ホーム >  専門家コラム > めんどな話になりますが… > 記事

めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

またもゼリーで自主回収。マルハニチロ再生は可能か? −冷凍食品の農薬混入事件(最終回)

  • シェア
  • Check
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Share
2014年7月18日
群馬工場再開に向けて、取り組みを語る専務取締役、押久保直樹さん

群馬工場再開に向けて、取り組みを語る専務取締役、押久保直樹さん

 マルハニチロ株式会社は、近く群馬工場を再開することを公表し、準備を進めている。一方で、6月には「さけ中骨水煮」で自主回収を行い、この7月8日には、ゼリーの自主回収を公表した。今、社内はどう動いているのか? 最後に、環境・品質保証部、中央研究所担当の専務取締役、押久保直樹さんに聞いた。

松永 残念なことにこのところ、マルハニチロは自主回収をたびたび行っていますね。「さけ中骨水煮」については、缶容器の一部の金属片の混入があったとして、約108万缶の自主回収を発表しました(6月13日付広報文)。さらに7月8日、ゼリーのフタフィルムとカップの密封箇所外側にカビが発生したとして、 約67万個の回収を発表しました(7月8日付広報文)。気になるのは、6月23日から7月3日にかけて4件の苦情があったと一部新聞で報道されたことです。回収までの経緯を教えてください。

押久保 当初お客様からのお申し出品2件を確認しましたが、お申し出品からは汚れの詳細が確認出来ず、流通上での破損による可能性も含めて調査しましたが、判明には至りませんでした。その後7月2日(水)に同じロット品でのお客様からのお申し出が確認されたことから、速やかに同ロットの出荷を停止し、お申し出品の汚れ箇所を外部検査機関に調査を依頼しました。翌3日(木)に付着物はカビであることが判明し、4日(金)に社内関係部署で対策会議を開き、取引先対応も行いながら、7日(月)の夜に自主回収を決めました。

松永 広報文を読むと、「密封性は確保されており中身の安全性に問題はない」とあります。広報文の説明はとても明確で、図も入っていてわかりやすく、通常は週末休むお客様相談室も、自主回収直後の土日である7月12、13日は休まずフリーダイヤルで問い合わせを受け付ける、ときちんと説明していました。私は、以前の広報文に比べるとずいぶんと親切だなあ、客の気持ちをきちんと考えているなあ、と思いました。

 今回の自主回収は食の安全に影響するものではなく、大騒ぎするような話ではありませんが、アクリフーズの問題の記憶が消費者には鮮明に残っていますから、大々的に報道されて非難されても仕方がない面があります。それだけ重いものを、マルハニチロは農薬混入事件で背負ってしまった、ということでしょう。

押久保 第三者検証委員会の最終報告も受けて思うのは、「消費者の声を聞く」という姿勢が当社には決定的に欠けていた、ということです。企業風土を変えて行くのは簡単ではないでしょう。しかし、他企業の中にはたとえば、個人株主を増やすことから始めて、長い時間をかけて企業風土を変えて行った例もあります。消費者の声はクレームだけではなく商品の提案もあります。活かして行きたいと思います。

松永 押久保さんは、昨年6月に農林中央金庫からマルハニチログループに来られ、ホールディングスの取締役・執行役員であり、マルハニチロ食品の副社長でした。第三者検証委員会発足後は、担当役員として会議に全て出席されました。今年4月にマルハニチロ株式会社が統合し新発足して以降のことをおうかがいします。会社は今も、ウェブサイトのトップページの一番上に農薬混入事件についての謝罪をかかげ、お客様へのお願いとして回収を呼びかけています。今も、この混入事件にからむ製品が返されているのですか?

押久保 現在は、1日に30~40個程度が戻ってきています。群馬工場の製品かどうか確認し、群馬工場製の場合は開封してまず臭いをかいで、という作業が続いています。1月30日までに計12点の製品からマラチオンを検出して以降、問題のある製品は見つかっていません。

松永 組織改革は、どのように進んでいますか?

押久保 第三者検証委員会の中間報告を受けて再発防止策と危機管理再構築計画を策定し、実施しています。4月の会社統合と同時に発足した社長の直轄組織として設置した「危機管理再構築委員会」で、検討を進めています。グループガバナンス/食品安全・フードディフェンス/品質保証体制/危機管理体制/ブランド/労務問題改善——の6つの項目について再構築プロジェクトを立ち上げています(マルハニチロ・危機管理再構築委員会)。

松永 事件は、犯罪を防止できなかったこともさることながら、異常事態が起きたときの危機管理に大きな問題がありました。たまたま、その時の担当者に安全に関する知識が不足し、適切に対処できませんでした。すべての社員、契約社員の知識をレベルアップして、なにかあった時にすぐに対応できるようにするのは難しい、という現実もありますが。

押久保 組織に「たまたま」はないんです。対応できない時には、それは組織に力がなかった、ということです。経営者以上の組織はできません。ですから、今回の問題はやっぱり、経営陣に大きな問題があった、と私は受け止めています。取締役会等が十分に機能していなかったのです。現在は、危機対応時にはだれが何を担当し、どのように責任を持つのか、明確になっています。情報を共有化し整理をしています。

松永 群馬工場は、ピザラインとクリームコロッケラインについて近く操業再開する予定だそうですね。現在、群馬工場ではどのような準備を進めておられますか?

押久保 工場が稼働していない間、契約社員の方々には近隣の他企業などで働いていただき待っていただきました。退社された方も相当数いましたが、約7割は残ってくれました。7月から契約社員の方々と工場再開へ向けて準備を進めています。社員、契約社員については、何よりも社内のコミュニケーションを大切にし、風通しの良い職場環境をつくることに取り組んでいます。目指しているのは昔の下町のようなコミュニティです。そのうえで、お客様に提供する食品の安全を守るため、フードディフェンスの意識を高める教育を全員に実施し、社内管理基準にもとづく作業確認を行っています。

 施設整備については、死角を極力減らせるように、170台のカメラを設置しています。マルハニチロでは「安全安心カメラ」と呼んでいます。食品と従業員の安全、およびお客様にご安心戴きたいという思いを込めています。生産ラインにはカバーを付けたり、作業者の移動を記録するためのICタグなども活用を図ります。人事・給与制度についても、頑張りに応じた待遇になっていないというということがないようにします。

松永 事件当時、いろいろと嫌な思いをされたであろう契約社員の方々が戻って来てくださる、というのは嬉しいことですね。信頼関係を再構築するとともに、安全性が確保され高品質の食品を生産するための作業を実行していただかなくてはいけない。今は、犯罪を防ぐフードディフェンスだけに世間の関心が集まっていますが、通常のリスク管理、微生物対策やミスによる異物の混入の防止など、当たり前のことをしっかりとやって行くことが、実はやっぱり難しい。両方にしっかりと取り組んでいただきたいと願っています。

⇒ めんどな話になりますが…記事一覧へ

専門家コラム一覧

FoodScience 過去記事

以前、他のサイトで掲載されていた記事をこちらより選択してご覧いただけます。
FOOCOM.NET 会員募集 科学的根拠に基づく食情報を消費者に提供するために、ご協力ください。

お知らせ

FOOCOM会員、執筆者がかかわる催し、講演(10/17)
<FOOCOM事務局よりのお願い> 「FOOCOM.NET」にアクセスいただきありがとうございます。私たちは201…【全文を読む】
FOOCOM お役立ちリンク集