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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

2.東日本大震災を経て、三陸産わかめは〜わかめをめぐる9つのストーリー

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2014年2月21日

Q2. 東日本大震災の影響は?
A.三陸の養殖場、加工場は軒並み大きな被害を受けましたが、徳島県などの協力も得て2011年夏には養殖再開の準備が始まり、2012年には例年の8割にまで生産が戻りました

 わかめの一生、ご存知ですか? 海で年中とれる、なんて思っていませんか?
 わかめの旬は春。2月から4月が収穫の最盛期です。
 わかめは、海藻の中の「褐藻」の一種。褐藻はほかに昆布やひじきなどもあります。天然わかめは、6〜7月ごろ、胞子が岩場などに定着して発芽し、葉から直接、海の中の養分を吸収し、光合成も行って大きく成長します。根は岩場にしっかりくっ付くためのもので、ほかの植物のように根から養分を吸収するわけではないのです。

理研食品の提供

理研食品の提供

 約1年を経て成熟すると、わかめの根元には胞子葉(芽かぶ)が大きく育ち、そこから胞子が放出されて葉は枯れてしまいます。つまり、わかめの一生は1年で終わるのです。胞子は、岩場に定着し、新しい生育のサイクルがまたはじまります。

 養殖の場合には、胞子葉を水槽に入れて、出てきた胞子を種糸などの「基質」に着生させ発芽させます。しばらく水槽で育てて2〜3センチになったものを養殖縄に基質ごと取り付け、10月ごろに沖合に出して、大きく育てて行きます。そして、3月から5月の寒い時期に収穫するのです。

大きく育ち、引き揚げられる養殖わかめ(理研食品提供)

大きく育ち、引き揚げられる養殖わかめ(理研食品提供)

 養殖だから質が悪い、という思い込みを持っている人がいます。わかめの場合には天然ものが岩場に定着し、養殖ものは養殖縄に固着するという違いがあるだけで、養殖ものとはいっても肥料を与えるわけではなく薬剤も用いず、天然ものと差異はまったくありません。

 こうしてできた養殖わかめを生産者は収穫して船に乗せて加工場へと運び、すぐに湯通し塩蔵加工を行います。海水をわかして30〜40秒ほど湯通しし、冷たい海水で洗って塩をまぶします。加工場は大量の海水を使うので、どの施設も岸壁付近に建てられていました。
乾燥わかめの製造工場もわかめを戻すのに海水を使うため、海のすぐ近くにありました。

 2011年3月11日、東日本大震災が発生した日も、生産者は収穫や加工に忙しく働いていました。しかし、津波により養殖縄はわかめごと失われ、海岸にたくさんあった湯通し塩蔵加工場や乾燥わかめ工場も流されてしまいました。2011年の三陸産わかめの生産はその時点で完全にストップし、三陸での同年の生産量は例年の10分の1の3500トンに留まりました。

農水省 漁業・養殖業生産統計より作成

農水省 漁業・養殖業生産統計より作成

 壊滅的な被害を乗り越え、生産者らは2011年夏から養殖再開にとりかかりました。天然わかめから胞子をとって苗を育て、鳴門わかめを養殖する徳島県から苗の提供を受けました。養殖に必要なロープなど資材も足りませんでしたが、国内や海外から調達しました。漁協や個人の生産者が加工場を新設して、生産再開へ。その結果、2012年の生産量は10年の 約8割の3万2800トン(岩手県1万5400トン、宮城県1万7400トン)にまで戻りました。

 ここまで淡々と書いてきたのですが、この陰には大変なご苦労があったようです。生産者の中には亡くなられた方もいました。養殖は再開できたけれども、湯通し塩蔵する加工場の再建は見送ったという生産者も多かったそうです。
震災前は、個人の生産者の加工場のほか、7漁協が10ラインの湯通し塩蔵設備を持っていましたが、2012年春は3漁協の復旧はかなわず、4漁協5ラインでの再開となりました。
 わかめ加工の最大手、理研食品の大船渡工場は、津波で施設が流されたうえ、火災に巻き込まれて、工場のすべてが失われてしまいました。同社のほかの2工場も1階部分の生産ラインは水没しました。社員やパート従業員が全員避難でき無事だったのが幸いだったそうです。
 設備被害は同社だけで計40億円相当。しかし、2011年6月には、2階以上のラインで生産を再開。また、湯通し塩蔵する加工場が足りないことから、宮城県南三陸町や岩手県陸前高田市などに加工場を新設し、2012年はフル稼働させました。大船渡工場も工場を建て直して、2013年3月に再開しました。こうして、三陸産わかめは蘇ったのです。

<参考文献>
農水省海面漁業生産統計調査
宮城県多賀城市・東日本大震災の記録
・ 三陸産わかめの復旧、復興(理研食品株式会社、佐藤純一)

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