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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

「食品が危ない!」ブームの空騒ぎ

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2013年11月29日

 「食品が危ない!」ブームが再燃してきたようだ。「食品の安全性が落ちている」というような、実体のある話でなく、食をめぐる空騒ぎ。いったい何度目のブームだろうか。偽装表示問題も大きなきっかけとなったのだろう。「成形肉には食品添加物が使われていて、知らないうちに大量に食べさせられている」「やっぱり食品業者はあくどい。どうせ、なんでも偽装だろう」というようなロジックが目立つ。

 その科学的な誤りを指摘していたらきりがないのだが、総じてやっぱり、その批判論法はお粗末すぎる。さすがに、新聞やテレビでは、そこまで非科学的な話は通用しないように思う。しかし、残念ながら雑誌やインターネット媒体、SNSでは広がってしまう。たとえば、これ。 特集の中の一部分、1000字にも満たないくだりなのだが、正直に言って頭を抱えてしまった。ご披露されている「危ない!」事例がことごとく、「怪しい!」のだ。

・ 旨味成分のアミノ酸を粉末化した、“タンパク加水分解物”。塩酸を使って加水分解したものに、発ガン性物質と疑われるクロロプロパノール類が含まれている。醤油などに含まれている
・ 発ガン性のある食品添加物では、亜硝酸ナトリウムがソーセージやハムといった頻繁に口にすることの多い食品に使用されている
・ 多くの小麦粉食品に含まれるアルミニウムは多量に摂取すると腎臓に障害が起き、アルツハイマー病との関連も指摘されている
・ スーパーで売られている唐揚げの鶏肉には中国産が多い。成長ホルモン剤を過剰に投与される上、死んでしまった鶏も輸入され、唐揚げなどに加工されている
・ 日本の小麦粉はほとんどが輸入ものなのは有名な話だが、遺伝子組み換え小麦の混入に関して、何の措置も検査体制も取られていない。遺伝子組み換え小麦は、DNAを傷つけアレルギーを引き起こすという説もあり

 うーん。ここまで続くと、取り上げるこちら側も辛い。が、懲りずにちょっとだけ、ツッコミ入れさせていただきます。

 タンパク加水分解物は、アミノ酸がつながってできているタンパク質を分解したもので、さまざまなアミノ酸がうまみにつながるため、加工食品に使われる。
 タンパク質の分解自体は、普通の加工調理でも自然に起きること。塩酸で分解というと工業製品というイメージとなり、 “危ない感”が強まるが、塩酸は胃でも分泌されている。クロロプロパノール類といってもいくつもあり、酸による加水分解でできるのは主に3-MCPDという種類。このほか、1,3-DCPという種類もできる。

 醤油に主に含まれていたのは3-MCPD。でも、問題になり始めたのは1970年代で、近年は著しく低減化が進んでいる。それに現在、醤油の大多数を占める「本醸造方式」はそもそも、タンパク加水分解物が原材料としては使われていない。
 しかも、3-MCPDは動物では発がんの可能性があるとされるが、ヒトでは今のところ、証拠がない。FAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)は、ヒトへの発がん性を認めず、暫定最大1日耐容摂取量(PMTDI)を2 μg/kg体重/日と設定している。

 1,3-DCPはラットで発がん性が認められ、遺伝毒性も確認されているので、これは「発がん物質」と言ってもよいだろう。だが、こちらももう、醤油にはほとんど入っていないレベルだ。

 農水省・食品中のクロロプロパノール類に関する情報や、食品安全委員会のファクトシート、日本生活協同組合連合会のQ&Aを見てほしい。これで、日本の誇る食文化、醤油を挙げて「発がん物質!」と脅しますか? それはやっちゃいかんだろ、と私は思います。
 

 次に、亜硝酸ナトリウム。発がん性のある食品添加物と書かれているが、亜硝酸ナトリウム自体に発がん性はない。体の中に入ると、アミン類と反応して、「ニトロソ化合物」という、発がん物質ができるとされる。だが、体内での反応は複雑で、ビタミンCが一緒にあると、その反応は抑えられるとみられている。また、野菜には硝酸塩が大量に含まれていて、その一部は亜硝酸に体内で変わる。ハムやソーセージに含まれる量よりは、そちらの量の方が圧倒的に多いと考えられている。このあたり、解明が進んでいるとはなかなか言えないのだが、「だから、野菜は食べるな」とはだれも言わない。
 
 農水省の野菜等の硝酸塩に関する情報や、その中の生体内でのニトロソ化合物の生成と胃がんとの関係等を見てほしい。

 ちなみに、調べていたら河野太郎衆議院議員がブログで取り上げているのを見つけた。それくらい、この事例も、古い「煽り」である。生協も一時は亜硝酸ナトリウムを排除しようとしたが、入れた方がボツリヌス菌の増殖を防ぎやすい、ということもあって、現在では発色剤入りのハムやソーセージを多くの生協が販売している。

 アルミニウムとアルツハイマー病の関連は、1990年代あたり、指摘されていたが、今はどの国際機関も「関連を示す証拠はない」としている。厚労省の食品中のアルミニウムに関する情報や国立健康・栄養研究所のアルミニウムとアルツハイマー病の関連情報もどうぞ。ちなみに、本欄でもこの7月に「アルミニウム、アルツハイマー病との関連はほぼ否定されているのに…」と書いている。

 中国産の唐揚げうんぬんについては、中国は鳥インフルエンザが発生しているので、生の鶏肉は日本に輸入できない。2010年、日本に鶏肉が全部で43万1000トン輸入されたが、9割以上がブラジル産だった。加工された「鶏肉調整品」は中国から入ってきており、同年は18万7000トン。タイが19万7000トン。スーパーの唐揚げは中国産が多いとは言えないだろう。
 しかも、大手が手がけるものは、日本以上の生産工程管理が行われているケースが多い。成長ホルモンだ、死んだ鶏だ、というが、確たる証拠は見せてもらいたいものだ。資料としては、農水省の鶏肉需給等関係資料 や、厚労省の輸入食品FAQを読んで、ご検討を。

 最後に小麦。遺伝子組換え小麦に関しては、アメリカで食品としての審査は終わっているが商業化されなかった未承認小麦が今年、生えているのが大きな問題となった。日本はその州からの小麦輸入を止めてしまった。また、日本に既に入っている小麦の中に、未承認小麦が含まれていないかどうか、サンプリング検査も行ったが、見つからなかった。
 結局、アメリカでも単発事例で、それ以外には見つからなかったので、「これ以上の広がりはない」と判断され、日本も輸入を再開している。FOOCOM.NETでも、取り上げているのでご覧ください。(白井洋一さんの麦秋の候 オレゴン州の未承認小麦事件を掘りさげる本欄など)

 記事中で、食の情報公開に関して「日本は後進国」と表現されているが、遅れているのは記事を作ったあなたたち、である。

 この手のジャンク情報に対して、米国や英国等では行政や科学者がしっかりと間違いを指摘したり反論したりする。メディアが増えSNSが広く利用されている今、間違い情報に対する「パッチ」は極めて重要になってきている。
 ところが、日本でたとえば、中国産について厚労省が情報を出したのは、週刊文春が今年春にキャンペーンを始めてから数ヶ月たってからだ。出さないより出した方がいいし、社会の不安にきちんと応える姿勢を示す、という意味で、最近の厚労省食品安全部の動きは特筆すべき。だが、ジャンク情報は出始めにバシッとたたくのが一番効果があり、そこを意識して海外の行政機関が実に迅速に情報発信しているのに比べれば、やっぱり日本はもの足りない。

 そして、科学者個人からの情報発信がとても少ない。国立医薬品食品衛生研究所安全情報部の畝山智香子第三室長が「食品安全情報ブログ」で折々、情報提供している。だが、それ以外の方は、と考えると、かなり寂しい。結局、社会にある情報に軌道修正をかける、という行為が科学者としての評価につながらないので、どなたもやりたがらないのだ。

 海外では、科学者団体が積極的に情報発信している。たとえばSence about ScienceAmerican Council on Science and Health、遺伝子組換えでは、GMO Compass。最近では、Forbesで、科学者が積極的にさまざまなニュースに対してコメンタリーを書いている。英国栄養士会のダイエット批判も面白い。
 
 Natureでも先日、Twenty tips for interpreting scientific claims(科学的な主張を解釈するための20のヒント)という記事が公開された。

 結局、一般市民がウソ情報で不安に駆られて社会が大混乱、という現象は、世界中で起きている。そして、欧米では対策が加速度的に充実してきている。ところが、日本は……。

 市民も悪い。使い古された不安を煽る情報にいい加減、市民も気付いたらどうだろうか。Foocomは、科学的に適切な情報発信に努めようとしている団体だが、いろいろな関係者が、多様な角度から働きかける必要がある。私たちも努力しますが、科学者の先生方、頑張りましょうよ。今の日本、ちょっと情けないですよ。

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