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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

「犯罪防止」だけではダメ。「犯罪が起きた時にどうする?」をもっと真剣に考えたい―FOOCOMセミナー報告

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2014年2月10日

 中国製冷凍餃子事件が2007年から08年にかけて起きた後、中国で日本向けの食品を加工製造していた工場は、日本企業の指導や要請を受けてすさまじいまでの犯罪対策を行った。入構、入室はもちろんチェックし、監視カメラが山ほどついていて死角はない。異物を持ち込まれないように、作業着にポケットはなく、入念にボディチェックも行う。従業員が不満を持たないように、福利厚生にも気を配り、従業員寮はピカピカ。日本的な親睦交流の催し、たとえばカラオケ大会などもひんぱんに開く。

 その頃、日本関係者が口を揃えて言っていたのは、「日本の工場の方が、犯罪対策ははるかに甘い」ということだった。「だって、日本で監視カメラをこんなにつけられますか? 労働組合が『労働者を信用しないのか』と言い出して、大騒ぎになりますよ。ボディチェックができますか? 人権侵害で訴えられますよ。とてもできないです。日本の工場では、やろうと思えば農薬を混入させることは可能です」。そう言われた。

 だから中国がいい、というわけではない。カメラで完全に監視してボディチェックを許す国がよいとは思えない。でも、中国側がサクサクと法律まで作ってくれて、監視カメラを簡単に工場内に取り付けられるようになった。中国国家品質監督検査検疫総局(CIQ)も、中国国内で流通する食品とはまったく異なる高品質、安全性の高い輸出向け食品を生産すべく、厳しい規制をかけている。それに助けられて、日本向けの食品が作られているのは事実なのだ。

 だから、アクリフーズの事件が起きた時に、「やっぱり国内か」と思った。おそらく、週刊誌などが決してかかない中国製食品の管理を知っている関係者は全員、思ったはずだ。「ついに国内で起きてしまった」と。

 アクリフーズの農薬混入事件は、容疑者が逮捕されて、社会の関心が「なぜ、犯罪が引き起こされたのか」というところに絞られたようだ。
 容疑者の特徴ある外見や普段の行動がマスメディアで書き立てられ、雇用形態や給与の低さなどが問題視される。従業員を信用する性善説ではなく、悪い人間がいるという性悪説に立って、監視カメラをたくさんつけろ、ボディチェックをしろ……。でも、日本社会は、中国のように、簡単に思い切った対策を講じることができないし、福利厚生の充実も、中国ほどの効果を発揮できないだろう。日本の人々は、もっと恵まれていてもっと多様で、扱いが難しいのが現実だ。

 さて、どうしたらいいのか?
 FOOCOMでは2月3日、会員を集めて「考えよう! 犯罪対策」というセミナーを開き考えた。食品企業の方々が多く参加してくださった。クローズドのセミナーなので詳しい内容をご紹介することはできないが、参加者に共通していたことがある。どの方も、マスメディアの論調のような犯罪防止策の検討だけでなく、「犯罪が起きた時に、どのようにしてそのことをなるべく早く把握し、被害拡大を防ぐか」という危機管理を重視していた。人間社会では必ず犯罪が発生する。だから、犯罪防止に力を尽くすのと同時に、犯罪発生を前提にした準備も必要なのだ。

 残念ながら、今回のアクリフーズとマルハニチロホールディングスの対応は、この「被害拡大を防ぐ」という点で大きな問題があり禍根を残した。なにせ、健康影響の評価を誤って伝えたうえ、最初の発表段階では、自主回収の対象となる商品名の正しいリストを公表することすらできなかったのだから。

 商品名は、消費者が「わが家の冷凍庫には入っていないか」と判断するための最大の材料である。なのに、当初は正確なリストがなく、自主回収を最初に発表した昨年12月29日から一晩明けた30日朝刊の社告でも、回収商品を「アクリフーズ群馬工場と記載されている全商品」としか伝えていない。回収対象の中にはPB商品が数多くあり、アクリフーズ群馬工場と記載されていないものも10品あったのに、それは消費者には当初は、告知すらされていなかったのだ。
 新聞各社も、30日朝刊の段階では、商品名をかなり間違えた。これらのことについては、FOOCOM事務局長の森田が既にコラム「食品リコールからみるアクリフーズ事件」で解説している。

 被害拡大を防ぐためにもっとも重要な行動を、アクリフーズとマルハニチロホールディングスはとれなかったのである。

 セミナーでは、参加者から販売流通企業の問題点も指摘された。アクリフーズ群馬工場は、多くの流通企業のPB商品と自社ブランドのNB商品を作っていた。流通企業の多くは、PB商品の自主回収の告知はウェブサイト等でしたものの、NB商品には一言も触れていない。NBを販売した責任はあるのでは、と私は思うし、「わが社でNBを購入したお客様も、申し訳ないがアクリフーズへ発送を」と一言説明があってしかるべきではないか。だが、多くの流通が、販売したにも関わらずアクリフーズにお任せで知らん顔だ。

 生協はNB、PB区別なく組合員に知らせて回収に動いたという。大手流通の中では西友のみが、PBとNBの区別なく告知し、どちらもサービスカウンターに持ってくるように呼びかけた。

 多くの消費者は、家にあった冷凍食品の中にアクリフーズ群馬工場製のPB商品やNB商品がないか調べ、見つけたらPB商品は店へ、NBはアクリフーズの住所を調べ宅配便の業者を呼んで発送という、なんとややこしい作業を迫られた。消費者にとっては極めてわかりにくく、おっくうに感じるのも不思議ではない。

 自主回収が遅れるということは、消費者の家の冷凍庫に対象商品があり、そのことを知らずに食べてしまう人が出てくるかもしれない、ということ。こうなると、被害発生にも直結しかねない。

 今回の事件を教訓に被害拡大を防ぐための対策を講じるには、アクリフーズ、マルハニチロを責めるだけでなく、多くの関係者がかかわるこうした問題を、一つ一つ整理して、次はどうすべきかを考える必要があるのだ。

 セミナーに集まった方々は、今後どうするかとても悩んでいた。事件は、非常に根深い問題をさまざまな角度から浮き彫りにしている。一義的な責任は犯罪を引き起こした人物にあるが、犯罪を許してしまった企業だけでなく、多くの関係者に課題がある。検証と改善はこれからだ。

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