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消費者も試されている(伊藤潤子さん)

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伊藤潤子さん

伊藤潤子さん

今回の東日本を襲った震災の被害の大きさに言葉もない。私は16年前、明石市で阪神・淡路大震災を経験した。その時、離れた地の人々が「それぞれの立場で応援してくれている」ことを知り、心強かったことを覚えている。立場の変わった今、私たちに格別のことはできないが、些細なことを言い立てることなく現地の人々に思いを寄せて、できることを探しながら日々の生活をしたいと思った。

だが、今回は震災に加えてもう一つ、大きな災害影響がある。野菜、牛乳、水道水から規制値を超える放射能が検出され、原子力発電所事故は憂慮すべき状況と伝えられている。そんな状況にあって、政治は23年度予算がやっと通過したようだが、もたもた感が否めない。原発事故の深刻さが一層の不透明感を深めていることに間違いないが、それを割り引いても、もどかしさを感じるのはなぜだろうか。

政権公約として「高速道路の無料化」「子供手当の上乗せ」など中止する事に躊躇するその姿勢が全てを物語っているように思う。このような緊急の事態での政策の転換に異議を唱える消費者などごく少数だ。野党に何と言われようと「中止して○○円を震災被害の復興に回させてほしい」と率直に語りかけることが政府の姿勢を見せる最も強い訴えではないか。具体的な諸対策も優先順位を明らかにして、専門家の意見を聞くべきものは耳を傾け「善し」と判断することは批判を覚悟して断行することだ。それが政治的判断というものではないか。国民は、顔色を見られることを望んではいない。政権として選んだのだから多少の考えの違いはあっても「責任もってやってほしい」と思っている。また、政治的判断を持ち込むことなく間違いは率直に早急に改めるべきだ。求めるのは明確な判断と率直な説明、そして責任を負うという姿勢だ。

同時に、関係者もこの際自らの行動を見直したい。市場で被災地の野菜の卸値が暴落しているという。小売業者、量販店が買い渋っている。「消費者が、嫌がる」が理由だ。勝手に消費者を持ち出さないでほしい。嫌がっているのは、直接の当事者であるあなたでしょう、と言いたい。販売者の売り方に工夫があれば、十分売れるのではないか。販売者として今協力できるのは、まさにこのことではないだろうか。被災地の野菜を買おうという声は、あちこちで上がっている。買うことで支援したいというのだ。そんな趣旨のネット販売があったが、申し込み殺到で販売中止と聞く。従来の仕事の仕方をそのまま続けるのではなく、今一度立ち止まって考え、変えてみることも大切ではないか。

一方、被災地から離れた私の住まいする地では、「水」が店頭から消えている。広島の友人も同様の状況だという。とても悲しいことだ。一本余分に、親類に送ろうという軽い考えなのだろうが、全体的に見るとどれだけの迷惑をかけることになるのかを反省しなければならないだろう。こんな事を続ける限り、「やっぱり消費者は・・・」という評価をされ続けることになる。商品の包装の表示を見て購入する消費者ばかりが賢い消費者ではない。自分の行動と全体との関係に思いをいたすことができる人が本当の賢い消費者ではないか。消費者同士で、物の取り合いなどしたくない。まず困っている人に譲るというのが団結の基本ではないだろうか。消費者が試されている時でもある。

伊藤潤子(生活協同組合コープこうべ参与、食の信頼向上をめざす会幹事)

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