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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

3.放射性物質は心配ない。なのに…〜わかめをめぐる9つのストーリー

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2014年2月27日

Q.養殖わかめが生える場所と放射性物質の関係は?

A.養殖わかめは、海の表層でゆらゆら。だから、放射性物質汚染は考えにくいのです。

 せっかく蘇った三陸産わかめ。なのに、消費者の反応はよくない、とわかめ関係者は不安な面持ちです。理由は二つある、と考えられています。一つは、2011年に三陸産わかめがなかった代わりに中国や韓国産のわかめが輸入され、消費者が品質や価格に慣れたからではないか、ということ。2011年の国内生産量は1万8700トンで、10年の約3分の1でした。その代わりに、韓国産が5万900トン(前年の1.9倍)、中国産が28万トン(前年の1.2倍)、輸入されました。

 輸入品の価格は国産の約5分の1。品質にはばらつきがありますが(後で説明します)、国産並みに高品質のものもあります。この価格に慣れて、高めの三陸産わかめに手を伸ばしにくくなっているのでは、というのです。

美しい海域で、わかめは順調に育っているのだが…(理研食品提供)

美しい海域で、わかめは順調に育っているのだが…(理研食品提供)

 もう一つの理由が、放射性物質汚染への不安です。福島第一原子力発電所の事故以降、放射性物質の懸念を消費者が払拭できていないのです。そのために、「三陸産よりは鳴門産、輸入品」という感覚を持っている消費者がいるのではないか、とみられています。

 消費者庁が2013年2月に行った消費者調査で、「食品を買うことをためらう産地」として、「福島、宮城、岩手3県の産品の購入をためらう」と答えた人が15%いました。

 さらに、2013年に福島原発から汚染水が流出していたことが明らかとなって、水産物への不安が再度、高まってしまいました。日本わかめ協会によれば、これまでなら、わかめ売り場で三陸産わかめをメインで扱ってくれていたスーパーマーケットが、いつの間にか一番目立つところに鳴門産わかめを置くようになったというような現象が、今でも起きているとのこと。別のスーパーが最近行った消費者意識調査でも、いまだに三陸産がいやがられている、という結果が出たそうです。

 しかし、わかめはその生態や生息地からそもそも、放射性物質による汚染はまず考えられないのです。

 福島原発の事故直後、大量の放射性物質(主に放射性セシウムと放射性ヨウ素)が環境中に放出されました。海には、大気中に広がった放射性物質が降下したほか、放射性物質に汚染された水が流れ込みました。

 でも、養殖されていたわかめは津波に流されてしまいましたので、事故直後に降下した放射性物質で直接汚染されることはありませんでしたし、この年の事故後の三陸産わかめは出荷もされていません。そして、放射性ヨウ素は、短い半減期のためもう影響はなく、放射性セシウムは希釈拡散されたほか、土壌粒子などと一緒に海底に沈みました。

養殖わかめは、海面に浮かべた浮球を渡した養殖縄に固着させて育てる。わかめは、海水中の養分を葉から吸収し光合成を行って生育するため、海底の汚染の影響は受けない(理研食品提供)

養殖わかめは、海面に浮かべた浮球を渡した養殖縄に固着させて育てる。わかめは、海水中の養分を葉から吸収し光合成を行って生育するため、海底の汚染の影響は受けない(理研食品提供)

 養殖わかめは、海面の表層の養殖縄から伸び、数メートルに大きくなったところで収穫されます。海水の放射性セシウム濃度は、文部科学省のモニタリング(2011年12月調査)では、宮城県沖上層(表層から1mのところ)の高いところでも、海水1リットルあたり0.0151Bqでした。この時点では、上層よりは下層(表層から187mのところで採水)の方が高く、0.063Bqでした。

 2013年1月調査では、宮城県沖は海水1リットルあたり高いところでも、0.01Bqを下回っています。上層、中層、下層に大きな違いはもう見られません。放射性セシウムは1年前と比べても拡散しさらに薄まったとみられます。

 0.01Bqを下回るような濃度というのは、直接には検査機器で測定できず、海水を何十リットルも採取し、それを濃縮したり、あるいは特殊なフィルターに通して放射性セシウムを捕まえて、そのうえで長時間測定してやっと測定できるような、極めて低い濃度です。

 このような海域で育ち、わかめ自体にも放射性セシウムを高蓄積する性質はありませんので、汚染は起こりえません。

「CraftMAP」(http://www.craftmap.box-i.net/)提供の地図素材を基に作成

「CraftMAP」(http://www.craftmap.box-i.net/)提供の地図素材を基に作成

 2013年に問題となった汚染水も、安倍晋三首相は「湾内でブロックしている」と国会で答弁しましたし、周辺海域でも異常値は検出されていません。わずかに漏れ出していることが仮に否定できないとしても、海水により希釈拡散して行きます。遠く離れた三陸のわかめが汚染されることはありません。

 海水中の放射性ストロンチウムも測定されていますが、これも0.001Bqのオーダーの検出に留まっており、懸念はありません。

 わかめの性質を知り、海水のモニタリング検査結果やわかめ自体の検査結果を知ってもらえれば多くの消費者は納得するのでしょうが、消費者はなかなか自分で文科省や厚労省などのウェブサイトを見つけて数値を調べる、ということをしません。その結果、「なんとなく」の心理が、三陸産わかめを避ける消費行動につながってしまいます。

 こうした“風評被害”がどの程度のものなのか? 最初に挙げた輸入わかめとの競争も相まって、被害額を明確に算出することはできません。しかし、三陸の関係者は「確実に影響がある」と言います。

 津波の壊滅的な被害からいち早く立ち上がったのに、誤解によって売れ行きが元に戻らない。三陸の関係者のこれまでの苦労を思うと、やりきれません。科学的な理解を、と願うばかりです。

<参考文献>

消費者庁・風評被害に関する消費者調査の結果等について~食品中の放射性物質等に関する意識調査~
文部科学省・海域モニタリング結果
厚労省・食品中の放射性物質への対応
全国漁業協同組合連合会
水産庁・東京電力福島第一原子力発電所事故による水産物への影響と対応について
水産庁・汚染水漏洩と水産物の安全性について

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