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「新たな食品の機能性表示制度」の行方を憂慮する(高橋久仁子さん)

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2014年7月2日

1.はじめに

群馬大学名誉教授 高橋久仁子さん

群馬大学名誉教授 高橋久仁子さん

 昨年(2013年)の6月5日に規制改革会議が「一般健康食品の機能性表示を可能とする仕組みの整備」を盛り込んだ答申を発表し、6月14日には「規制改革実施計画」が閣議決定されました。いわゆる「健康食品」に機能性表示を認めることが日本経済の活性化をもたらし、健康長寿社会の実現に寄与するとのことです。消費者庁には「新たな食品の機能性表示制度に関する検討会」が設けられ今年の6月26日には第7回の会合が行われました。
 1年を経て、とにかく新たな制度ができようとしている今、「健康食品」に苦言を呈し続けてきた立場から現状を整理してみました。

http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/publication/130605/item1.pdf

http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/publication/130605/item1.pdf

2.特定保健用食品の効果は限定的

 foocom読者のみなさまはご存じのことですが、特定保健用食品(トクホ)と栄養機能食品を例外として食品に「効能・効果」的な文言、すなわち「機能性」を書くことはできません。何らかの保健効果を期待して経口摂取する「健康食品」も同じです。
 現行のトクホは「保健機能」が「認められた」とされる食品ですが、その効果は非常に限定的です。トクホが抱える諸問題を放置したまま、いわゆる「健康食品」や農産物が機能性表示をしたら消費者の混乱は増すばかりです。

 「答申」(囲み参照)では、トクホは許可を受けるための手続きの負担が大きいので、もっと簡単に機能性を表示できるようにすべきであると書かれています。しかし、「審査を経て許可を受けた」はずのトクホでさえ、その効果があまりにも小さいことが消費者には伝えられていません。トクホはヒトを対象に行った実験で一定の効果が得られたことは事実ですが、「多大な効果あり」と期待するのは禁物です。「体脂肪が気になる方へ」との表示が許可され、「腹部脂肪を減らす」とグラフ付きで宣伝する4例の「効果」を紹介します。

(1)高濃度茶カテキン飲料:この飲料を一日1本、12週間継続飲用した結果、「腹部全脂肪面積が24.5cm2減!」との線グラフが掲載されていますが、被験者の平均腹部全脂肪面積は320cm2とのこと。「24.5/320=0.077」なので腹部脂肪面積は7.7%の減少です。体重は70.52kgでしたが1.25kg減少しました。
(2)クロロゲン酸コーヒー飲料:12週間にわたり継続飲用した結果、「おなかの脂肪が9.3cm2低減」との線グラフを宣伝に使っています。被験者の平均腹部全脂肪面積は350cm2とのことで脂肪の減少率は「9.3/350=0.0266」、すなわち2.7%です。体重は75.8kgでしたが1.5kg減少しました。
(3)ケルセチン配糖体飲料:この飲料を継続飲用した結果、「8週目から体脂肪の低減が認められました。」とあり、減少を示す折れ線グラフは載っているのですが、飲用開始時の脂肪面積も、出典論文も記載がありません。これでは減少率を計算できないので、当該企業に問い合わせてようやく出典論文を知ることができ、そのものを入手しました。飲用開始時の平均腹部脂肪面積は292.26cm2で、8週目の変化量が「-10.58cm2」ですから「10.58/292.26=0.036」、すなわち減少率3.6%です。「減少した」と宣伝のグラフでいいながら飲用開始時の面積も、出典論文も書かないのはお粗末すぎます。体重は69.74kgでしたが0.14kg減少しました。
(4)ウーロン茶重合ポリフェノール飲料:ウェブ上の製品サイトには「腹部全脂肪面積変化量の推移」と表題のついた折れ線グラフが載っており「お腹の脂肪:-11.32cm2」とはありますが、飲用開始時の脂肪面積は書かれていません。しかし先ほどの飲料とは異なり出典論文は記載されていたので、この論文を入手したところ、飲用開始時の腹部脂肪面積が実験群では339.04cm2とのこと。計算すると「11.32/339.04=0.0334」なので、減少率は3.3%です。体重は75.72kgでしたが1.49kg減少しました。

 「許可を受けるための手続きの負担が大きい」(答申中の文言)トクホでさえ、その効果はこの程度です。このことを無視してなぜ新たな制度ができるのでしょうか。

3.「健康食品」の健康問題

 なんらかの保健効果を期待して経口的に摂取する製品をいわゆる「健康食品」と総称しています。このうち、錠剤やカプセル、粉末など、医薬品を連想させる形態の製品を「サプリメント」と呼ぶ風潮もありますが、「健康食品」にも「サプリメント」にも定義はありません。しかも「体に良いらしい」との期待で利用するにも関わらず健康被害が生じることがあります。筆者は「健康食品」の健康問題を次の7点に整理しています。

(i)有害物質を含むものがある:クロレラ錠剤中に葉緑素の分解物であるフェオフォルバイドが大量に含有されていたために、利用者が重症の皮膚炎を起こした事件がありました。

(ii)医薬品成分を含むものがある:動物の甲状腺粉末が配合された痩身用健康食品で甲状腺機能亢進を起こすことがあります。医師の処方がなければ使えない医薬品・グリベンクラミド(血糖降下薬)を添加した製品で低血糖症を起こして死亡した人がいました。

(iii)有害物質は含まないが特定の人に有害作用をもたらすものがある: 腎機能が低下しタンパク質摂取制限の必要な人はタンパク質関連物質であるプロテイン製品やコラーゲン、アミノ酸配合製品を摂ってはいけません。クロレラ錠剤もタンパク質量が多く、これらを摂取するとよけいなタンパク質を摂取することになってしまい、体に悪いのです。

(iv)抽出・濃縮・乾燥等による特定成分の大量摂取:「医薬品ではありません。食品だから安全です」は「健康食品」の常套句ですが、根拠はありません。たとえ「それ」が食品そのものや食品に含有される成分であっても、抽出・濃縮・乾燥等によって「それ」を大量に摂取すると、元の食品をたくさん食べることでは起こりえない有害事象を引き起こすことがあるのです。アレルギー性の肝障害や腎障害を引き起こすことにもつながります。β-カロテン摂取による喫煙者の肺がん罹患率増加、α-リポ酸錠剤摂取によるインスリン自己免疫症候群など、事例はたくさんあります。

(v)食生活の改善を錯覚させる:ビタミンやミネラル、食物繊維などを配合した製品や、野菜乾燥粉末を粒化した製品があります。これらを利用して「体によいこと」をした錯覚に陥ることは、根本的な食生活の改善を忘れさせ、結果的に不健康な状況を継続させることにつながります。

(vi)「治療効果」の過信で通常医療を軽んじる:「がんに効く」等の虚偽宣伝で、標準医療を受ける機会を逸する人がいます。わらにもすがりたい思いの人につけ込み、通常の医療から遠ざけさせることは人命軽視です。

(vii)非食品の食品化:イチョウの葉やハチヤニ(プロポリス)、胎盤(プラセンタ)に食用歴はありません。「もともと食品ではないもの」が「プロポリス」や「イチョウ葉エキス」「プラセンタエキス」という「健康食品」になると「食品」の範疇に入ってしまうのはおかしなことです。

 これら以外にも注意点があります。「効く・効かないより、効いた気分がほしいから」との利用も要注意です。病気の治療のために薬を服用している人はその薬と「健康食品」の相互作用が問題となることがあります。例えば血栓を作らせないためにワルファリンを服用している人が膝によいからとグルコサミンを、あるいは認知症予防にとイチョウ葉エキスを摂取していると出血傾向が増加することが疑われています。

 また、高齢者の場合、特に病気がなくても体の機能全般、すなわち代謝や排泄、体温調節や抵抗力等が若いときよりも低下します。そのため「健康食品」を利用したとき、含まれている物質をスムーズに代謝できず、問題を引き起こすこともあります。医療機関から処方される薬も代謝機能が衰えてきた高齢者には負担となることがありますが、必要とあらばしかたありません。しかしながら自己判断で「からだに良かれ」と摂取した物質が、実は体内で処理するためによけいな負担をかけてしまうこともあるのです。

 さらに、製品によっては「某国では医薬品」であることを「効果」の証のように宣伝します。しかしこれは、国によっては「医薬品」として扱う物質を、「健康食品」として規格も副作用注意もなく使うのは危険である、と受け止めるべきです。

4.「健康食品」の「暗示」と「ほのめかし」

 機能性表示ができない、いわゆる「健康食品」類の宣伝広告は「暗示」と「ほのめかし」が暗躍する世界です。決定的なことは言わず(書かず)、何となくそういう「効果」があると思わせる手法が頻用されています。
 「若々しくありたい方に○○を」と書いてあるだけなのに「○○で若々しくなれる」と読ませ、「△△をダイエットのおともに」とあれば「△△でダイエットできる」と解釈するよう巧みに消費者を誘導しています。だから「健康食品」類にはすでに「機能性」は表示されているではないか、「機能性表示を解禁します」といわれても、今さら何を、と思う方がほとんどかもしれません。でも、実際には「機能性」は明記されていません。

 さて、暗示とほのめかしの世界から、そのものずばり「○○で若々しくなれる」と明記できる制度がつくられようとしています。いくら理不尽だと叫んでも「閣議決定」された以上は何らかの制度を作らなければならないのだそうです。

 そうであるなら、「企業等の責任において科学的根拠の下に機能性を表示できるものとし」と答申にあることを十分に生かさなければなりません。「○○で若々しくなれる」と書いてある「健康食品」は、消費者がその「根拠」論文を簡単に入手できるようにしなければなりません。今のトクホのように、手間暇かけなければ論文を入手できないようではいけません。インターネット上にその根拠論文をアップし、いつでも誰でも簡単にダウンロードでき、読めるようにする必要があります。「根拠」は学術雑誌に掲載された論文というのが常識的な考えでしょう。

 しかし、そんな面倒なことを企業がやるとは思えません。「若々しくありたい方に○○を」との表記では「若々しくなれるんですか」と質問されても「いえ、若々しくありたい方におすすめしているだけです。」とはぐらかすことができます。でも「若々しくなれる」と書くと根拠論文を要求され、きちんとした論文でなければ批判されることが目に見えています。そもそも「責任ある根拠」のある「健康食品」がほとんどない現状を考えれば、事業者は「暗示・ほのめかし」の現状維持の方が好都合というのは目に見えています。

5.おわりに

 ありえない効果をあるかのように期待させ、商品販売につなげることは「期待扇動商法」です。「健康食品」の魅惑的な宣伝文言は「期待扇動商法」の道具となっています。

 「我慢しないで・食べたいものを・好きに食べても・太らない」という「健康食品」はありません。にもかかわらずあるかのように幻惑させる宣伝広告がまかりとおっています。

 「健康食品」の宣伝では「こんな方におすすめ」として「野菜不足が気になる方・お酒、たばこが止められない方・運動不足が気になる方・甘い物や果物をよく食べる方・宴席が多い方」等々をよく見かけます。このような文言は、「野菜摂取量の増加、節酒、禁煙、運動実施、甘味食品・果物の摂取減、宴席回数減」等の努力は不要で、「これ」を利用すれば問題解決できるかのように錯覚させます。根本的な生活習慣の見直しを考えず、「健康食品」で何とかできると期待させるのは間違っています。「食品に機能性表示」を解禁するのであればこのような宣伝広告を禁止する措置も同時に制度化すべきです。

(編集部より:高橋久仁子さんは、2014年3月末に群馬大学教育学部を定年退職され、現在は食品にかんする情報の問題解決に寄与する組織を作ろうと動いておられます)

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