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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

マルハニチロへの提言〜冷凍食品の農薬混入事件2 

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2014年6月19日

 第三者検証委員会の最終報告書が出た5月29日夕方から、テレビの報道が始まり、翌日の朝刊でも取り上げられた。メディアの多くが「監視カメラ設置などを求めた」などと報じた。
 いや、報告書のポイントはそこじゃない! 薄々予想はしていたのだが、元新聞記者の私としては、非常に残念な報道ぶりだった。

 そりゃあ、報告書の書きぶりが悪いのさ、と言われそうだが、食品企業の関係者の反応は、悪くない。「やっぱり、従業員とのコミュニケーションが肝心ですよね」「力作でした」「これを基に、うちの社もなにができるか検討します」などと、多くの方から言っていただいた。報告書に盛り込んだ多角的な提言が、しっかりと受け止められていた。

 世間は、フードディフェンス、食品防御と聞くとすぐに、カメラだ、ボディチェックだ、というような整理をしてしまう。でも、多様な人が働く場なのだから、そんな対策で足りるはずがない。食品企業の方たちは、その現実をわかっているので、報道関係者と反応が違うのかな、と思う。

 考えてもみてほしい。カメラを工場内の至るところに何百個とつけたとしても、その動画のすべてをリアルタイムでチェックし犯罪を即座に見つけ出して対応することなど無理なのだ。そんなことを可能にしようとしたら、カメラの監視員だけで、数十人必要だろう。

 カメラは、従業員や外部からの侵入者に「記録していますよ」と伝えることによる犯罪抑止効果が大きい。事件があった時には、従業員がかかわっていない、ということを客観的に証明する手だてともなりうる。作業全般の透明化につながり、重要なツールだ。だが、「記録が残っていてもいいから、やってやれ」と実行する従業員や外部侵入者に対しては、監視カメラは無力だ。“その犯罪”はたぶん防げない。容疑者逮捕に貢献できるだけである。
つまり、カメラは犯罪防止の決め手ではなく、ほかのさまざまな対策と組み合わせてこそ、効果を発揮するものなのだ。

 ボディチェックにしても、ごく小さな容器で毒物等持ち込まれれば、実効性が薄い。疑われて体を触られて、従業員が気持ちいいはずがない。だから、アクリフーズの第三者検証委員会でも、ボディチェックは議論の俎上にすらあがらなかった。多くの報道関係等がイメージする対策は実は、本来の食品防御からはかけ離れている。

 もっとも重要なのは、働く人たちが、それぞれの思いは少しずつは異なっていたとしても、安全で高品質の食品を消費者に届ける、という大枠のミッションについて共有し共感し、責任を持って適切に製造し提供することだろう。労働環境も整え、情報がスムーズに流れコミュニケーションのとれる組織にして、そのうえで、カメラやセンサーの設置、出入り口の管理等の施設整備や技術的な対策を多角的に講じましょう、というのが、本来の食品防御の考え方だと思う。

 今回の第三者検証委員会の提言の骨子もこれらに尽きる。だが、マルハニチロはそのうえに、危機管理の失敗として、事件の端緒をつかめず自主回収までに1カ月半もかかったことや、迂遠な回収決断、毒性評価の過ち、稚拙な広報など、何重ものミスを起こした。これらも併せて変革を迫ったのが、委員会の報告書の主旨だ。

 マルハニチロへの具体的な提言内容は、主に次の通り。

1. 食品企業としてのミッションの再確認と浸透

農薬混入反省の日(仮称)の創設し、研修や企画行事等を定期開催/お客様相談センターを組織の中で重視し、食品の安全性について高度な知識を持つ人材を配置。受付日数、時間も拡充/消費者、メディア等、さまざまな声を聞く有識者会議等を開催

2. 組織改革―リスク管理統括部の創設

環境・品質保証部に安全管理室(仮称)を新設し、高度な知識を持つ人材を配置/コーポレート部門に、企業の抱える多様なリスクを管理する「リスク管理統括部」(仮称)を新設。マルハニチロ本社の各事業部門と約180のグループ各社は、なんらかのトラブル等のリスクを見出した場合には、コーポレート部門だけでなく、リスク管理統括部にも伝え、情報伝達ルートの複数化を図る。リスク管理統括部には専門性と決断力を持つ人材を配置し、必要に応じて社長の迅速な判断を求める強い機能を持たせる。

3. 品質保証機能の強化

環境・品質保証部に安全管理室(仮称)を新設/検査体制を充実させる/ISO等の仕組みや考え方を取り入れ、客観的で透明性のある組織的な品質保証活動へとつなげる/規定の見直しやグループ企業への周知徹底/社内での専門家育成

4. 危機管理への備え

事件・事故が発生した場合に備え、回収や広報等までも検討したシミュレーションを定期的に行う/回収判断を決定する社長―リスク管理統括部のリーダーシップを、日頃から明確にしておく/消費者への情報提供、メディアとの連携等の充実/顧客苦情の組織的な共有か、分類、整理、解析等
/内部通報制度の有効活用

5. 食品防御

施設整備や技術的な対策等、食品防御管理基準を定め、グループ全体で運用/社員や契約社員等とのコミュニケーションに努め犯罪を防ぐ企業風土をつくる/群馬工場については、死角を極力減らすようなカメラの設置、外部からの侵入防止、工場内への持ち込みチェック、製造ラインへのカバーの設置等

6. プライベートブランド・オーナーとの関係づくり

自身を製造者として記載したナショナルブランド(NB)商品と、委託を受けて製造していたプライベートブランド(PB)商品の二通りがあり、回収の方法や告知等がまちまちで消費者にわかりにくかったことを踏まえ、PBオーナーとの協力関係の構築、事故発生時の回収に向けての事前合意等を求める

 このほか、第三者検証委員会は、社会への提案も行った。実はこの内容、かなり踏み込んでいる。「食品をめぐる犯罪を100%防ぐのは無理である」ということを前提に、記述しているのだ。これまでの消費者の感覚は、「売られている食品は、全部安全でなければ困る」だろう。その感覚はもうそろそろ、少し改めていただいた方が……という内容になっている。
 報道関係者は、この踏み込みぶりに気付かなかったのかな? 次回、社会への提案を説明する。(つづく)

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