主張している」「米国の要求は消費者には心配だ」と伝えています。

 2つの記事は添加物の数こそ異なりますが、趣旨はほぼおなじで、(1)米国は日本よりもはるかに食品添加物の数が多い、(2)TPP参加によって米国は一方的に添加物の基準の緩和を求める、(3)それによって米国は食品の輸出増につながるメリットがある、という内容です。この記事を読む限り、日本の食品添加物の数がどんどん増えてしまうのではと、心配になってしまいます。

 しかし、食品添加物のルールは国によって大きく異なり、基準を取り巻く環境も十数年前から変わってきています。実際のところどうなのか、1つずつ調べてみました。

(1)米国は日本よりもはるかに食品添加物の数が多い?

 食品添加物の定義や規制は、国によって異なります。日本は、食品衛生法によって、食品添加物のルールが定められ、「指定添加物」「既存添加物」「天然香料」「一般食品添加物」の4種類に分類されます。

 「指定添加物」は厚生労働大臣が安全性と有効性を確認して指定したもので現在432品目、既存添加物は長年の使用実績から引き続き使用を認めたもので365品目、この2つで合計797品目となります。日本の食品添加物の数といえば、この数字が用いられることが多く、日経新聞の約800という数字はここからきたものでしょう。

 この指定添加物の中には、合成香料が約140品目含まれています。朝日新聞の食品添加物数は、先の797品目から、この合成香料を除いた数字です。
 食品添加物の数でややこしいのは、香料のカウントです。指定添加物の香料の中で、類または誘導体で指定されている18品目の香料については「18類香料リスト」としてさらに具体的な品目があり、その数は3100品目に及びます。

 さらに、「天然香料」については、りんごや緑茶などの天然物質から着香を目的として添加される場合は、基原物質として約600品目があります。先の指定添加物と18類香料リストとあわせると、香料だけで3800品目ちかい数になります。

 また、「一般に食品として飲食に供されているもので添加物として使用されるもの」とする「一般飲食物添加物」が約100品目リストにありますが、この数を使用可能な食品添加物の品目数に加える場合もあります。日本の食品添加物の数は、4分類をどう足すか、香料をどう数えるかによって、まるで違ってきます。

 一方、米国の食品添加物のルールも複雑です。米国における「Food Additives(食品添加物)」は、米国食品医薬品化粧品法(The Federal Food, Drug, and Cosmetic Act)によって定義づけられ、安全性と有効性についてFDA(米国食品医薬品局)が認可したものが使用できることになっています。日本の指定添加物制度に似ているようですが、着色料を除くなど、食品添加物の範囲は異なります。

 この「Food Additives(食品添加物)」の施行規則及びリストは、連邦規則集(CFR)のtitle21に記載があり(年号を設定しGOをクリック、title21の項目)、「食品の製造に直接添加する食品添加物(part172に収載)」「副次食品添加物(part173に収載)」等をあわせると、約600品目(香料約950品目を除く)がリストアップされています。これだけだと、日本の指定添加物と比較しても極端に多いということではなさそうです。

 米国ではこれに加えて、「GRAS物質(一般に安全と認められる物質:Generally Recognized As Safe)」というカテゴリーが設定されています。長年の食経験があったり、安全性データなどから科学的評価が行われたりする場合に、食品や食品添加物として使用が認めようというものです。1958年以降、FDAがGRASリストとして公表してきた「申請GRAS物質」の数は約380品目となっています(CFR・title21のpart182)。ここでは、日本では食品添加物には入らない塩、コショウといった調味料、香辛料から、ソルビン酸のような保存料まで、幅広く収載されています。

 その後、GRAS制度は時代とともに変遷し、1997年以降は任意の制度が導入され、「届出GRAS」と「自己認証GRAS」の2つに移行しました。「届出GRAS」では、事業者が製造方法と規格、安全性データを揃え専門家の評価を受けたものについて、まずはFDAに届出を行います。FDAから「異議なし」の回答があれば、届出GRASとしてリストに収載されることになります(CFR・title21のpart184)。現在、この届出GRASの数は約260品目となり、オリゴ糖や酵素、酢酸など様々なものが収載されています。

 そして、日本と明らかに制度として異なるのが「自己認証GRAS」でしょう。基本的な判断基準は従来のGRAS物質と同様ですが、FDAに届出の必要がありません。最近では、サプリメントの素材などにも用いられるようになってきました。正確な数は定かではありませんが、約400品目ちかくあると言われています。事業者にとっては、まず自己認証GRASをとった後で、届出GRASにチャレンジをするケースも多くみられます。

 以上のようにGRAS物質の中には日本の食品添加物とは明らかに異なるものも多く含まれ、GRAS物質の数をそのまま食品添加物の数としてカウントするのは適切ではありません。それでも米国の「Food Additives(食品添加物)」「申請GRAS物質」「届出GRAS物質」「自己認証GRAS物質」と数を積み上げていくと、朝日新聞が言うところの約1600品目(香料を除く)になります。
 なお、この中には着色料は入らず、米国では色素添加物は、食用以外の医薬品用、化粧品用も含めて許可された着色料として、別途設けられています。

 一方、米国では香料は、「Food Additives(食品添加物)」としての香料、「GRAS物質」としての香料に加えて、米国食品香料工業会が安全性を確認した香料(FEMA GRAS物質)が使用可能となっており、その数を合計すると約2600品目(合成香料2300品目、天然香料260品目)となっています。この数は、日本よりもかなり少ないことがわかります。

ここでざっくりと香料を加えて食品添加物の数の日米比較をしてみると、両方とも4000を超える品目数となり、大きな差が無いことがわかります。日経新聞の報道で、米国が3000種類とは、どうカウントをしたのかわかりません。しかし、日米の制度の違いや定義を明確にしないまま、一部を取り出した数字で比較することは意味が無く、読者を誤解させてしまうことになるでしょう。

(2)TPP参加によって、米国は一方的に添加物の基準の緩和を求める?

 それでは、米国は食品添加物にかんして、何を求めてくるのでしょうか。4月12日の日米協議の合意概要には、「2. 日米間でTPP交渉と並行して非関税障壁に取り込むことを決定」とあり、「世界貿易機関(WTO)の衛生植物検疫措置の適用に関する協定(SPS協定)に基づき、並行二国間交渉の中で取り組む」とあります。

 この日米協議に先立ち、米国通商代表(USTR)が4月1日に発表した報告書の中では、「7その他分野及び分野横断事項の障壁」の一つとして「食品添加物申請に要する長いリードタイム」について懸念を表明しています。これらのことから新聞報道では、「米国は、食品添加物を認める審査を速めるよう求めている」ということになったのでしょう。

 しかし、このUSTRの報告書の記述は、毎年のことです。食品添加物の審査を速めるような圧力は、今に始まった話ではありません。しかも米国からだけでなく、EUからも指摘されてきたことでした。

今から約10年前、2002年に日本国内で輸入食品の指定外添加物の違反事例が相次ぎ、国際的に安全性が確認され汎用されている未指定添加物については、指定する方針が定まりました。食の国際化が進展する中で、日本の食品添加物の基準も対応を求められることになったのです。

 この時の指定のための条件は、(1)JECFA(FAO/WHO合同添加物専門家会議)で国際的に安全性評価が終了し一定の範囲で安全性が確認されているもの、(2)米国およびEU諸国等で使用が広く認められており国際的に必要性が高いことが予想されているもの、の2要件でした。当時は46品目が選定され、順次指定が行われてきましたが、そのスピードが遅く、その点をずっと欧米から指摘されてきたのです。

 2012年7月の時点で、まだ指定されていない残りの15品目について、おおむね1年程度で指定するようロードマップが策定され、2013年3月29日時点で2品目が指定され、残りについてもスピードアップをして指定の手続きを進めているところです。とにかく、なかなか進まないのです。

 USTRが記述するところの「食品添加物申請における長いリードタイム」は、この10年間の国際汎用添加物の指定について、日本の作業の遅さについて言及したものでしょう。日本では食品添加物の基準を新たに定めるために、食品安全委員会のリスク評価が必要であり、たとえ国際汎用食品添加物の指定であっても10年で40品目の指定もできないほど、慎重に対応をしてきたのです。

 こうした経緯を踏まえれば、米国の要求は、とにかく目の前にあるものを早く進めてくれといったところからでしょう。規制を緩和しろといっても、まずは「Food Additives(食品添加物)」からで、いきなり「自己認証GRAS物質」のような品目について規制緩和を求める無茶をいうとも思えません。もしそんなことになれば、日本の食品安全行政上許されることではなく、それはちゃんと監視していかねばなりません。

 報道では厚労省担当者は「米国に言われたからといって好きにできる仕組みではない」「TPPに参加しても、安全ではない基準を認めることはない」というコメントをしていますが、本当にそうであってほしいと思います。

(3)TPP交渉で、米国は食品の輸出増につながるメリットがある?

 TPP交渉の報道で気になるのは、食品添加物の基準がどんどん緩和されれば、米国は食品の輸出増につながるメリットがある、という一面的な構図です。しかし、食品添加物の基準は日本の方が米国よりも厳しいものもあれば、緩いものもあります。どちらかだけがメリットのあるものでは無いはずです。

 たとえば着色料であれば、日本で使われているクチナシ色素やベニコウジ色素が米国では使えません。米国に住む私の友人は「こっちでは、桜餅やきんとんがおいしそうに見えないのよ。派手な色のグミキャンディーはあるのに」と嘆くことしきりです。

 これまで日本で開発された食品添加物はなかなか国際的に流通せず、日本食品の輸出にも一定の歯止めがかかっていました。今後、TPP交渉が進めば日本の食文化とともに日本の食品添加物を広げるチャンスにもなるかもしれません。日本発の食品添加物の基準を米国に作らせよう、くらいの声があってもいいのでは、と思うのです。

 しかし、ここではたと気づきます。日本の既存添加物で天然の着色料の中には、安全性データが十分でないものもあり、これを米国で果たして認可されるでしょうか。米国のほうが、安全性評価の仕組みが厳しいのではないかと思ったりもします。

 こうして、改めて食品添加物の制度を調べていくと、いろいろなことがわかります。TPP交渉参加を一面的な数合わせ議論に留めず、日本の食品安全の論理や仕組みと海外の思想や仕組みをしっかり比べて、学ぶ機会と捉えてみたいと思います。

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