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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

1.日本人のわかめ消費量はこの40年で約4倍に〜わかめをめぐる9つのストーリー

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2014年2月19日

 東日本大震災と津波により、三陸海岸(岩手県、宮城県)は壊滅的な被害を受けました。三陸わかめの養殖場も浜にあった加工場も流されてしまいました。
 しかし、生産者は2011年夏から苗を育て11月頃から沖で養殖を再開。加工場も建て直し、2012年春には収穫を再開して出荷が始まりました。品質も問題なし。すばらしいわかめができました。2013年も前年同様に、申し分ない生産と品質でした。
 ところが、消費が戻りません。最近の消費者調査でも、「三陸産はイヤ。鳴門産がいい」という意見が予想以上に多かったといいます。福島第一原子力発電所事故による放射性物質問題が暗い影を落としているのです。検査では、放射性物質は検出されず、養殖場の条件から考えても汚染は、考えられません。なのに……。
 2014年のわかめの旬を迎え、店頭には初摘みのわかめが並んでいます。今年こそは、根拠のない風評を吹き飛ばすよい年となりますように。願いを込めて、わかめと放射性物質の関係、味や製法などをめぐる9つのストーリーをご紹介します。

Q1.日本人は昔からわかめをたくさん食べていた?

A.いえいえ。それは実は誤解。日本人のわかめ消費量はこの40年で4倍以上に伸びたのです

 わかめは、縄文時代の遺跡からも見つかっており、日本人は大昔からわかめを食べていたと考えられています。文献に最初に登場するのは西暦701年。この年できた大宝律令に記された税制制度「租」「庸」「調」の中の調として、「にぎめ」「まなかし」というのがあり、にぎめは現在のわかめ、まなかしは芽かぶだそう。7〜8世紀に編纂されたという「万葉集」でも、80首あまりの歌でわかめが詠まれています。

 各地の神事などに登場することも多いため、日本人は昔からたくさんのわかめを食べていたというイメージがとても強くあります。「食生活が洋風化し、以前に比べればわかめなどの海藻を食べる量も少なくなって、肥満が増え、生活習慣病が増加し不健康になってしまった……」。そんなストーリーを、心の中で描いている人は多いのでは。

 ところが、実際にはどうも違うのです。たしかにもともと、ほかの国に比べれば海藻類の消費量は多かったのですが、わかめは近年、急激に増えています。

国内生産量は漁業・養殖業生産統計年報、全漁連推計資料より、輸入量は財務省「貿易統計」のデータを㈱食料タイムス社の換算率により、塩蔵わかめは歩留り20%、乾燥わかめは歩留り4%で生原藻に換算(理研食品提供)

国内生産量は漁業・養殖業生産統計年報、全漁連推計資料より、輸入量は財務省「貿易統計」のデータを㈱食料タイムス社の換算率により、塩蔵わかめは歩留り20%、乾燥わかめは歩留り4%で生原藻に換算(理研食品提供)

 漁業・養殖業統計年報によれば、大正11年(1922年)の天然わかめ生産量は1万8653トン。それが少しずつ増えて昭和40年(1965年)には6万1883トンとなりました。
 昭和30年代に養殖も始まり、統計に「養殖わかめ」として初めて登場するのは昭和40年、1万2537トン。同年には、天然、養殖合わせて7万4400トンが供給されたそうです。

 その後、天然ものは減り、養殖は昭和55年(1980年)以降に大きく伸び、しかし国内養殖が減り、韓国や中国産の割合が増えて行きます。消費は順調に増え、輸入品が国産に取って代わり、この4、5年の国産、輸入を合わせた年間供給量(消費量に相当しているとみられる)は約30万トン強です。
つまり、この40年間で消費が4倍強に伸びたのです。

 消費拡大を産み出したのは、技術革新です。
 わかめの養殖は、戦前に満州国の「関東州水産試験場」で検討が始まり、戦後引き揚げてきた研究者が郷里の宮城県に戻り、養殖技術の実用化に取り組みました。そして、同県で昭和30年代に本格的な養殖が始まり、徳島県でもすぐに取り組まれたそうです。

 生産が順調なら消費拡大を、と加工技術も進みました。もともと、天然わかめは、生のまま天日に干す「素干し」や灰をまぶして天日に干す「灰干し」などで流通していました。NHKの朝の連続テレビ小説「あまちゃん」でも、夏ばっぱが干していましたね。しかし、乾燥が不十分だとカビが生えたり色が変わったりしやすく、戻して食べるのにも手間がかかります。

 そこで昭和30年代、福島県で生のまま塩蔵する方法が開発されました。しかし変質しやすく、昭和40年代後半には、わかめをさっと湯通ししてから大量の塩をまぶす「湯通し塩蔵わかめ」が産まれました。これが、現在ももっとも一般的な加工方法で、量産技術が確立されました。
 さらに、湯通し塩蔵わかめの塩分を抜いて、カットしカール状に乾かした「乾燥カットわかめ」が登場。宮城県の企業「理研食品」が昭和50年(1975年)、業務用で売り出しました。翌年には家庭用の「ふえるわかめちゃん」も発売しました。
 この乾燥カットわかめの開発が、爆発的な消費増につながりました。用途がインスタント味噌汁やスープの具材、ラーメンなどの加工食品に広がったのです。

 2010年は、総供給量34万9800トンの17%、5万2300トンが国内生産でした。天然わかめの割合は3%で、97%は養殖ものです。韓国からの輸入が2万6480トン(9%)、中国からの輸入が22万4800トン(74%)に上りました。
国内は、三陸地区が全生産量の75%を占め、鳴門地区(徳島、兵庫)が12%、その他(長崎や神奈川など全国各地)が13%です。

 歴史を振り返るとわかること。養殖の開始や乾燥わかめの開発など、消費拡大の節目に必ず、三陸の人々の努力がありました。

<参考文献>
・「わかめ入門」(日本食糧新聞社)
農水省海面漁業生産統計調査
日本わかめ協会ウェブサイト

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