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クラシック音楽から聞こえてくる害虫の音色は(柏田雄三さん)

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2012年5月29日

 音楽には動物、植物、鳥、自然、季節、天体、絵画などを取りあげたり、曲名にしたりしたものがたくさんある。
 そこには昆虫を題材にした音楽も少なくないが、こと害虫を取り上げた曲となると限られる。しかもその多くはマイナーな曲である。

 一口に害虫といっても、農業害虫、衛生害虫、不快害虫、家畜害虫、貯穀害虫など様々である。
 害虫と言えそうな曲で子供にも良く知られているのはNHKみんなの歌の「おしりかじり虫」ではないか。エリック・カールの絵本「はらぺこあおむし」による歌もある。童謡にもケムシや尺取虫の名前の付いたものがあるが、ここでは私の趣味であるクラシック音楽を中心に我が家のライブラリーから害虫別にいくつか紹介する。

 スペースの関係から作曲家や個々の曲目の詳しい解説を省略した。紹介した楽曲の多くはCDやweb上で聴けるので興味ある方は昆虫音楽の世界をお楽しみいただきたいと思う。

害虫
 「この害虫(むし)だけは」という歌曲。作詞は吉行理恵、作曲は先日他界した林光である。人形劇「変化紙人形」の挿入歌で竹田恵子さんのCDで聴く。
 ここで言う「害虫」とは何なのかに興味が湧くが、「こんなに日暮れてしまっても 蒼い羽をふるわせる この害虫(むし)だけは殺せない・・・」という少し気味悪い歌詞からは虫が特定できない。歌詞全体から類推すればオオミズアオででもあろうか。

キクイムシ

YoshikoSato

佐藤由子さんのアルバム

 「二匹の木喰い虫」は、イタリアの作曲家ザンドナイ、作詞はミルドゥメイによる歌曲である。ソプラノの佐藤由子さんのCDに収録されている。
 キクイムシとはカミキリムシの幼虫を指しているのかと思ったが、歌詞は墓場に住んで死んだ偉人の脳みそをかじっているキクイムシと、図書館でその著書をかじっているキクイムシが偉人の頭脳を知ろうとしている会話で、二つのキクイムシの食性は樹木の材をかじるいわゆるキクイムシと異なっている。まるでシデムシとシバンムシかシミの様だ。何の虫を指しているのだろうか。

シバンムシ
 デンマークのランゴーによるピアノ曲集「インセクタリウム」の一曲に「シバンムシ」というタイトルのものがある。ピアノの蓋をコツコツ叩く特殊奏法で、坑道の中で虫が立てる音をあらわす。

バッタ
 バッタにはバロック時代のフランスのマレやクープラン、新しくはシバンムシを書いたランゴー、イギリスのホルブルックによるヴァイオリン協奏曲、最近では坂本龍一の曲などいろいろある。
 これらは、大体バッタが跳躍する様子を表している。植物を食い荒らす飛蝗の様子は山田栄二のホルンのための組曲「ファーブル昆虫記」で聴くことが出来る。

ゴキブリ
 最も有名なのはメキシコ民謡の「ラ・クカラチャ」。Cockroachの語源となった。
 「クカラチャ」はゴキブリを指すのではないらしく、由来はよく判らないらしい。

RodionShchedrin

「モスクワじゅうのゴキブリ」が収録されているアルバム

 ロシアのシチェドリンによる弦楽合奏曲「モスクワじゅうのゴキブリ」。ざわざわと動き回る様子がユーモラスに少し気味悪くあらわされる。

 ロシアのボロディンに「油虫」という歌曲が有るが、これはゴキブリのことだろう。
 森高千里の「ザ・バスターズ・ブルース」はゴキブリが我々に与えるイメージをよく表していて秀逸だ。「ごきぶりホイホイ」も歌詞に出て来る。彼女には「ハエ男」という曲もある。虫好きなのだろうか。

 アメリカのブルースシンガーでギタリストであるアルバート・キングの「コックローチ」。D.G.ゴードン著の「ゴキブリ大全」によると、アメリカにはもっといろいろなゴキブリの曲があるらしい。
 野口雨情作詞、中山晋平作曲の童謡「黄金虫」は実際にはチャバネゴキブリを指すと言われる。お尻にくっつけている卵鞘が財布の形をしていることが理由の一つらしい。ところが、タマムシだとする説も出ているようだ。

ノミ
 最も有名なのはムソルグスキーの歌曲「蚤の歌」。正式名は「アウエルバッハの酒蔵でのメフィストフェレスの歌」と言い、蚤を重用する権力者を皮肉った曲である。歌詞はゲーテのファウストをもとにしている。ベートーヴェンの歌曲「メフィストの蚤の歌」とベルリオーズの「ファウストの劫罰」中で歌われるアリアも同じ題材によっている。

 ロシアのシャポーリンには民俗楽器も使った楽しい「ノミ」と言う管弦楽曲がある。
 バロック時代のフランス人ボワモルティエは「ノミ」と言うチェンバロ曲、20世紀末にはスペインのモンサルバーチェも「ノミ」と言うピアノ小曲で、ぴょんぴょんと跳ねる様子をあらわした。

トコジラミ(南京虫)
 ロシアのショスタコーヴィチによる「南京虫」は劇音楽で、社会から虐げられた人が南京虫を慰めにしている曲だ。これでは害虫ではなくペットである。私が持っているCDはピアノ編曲版の抜粋だが20分くらいかかる。
 ドイツのリヒャルト・シュトラウスの歌曲集「小商人の鑑」からの「むかし一匹の南京虫がいた」と言う曲。作詞はケルでムソルグスキーの「蚤の歌」のパロディである。

シラミ
 團伊玖磨と芥川也寸志が軍隊時代に作った「シラミの歌」。シ、ラ、ミがドレミファソラシドの音階に含まれていることに気が付き、ドレミファソラシドだけを歌詞にして作られた曲である。歌詞とメロディが一致するわけで、このような曲は階名ソングと呼ばれる。さだまさしの「シラミ騒動」(シラミソド)も同じ発想である。

 前項で紹介した「むかし一匹の南京虫がいた」は「むかし一匹の毛虱がいた」と訳される場合もあるが、原題の「Es war mal eine Wanze」からすると、南京虫が正しいであろう。


 「蚊」の曲名で、ロシアのスクリャービン(ピアノ)、ランゴー(ピアノ)、フランスのメル・ボニス(ピアノ)、「蚊の踊り」の曲名でフィンランドのヘンリケス(クラリネット/リコーダー)は飛び回る蚊の様子を表した。ロシアのムソルグスキーの「蚊の踊り」は歌劇ボリス・ゴドゥノフ中の数少ない女性アリアである。

 ブラジルのヴィラ=ロボスによる「蚊の踊り」は迫力満点の管弦楽曲である。さらに、ハンガリーのバルトークによる「蚊の歌」(二つのヴァイオリン)などの曲がある。
 NHKみんなの歌の一曲作詞小黒恵子、作曲クニ河内による「ドラキュラのうた」は蚊を吸血鬼に見立てたユーモラスな童謡である。

ハエとアブ
 バルトークの子供のためのピアノ練習曲に「蠅の日記より」がある。磯崎敦比呂がクラリネットアンサンブルのためにいくつかの曲を編曲した「虫の謝肉祭」にもこの曲が取りあげられている。ポーランドのタンスマンのピアノ曲には「子犬とハエ」。
 曲名には出ないがヴィヴァルディの四季「夏」の第二楽章は飛び回るハエに農夫が悩まされる様子を示す。

 イギリス17世紀の作者不詳の曲「イザークのウジ」(Isaac’s Maggot)。解説書が不備で曲のことはよく分からない。
 ショスタコーヴィチの「馬あぶ」は同名の映画につけられた組曲。美しいメロディの曲にあふれている。

 アメリカのバール・アイヴスには「Blue Tail Fly」。アメリカの伝統音楽だそうだ。
 「Blue Tail Fly」とはウシアブ、ウマアブの様な吸血性の虻のことらしい。
 彼は映画俳優として知られ、「大いなる西部」でアカデミー賞助演男優賞に輝いたが本職は歌手である。道理で良い声をしていた。彼は「I Know An Old Lady Who Swallowed A Fly」という曲も歌っていて、早口言葉のよう。食物連鎖のような面白い歌詞である。

 このように見て来ると、衛生害虫に比べて農業害虫や家畜害虫、貯穀害虫を取り上げた音楽が少ないことが判る。挙げたなかで、農業に関係する害虫はバッタとハエくらいである。作曲家や詩人などの作詞家との生活上のかかわりが少ない農作物の害虫ではなく、彼らを直接悩ませたであろう衛生害虫に関する曲が多いのは頷けるところである。

 いわゆるクラシック音楽は18世紀ごろまで主に教会や宮廷のために作られていた。従って聴く方も作曲家と同様に農業害虫よりも衛生害虫が馴染み深かったろう。

 それでは民衆はどうだったのか。中世に一般大衆がうたっていた「カルミナ・ブラーナ」と呼ばれる多くの曲を聴いても、興味の対象は恋愛、酒、食べ物、わが領主様などであって昆虫や害虫どころではないように見える。

 バロック音楽に例が無いわけではないが、昆虫や害虫が多く題材として登場してくるのはもっと後の19世紀になってからである。作曲様式の拡大、聴衆の拡大も関係していよう。実際に作られた昆虫の曲、害虫の曲は、虫の羽ばたきや跳躍などの特徴を直接音で表したものが多い。作曲家それぞれに固有の表現があり興味深いが、発想は同様でやや画一的である。

 これからは害虫の生態、被害などにもより踏み込んだ曲が作られるのを期待したいものである。小西正泰氏著の「虫の文化誌」によると、第二次大戦後に「DDTの歌」が作られ、小学校で振付つきで教えられたという。発疹チフス、ノミやシラミを退治するDDTにお礼を言いましょうという内容の歌詞だそうだが、このような歌が歌われることはもうないであろう。

<お知らせ>
「二匹の木喰い虫」が収録されている佐藤由子さんのCDは、佐藤さんのウェブサイトから購入できます。

○筆者
柏田雄三さん
昆虫芸術研究家。製薬会社の農薬部門、家庭園芸資材会社を経て、現在大手家庭用殺虫剤メーカーに勤務。趣味として音楽を主体に昆虫を題材にした芸術を研究している。

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