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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

ヒスタミンはアレルギー物質ではない。微生物の適切な管理で、中毒を防ぐ

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2013年10月17日

 はごろもフーズが10月11日、缶詰の「シーチキン マイルド」からヒスタミンが社内基準を超えて検出されたとして、計672万個の回収を始めたとプレスリリースを出した。これを基に「はごろも、シーチキン672万個回収 アレルギー物質で」「アレルギー物質 基準超え シーチキン672万個回収」などの報道が出たが、これらの見出しは間違っている。ヒスタミンは、アレルギーのような症状を引き起こすが、タンパク質ではなく化学物質であり、アレルギー物質(アレルゲン)ではない。

 アレルギーという誤解は、「私には関係ない」と思う人を産み出してしまう。それはまずい。ヒスタミンは過剰摂取をすればだれでも、アレルギーのような症状を引き起こす可能性がある。微生物が作り出す化学物質だから、微生物の管理が悪ければ微生物が増殖しヒスタミンが増え食中毒につながる。だが、微生物をしっかりと制御すれば、防ぐことができるのだ。
 国立医薬品食品衛生研究所報告第127号「国内外におけるヒスタミン食中毒」などを基に解説する。

●ヒスタミンは化学物質

 ヒスタミンは,魚肉中に含まれるアミノ酸の一種である遊離ヒスチジンに特定の酵素が働くことによって生成する化学物質だ。特定の酵素を持つ細菌は海水中に存在し、魚に付き内臓にも入り込んでおり、保管流通や調理加工などの過程で細菌が増えてしまうと、酵素量も増えて働いてヒスタミンの生成量も増え、食中毒につながってしまう。
 通常、食後数分から30分くらいで顔や口の周り、耳たぶが紅潮し、頭痛、じんま疹、発熱などが起きるが、6〜10時間で回復する。大量に食べた時には、口の周りや唇、舌にピリピリ来る場合もある。

 ちなみに、ヒスタミンは人にとって異物だから有害、というわけではない。多くの人の体の中では、適量のヒスタミンが作られ、免疫系でうまく化学伝達物質として作用し、体を守っている。ところが、免疫系の暴走であるアレルギー疾患を持つ人は、体内にアレルゲンが入るとヒスタミンなどの化学物質が大量生成され、過敏反応、つまりアレルギー症状を引き起こす。
 ヒスタミン食中毒は、そのヒスタミンが食品に多く含まれ、外部から口を通して体に大量に提供されることによって起きる。免疫系を介さない反応なのでアレルギーには分類されず、厚生労働省は、食中毒統計でこのヒスタミン食中毒を「化学物質によるもの」と分類している。

 遊離ヒスチジンの含量は、白身魚に比べてマグロやサバなどの赤身魚でもともと多いため、ヒスタミン食中毒は主に赤身魚で発生する。ヒスタミンは、加熱しても分解しないため、缶詰も加熱調理の前にヒスタミンが増えていれば、食中毒の原因となる。

 日本では、ヒスタミン含量の基準値は設定されていない。だが、コーデックス委員会ではマグロ、イワシ等の缶詰の腐敗基準として食品100gあたり10mgを超えないこととされている。EUや米国なども似たような数値を基準として設定している(複雑なので、参考文献等で確認してほしい)。

●リスク評価は……

 国立医薬品食品衛生研は、中毒症状と食品中のヒスタミン濃度について、下記のように推定している。

5 mg/100 g以下:安全域である
5 〜 10 mg/100 g:感受性が高いグループでは食中毒を生じる可能性がある
10〜100 mg/100 g:食中毒を生じる可能性があり、軽度〜中程度の症状を呈す
100 mg/100 g以上:食中毒を生じる可能性が高く,重篤な症状を呈す

 ただし、症状を左右するファクターはかなり多いとみられ、「正確な中毒量及び用量反応性は現在も明らかにされていないことから、本研究の推定値は筆者が文献情報より独自に検討した参考値であることに注意していただきたい」と但し書きが付いている。

 国立医薬品食品衛生研の論文が出た後、FAO/WHO 合同専門家会議は2012年に、ヒスタミンの無毒性量(NOAEL)として、 50mg(大人 1 食当たりの値)が適切であるとした。また、EFSAも2011年、やはり1人1食につき50mgを、健康な人の場合には有害健康影響は観察されていないとしている。
 ヒスタミンに対する感受性は、個人差が相当に大きいらしい。したがって、これらの数値はあくまでも「健康な大人」の目安。成人よりも子どもの方が影響を受けやすい可能性があるという。また、体質として、あるいは病気で、ヒスタミンを代謝しにくく反応しやすい「不耐性」の人がいるらしいこともわかってきている。

 結局、ヒスタミンの濃度がどれくらいの食品をいったい何g食べたか、が重要であり、ヒスタミンを多く食べれば食べるほど重症化すること、同じものを食べても人によって症状がかなり大きく違う可能性があることを知っておいてほしい。

●家庭でも起きるヒスタミン食中毒

 ヒスタミン食中毒は厚生労働省の統計によれば例年、数十人から数百人発生している。とはいえ、統計は実際の食中毒のうちの一部しか把握できていない(前回コラム「カンピロバクター食中毒は、年間350万人」参照)。実際には相当な数の食中毒が発生しているとみられ、要注意だ。私自身も子どもの頃に、自宅でサバを食べてヒスタミン食中毒に見舞われたことがある。私は子どものころはぜんそく持ちで、アレルギー症状とはずっと“お友達”だったので、サバで症状が出たときには子ども心に「またか」と思った。夜に発症し朝には引いたので、たしか病院には行かなかった。その後、サバを食べてもなんともなく、不思議だったのだが、ずいぶんたってから、ヒスタミン食中毒というものがあることを知った。実は、とても身近な、家庭でもしばしば起きている食中毒なのだ。

 家庭での対策は、赤身魚をなるべく早く調理して食べること。しばらく保管しなければならない時には、低温にし十分に温度管理に気をつけ、細菌を増やさないようにすることだという。ヒスタミンが食品にかなり大量に含まれていると、口の回りや唇などがピリピリして「おかしい」と気付く場合も多いというが、そうした量に至らなくても食中毒は起きる。外見やにおいではヒスタミンの増加はわからないので、管理が不十分なまま時間がたっている場合には、思い切って捨てた方がいい場合も多い。

 魚に含まれるヒスチジンの量には個体差があり、したがってヒスタミン生成量にも差がつく。赤身魚を原料とした大量生産品の場合、同じロットでも製品によりばらつきが大きいという。ヒスタミンの管理は難しい。大企業のみならず、一般消費者や中小事業者も、赤身魚の管理には十分に気をつけてほしい。

●取材についての補足あれこれ

 さて、取材について、補足したい。実は、上記の原稿には、情報が足りない。
 自主回収をしているはごろもフーズの広報部に17日、電話して、ヒスタミンの自主基準値と自主回収対象品のこれまでの検出濃度、それに検査体制について質問した。もちろん、フリーの科学ライターという職業と名前を名乗り、月刊誌「栄養と料理」などで連載していることも伝えた。
 すぐには回答できないとのことで、約1時間後に電話がかかってきたが、同社が電話をこちらにかけておきながら、「あれっ、どちらに電話しているんでしたっけ?」と私に尋ねる。しかたがないので、「フリーの科学ライターの松永です」と説明したが、「公的機関と情報交換している最中なので、個人の方には回答できない」という返事。私はていねいに、「個人の方の定義はなにか? 朝日新聞や毎日新聞の所属であれば、答えるのか?」と問うたが、答えず、なにもしゃべらなくなり、受話器を置いてどこかへ行ってしまう。辛抱強く待って、また出たところで再度質問し、さらにあとで確認するために、もう一度こちらが名乗り、先方の名前を尋ねても「広報部です」と言ったのみで、ついに名乗らなかった。

 取材対応、説明責任を果たす、という意味で、いかがなものか。これが、名の知れた大企業の対応か、と正直に言って驚いた。10年ほど前までは時々、こういう対応をする企業があったが、今時、こんなところはない。お客様相談室もずっと話し中で、つながらなかった。

 取材対応の問題は、はごろもフーズの企業姿勢であり、単に私があしらわれた、ということだけなので、今回の科学的なヒスタミン解説とは関係がない。ただ、自主基準や検出濃度を当事者に確認できないのでは、リスクの大きさを科学的に判断できず、困る。
 毎日新聞の記事によれば、2種約30缶から濃度基準値(50ppm以下=5mg/100g以下)の4~10倍のヒスタミン成分を検出したという。ロイター電は「社内の基準値50ppmに対し200—500ppmを検出」と伝えている。つまりは、はごろもフーズはマスメディアには情報提供しているのだろう。これらの数値を参考にして、この原稿も読んでいただきたい。

<参考文献>
はごろもフーズ「お詫びとお知らせ」
はごろもフーズ「ヒスタミンについて」
国立医薬品食品衛生研究所報告第127号「国内外におけるヒスタミン食中毒」
食品安全委員会ファクトシート
食品安全委員会食中毒資料
東京顕微鏡院食と環境の科学センター・ヒスタミンによる食中毒

農水省・食品安全に関するリスクプロファイルシート(検討会用)ヒスタミン

EFSA・Scientific Opinion on risk based control of biogenic amine formation in fermented foods
Published: 11 October 2011

FAO/WHO・Report of the Joint FAO/WHO Expert Meeting on the Public Health Risks of Histamine and Other Biogenic Amines from Fish and Fishery Products

<事務局より:10月21日にリスク評価にかんする情報を一部追加し、文章も若干修正しました>

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