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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

食品犯罪をゼロにはできない。だから社会へ提言〜冷凍食品の農薬混入事件3

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2014年6月26日

 マルハニチログループの「アクリフーズ」群馬工場における農薬混入事件を調査検討した第三者検証委員会は5月末、最終報告をまとめ、その中で「社会への提案」を行った。一企業で発生した事件・事故を検証するために設置された委員会が、社会へと問いかけるのは異例のことだと思う。だが、議論の過程で、必要だということになった。
 
 提案の根底にあるのは「食品への異物混入などの犯罪の発生をゼロにすることはできない。今後も起こりうる」という判断である。マルハニチログループには大きな過失があり、犯罪を防げず混乱を拡大させた。二度と同じ過ちを犯さないように、これから努力が続くだろう。だが、どれほど努力しても、犯罪は起こりうる。人の社会には必ずトラブルがあり、恨みや疎外感等が犯罪の引き金を引いてしまうからだ。
 
 それに、食品は原材料を生産する場から加工を経て製品化され流通ルートを経由して消費者に届き食べられるまで、かなり長大な「フードチェーン」をたどることになる。アクリフーズの事件の結果、工場の中のことだけに社会の関心が集まっているが、実際には、流通段階で縫い針を仕込まれることは日常茶飯事であり、ペットボトルの緑茶に農薬を入れられて店頭に並び、購入して飲んだ人が健康被害を受けてしまったケースも2008年に起きている。

 長いフードチェーンのすべてを、パーフェクトに監視して“こと”を防ぐのは無理だということを、事業者と消費者の双方が念頭に置いて行動する必要がある。

食品防御についての社会の備え

 そのために、委員会の社会への提案では「食品防御についての社会の備え」を求めた。各事業者のハード整備による犯罪防止は重要だが、その前に従業員との信頼関係を構築し、外からの侵入と内部関係者による犯罪の双方を未然に防ぐ取組を行うべきであることを記述している。

 ここから先は、委員会の報告書から逸脱してしまうが、米国食品医薬品局(FDA)は、Employees Firstと言っている。従業員が、作業場を点検し異変に気付くのが大事だ、ということを示している。

Follow  食の防衛に関する職場の対策や手順に従う
Inspect 作業場とその周囲を点検する
Recognize 普段と違う点に注意する
Secure すべての原材料や使用品、製品を安全に保つ
Tell 異常や疑わしい点に気付いたら、上司に伝える 
 
 上記の頭文字をとって、Firstであり、もちろん従業員が一番大事、という意味も込められているだろう。「作業場とその周囲を点検する」という呼びかけの中には、お互いに気をつけようね、という意味も込められているはずである。

 Employees Firstは、消費者から苦情が来た後の「危機管理」の段階でも同様に重要だ。食品企業には日常的にたくさんの苦情が来る。味や臭いは消費者の体調によっても変わってくるものなので、異常がなくても「おかしい」と感じてしまう人がいる。そういう苦情と、本物の異変を選り分けて、真の大きなリスクに迅速に対応するには、日頃の製品や作業状況をよく知っておかなければならず、その蓄積があるからこそ、敏感に異変に気付ける。

 今回の事故では、工場の品質保証担当者の感度はよかったのに、それを現場感覚のない本社社員や親会社などがミスリードしてしまった。
 だからこそ、現場で動いている人たち自身のEmployees Firstの感覚が大事で、その意思がまずは、尊重されなければならない。
 食品にかかわるすべての企業に、「犯罪が起きる余地をゼロにはできない」ということを前提に、従業員とのコミュニケーションに努め、「もし起きたらどう動く」も日頃から検討してもらいたい。個人的には、そのように考えている。

第三者検証委員会から消費者へのお願い

 「犯罪が起きる余地をゼロにはできない」を前提にするならば、消費者も、最後の防波堤として「自らをどう守るか」を考えておく必要があるだろう。そのため、委員会では、次のような項目を提案した。

1. 包装異常やへこみ、ふくらみのある食品は食べない。
2. 開栓した時に通常と異なる感触だったペットボトル飲料は、飲まない。
3. 普段と異なるにおいや味、外見など、疑いを持った食品は食べない。
4. 異常を感じたら、店やメーカーなどにすぐに連絡する。
5. 新聞やテレビ等の回収(リコール)情報に注意する。
6. 消費者庁のリコール情報サイト(http://www.recall.go.jp)や都道府県の同様のサイトもチェックする。
7. 食品のリコールには、法令違反だが健康影響は考えられないものと、健康被害をもたら しうるものがある。後者としては、今回の事件のような高濃度の農薬汚染や、食中毒を 招く微生物に汚染された食品のリコールなどが該当する。リコール情報に接した時には、 健康影響があるかどうかをしっかりと区別し、健康影響のある食品リコールにはできる限り素早く対応し、回収などに積極的に協力する。
8. 子どもには、拾ったもの、知らない人からもらったものなどは食べないように伝える。

 要するに、「売ってあるものだから、安全」と思い込まないでね、ということだ。そして、自主回収が頻繁に行われる中で、本当にリスクの大きいものは見分けて適切に対応してほしい、という要望である。

 挙げた項目は、やはりFDAから出されている消費者への要望を、日本での状況に合うように修正して作ってみた。おそらく、細かいところでは異論もあるところだろう。私自身が後で思ったのは、「地元の保健所に相談したり、情報を教えてもらったりしましょう」という一項を入れておいた方が、より現実に即していたかな、ということだった。

 これから修正版を多くの方に作っていただきたい。「消費者も注意」を今後、広めて行きたい。

危機管理時の食品分析について

 これについては、背景説明が必要だ。中間報告書への追記という形で書いているが、アクリフーズの問題が発覚した当時は、残留農薬の検査を検出限界1ppmで行っていた。加工食品の残留農薬はポジティブリスト制の下、0.01ppmで検査を行うことになっているが、検出限界を低くし、ごく微量を正しく測定するには時間がかかる。高濃度の農薬を意図的に投入するような事件が発生した時には、早く汚染された食品を特定するのがなによりも大事で、それには検出限界を上げて素早い検査を行う必要がある。

 そのため、アクリフーズは検出限界を1ppmに上げて、検査スピードを上げた。ところが、事件発覚の約2週間後、一部のメディアが「甘い基準で検査している」と報じた。少ない量は「検出せず」とすることで、事件を大きくしないようにしている、と勘違いされたのかもしれないが、「まずは素早い検査を」というアクリフーズの方針に誤りはない。ところが、同社は報道を受けて検出限界を0.01ppmに下げる、という判断ミスをしてしまった。

 農薬の問題が発生した時に必ず0.01ppmの検出限界で測定する、というような判断が前例となってはいけない。検査は、それぞれの状況に適したやり方があり検出限界があり、もっとも適切な検査を科学的に判断して選択する必要がある。そのことを、社会やメディアに改めて説明しておこう、というのが、この提案の意図である。

PB商品に付随する問題

 この項目は、上記の3つとは性質が異なり、犯罪の被害拡大を防ぐためのものではなく、今後の日本の食のあり方への問いかけだ。
 今回の事件では、プライベート・ブランド(PB)商品をめぐり混乱が起きた。PBオーナーによって、告知や回収方法等が異なり、消費者にとっては極めてわかりにくかった。
 もちろん、事件を防げなかったマルハニチロ・アクリフーズに問題があり、PBオーナーが責めることはできない。だが、「食の安全の確保」ということを考えた場合、なにか事件事故が起きた時の回収におけるマネージメントは、できたらやっぱり揃えてほしいし、それだけでなく、生産におけるリスク管理においても共通化できることもあるのではないか、社会で一考の価値ありではないか、というのが委員会の提案である。
 
 この先は個人的な意見。生産時のリスク管理や回収方法等が異なるのはPB特有の話ではなく、ナショナルブランド(NB)も同じで、それぞれ違う。
 個々の企業の判断、やり方は、尊重しつつも、品質保証、安全確保という非競争分野では、情報を開示し協力し合う流れを作って行く必要がある、というのはPBもNBも同じだろう。

 以上、第三者検証委員会の報告を、なるべくわかりやすくかいつまんで解説した。次に、当事者の話をご紹介したい。批判することは簡単で、記者会見では結局、当事者を詰問し糾弾し、で終わってしまう。だが、当事者は、経験した者でなければわからない反省や視点を持っている。その声に社会が真摯に耳を傾け学ぶことが、必ずや社会の対策、多くの事業者による再発防止につながって行く、と私は信じている。まずは、委員会事務局長を務め、現在はマルハニチロ株式会社の環境・品質保証部長を務める石原好博さんの話を聞こう。(つづく)

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