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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

5.わかめの健康効果は? 〜わかめをめぐる9つのストーリー

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2014年4月2日

Q. トロトロ、ネバネバ、芽かぶには健康効果あり?
A. 研究は行われていますが、科学的根拠が充実しているとはまだ言えません。まずは、おいしさを味わって

養殖わかめは前述のとおり、海の表層に浮かぶ養殖縄から芽を出し数メートルの丈に成長します。根元に胞子葉(芽かぶ)、そこから茎(芯)が伸びて、葉が大きく広がります。成長点は元葉、元茎の部分。葉の先端の部分が一番古い細胞なので、先枯れが少し出始めた頃が収穫どきです。2〜4月に収穫し、先枯れの部分は切り落としますが、それ以外は芽かぶまで含めてすべて食用になります。

いわゆる「わかめ」は葉の部分。茎は、芯抜き作業により葉と分けられて、さまざまな食品に姿を変えています。たとえば、短冊状に裁断して乾燥して、海藻サラダに。また細く裂いて、漬物や佃煮に。さらに、最近多いのは酸っぱい調味液に漬けられたおつまみ「茎わかめ」。歯ごたえがよく、人気の商品です。

春に店頭に並ぶ芽かぶ

春に店頭に並ぶ芽かぶ

成熟した個体の茎の根元にできるひだ上の胞子葉である芽かぶは、旬になると生のままや湯通ししたものが、店頭に並びます。今が最盛期ですね。
茶色の生の芽かぶにさっと熱湯をかけると鮮やかな緑色になります。わかめなどの褐藻類は光合成色素としてクロロフィル、カロチンに加えてフコキサンチンという補助色素を持っています。クロロフィルは青緑色、カロチンは黄色、フコキサンチンは赤色で、海の中ではわかめは褐色に見えます。しかし、湯通しするとフコキサンチンと結合していたたんぱく質が変成しフコキサンチンの光の吸収に変化が起こり橙黄色を呈するようになり、クロロフィルの緑色が鮮やかに浮かび上がってくる、というわけです。

熱湯を半分かけたところ。熱湯がかかったところは、美しい緑色になっている

芽かぶの茎の部分を除き、熱湯を半分かけたところ。熱湯がかかったところは、美しい緑色になっている

これを細かく刻んでトロトロネバネバにし、酢醤油をかけていただく。手軽でおいしい一品です。
最近では、湯通しして刻み味付けもした芽かぶが、パックに詰められてスーパーなどに並んでいます。また、芽かぶを湯通しして丸のまま乾燥させた製品もあります。

芽かぶはQ2で少し説明した通り、完全に成熟すると、そこから胞子が放出され、その個体はその後、死んでしまいます。胞子は鞭毛がついた遊走子で、天然の場合には海の中を泳いで岩場に固着して、すぐに発芽します。養殖わかめとして収穫されるのは、胞子を放出する前の個体です。
芽かぶが大きな人気を得るようになったのはこの10年ほどのこと。テレビで2003年夏に「芽かぶが体臭、口臭を抑制する」と放映された後のことだそうです。
さらに、食物繊維の多さや機能性が注目され、抗がん作用も研究され、粉末や錠剤などの健康食品としても売られるようになりました。産地には芽かぶだけを買い付ける業者が出入りし、引っ張りだこの人気です。たしかに、新しい命の源である芽かぶは、なんだか“効きそう”なイメージがあります。

では、芽かぶの健康効果、機能性についてはどのような学術研究が行われているのか? 論文のデータベース、Pubmedでまずは、わかめ(Undaria pinnatifida)を検索すると、172件。sporophyll (胞子葉)という言葉も合わせて探してみると、19件。研究量としてはまだまだまったく足りない、というレベルです。論文の中にはmekabuという名称を記載しているものもあり、12本の論文が見つかりました(2014年4月1日現在)。いずれにせよほとんどが、マウスやラットを用いた実験か細胞レベルの実験で、人でのエビデンスが足りません。

フコイダンという、褐藻類に多くとくに芽かぶやもずくに豊富に含まれている成分名で調べてみると、論文数は一気に増えます。わかめなどの褐藻類をよく食べる日韓はもとより、ロシアやインドでの研究も目立ちます。フコイダンはネバリをもつ多糖類で、硫酸基が結合しているのが、ほかの多糖類と大きく異なるところ。免疫系への作用が期待され、インターネットでは抗がんや抗ウイルス、アレルギー抑制などの“健康機能”の宣伝があふれていますが、論文の多くはまだ細胞を用いた研究成果です。

でも、昨年11月に日本で高齢者70人を対象とした24週間にわたる二重盲検無作為化プラセボ比較試験の結果が論文として発表されました。人への免疫賦活効果を初めて調べた実験、と論文には書いてあります。芽かぶ由来のフコイダンを毎日300mg食べ続けたグループは、食べていないグループに比べて、インフルエンザワクチン(3種)摂取後の抗体量が、B抗体については摂取20週間後も有意に増加していた。だが、A型のH1N1抗体、H3N2抗体は差がなかった、という結果です。
対象人数が少なく、信頼性が高い研究とは言い難いでしょう。しかも、流行しやすいA型では効果がみられず、作用機序もわからず、「今後の研究に期待しましょう」というレベルだと思います。

熱湯をかけた芽かぶを細かく切って酢醤油をかけて食べる。小鉢に持って約40g

熱湯をかけた芽かぶを細かく切って酢醤油をかけて食べる。小鉢に盛って約40g

理研ビタミンのプレスリリースによれば、フコイダン300mgは、生芽かぶ40gに相当するとのことです。写真の皿に盛った芽かぶが、だいたい40gです。おいしく食べられる量ですが、「毎日、楽に食べられる」とは言いにくいでしょう。
ならば、巷にあふれる「いわゆる健康食品」で摂取? B型インフルエンザだけでも効けばいい?
いえいえ、フコイダンを人が毎日、大量摂取したときの安全性については、まだ確認されていません。生芽かぶをよく食べる人であっても、前述のように毎日欠かさず40gも食べるような食生活はしていないと考えられます。それに、生めかぶは春の一時期に出荷されるだけの食品。「これまで食べてきたから、年中、健康食品として食べても大丈夫」とは言い切れません。

近頃では、ニュージーランドでも芽かぶの機能性研究が行われているほどで、期待の食品とは言えるでしょう。でも、現段階で免疫賦活化やがん予防作用などの機能性をちらつかせて、粉末や錠剤型などいわゆる健康食品の大量摂取を勧めるのは行き過ぎ、と言わざるを得ません。機能性までは行かずとも、芽かぶの独特の味、舌触りは十分に魅力的。春を感じさせる一品として、楽しんではいかが。

そのほか、理研ビタミンの「わかめペプチドゼリー」は、「血圧が高めの方に適した食品」として特定保健用食品の許可を受けています。わかめに含まれるたんぱく質を酵素で分解してできたペプチド(アミノ酸がつながった化合物)が関与成分。こちらは、製品として国が安全性や有効性を一定程度、認めています。

写真:芽かぶの写真
参考文献
・「わかめ入門」(日本食糧新聞社)
The Journal of Nutritionに掲載された論文 Supplementation of Elderly Japanese Men and Women with Fucoidan from Seaweed Increases Immune Responses to Seasonal Influenza Vaccination
理研ビタミン・プレスリリース

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