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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

野菜の食中毒、O157だけでなくリステリアにも気をつけて

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2014年8月26日

 「冷やしキュウリ」が原因と見られる腸管出血性大腸菌O157食中毒は、患者501人、入院した人115人という大規模な事件となりました。5人は溶血性尿毒症症候群(HUS)を発症しています。(8月20日現在、静岡市保健所・O157食中毒の発生について)。
 HUSは、腎臓に大きなダメージをもたらし、後遺症が残る場合もあります。意識障害が出るケースも報告されています。死亡者が出ていないので、2011年のユッケ事件や12年の白菜浅漬け事件に比べてマスメディアの注目度は低いようですが、私は同じくらい深刻な食中毒だととらえています。

 静岡市内の花火大会の露店で売られた冷やしキュウリが原因食材というのはほぼ確定のようですが、保健所は感染ルートを特定できなかったそうです。
 感染ルートは二つ考えられるでしょう。一つは、キュウリにもともと菌が付着しており、調味液に漬けた後に割り箸を刺すなどの調理加工を施した時に増殖した可能性です。土壌中には腸管出血性大腸菌もいます。12年に白菜の浅漬けによる食中毒で8人が死亡した後、厚労省は漬物の衛生規範を改正しました。野菜をよく洗い殺菌料なども用いて菌除去を徹底するように求めています。しかし、強制力はなく、今回の業者も、殺菌料は使わなかったようです。
 
 もう一つの感染ルートは、調理加工者が不顕性感染しており、菌がキュウリに付き、増殖した可能性です。保健所は、6人の調理加工者の1人からO157を検出しましたが、冷やしキュウリを食べていたため、不顕性感染か食べての感染か、特定することはできませんでした。
 
 産経新聞の平沢裕子記者が、生野菜のO157食中毒リスクについてとてもわかりやすい記事を書いています。ご一読をお勧めします。

 ただし、O157だけでなくほかの菌も要注意。とくに、今後しっかり気をつけてほしい菌があります。リステリア・モノサイトジェネスです。

 この菌も、土壌や河川水等にいます。感染発症し重症化すると、髄膜炎・敗血症等になり、最悪の場合には死にも至ります。この菌がやっかいなのは、冷蔵庫中の低温でも高塩分でも増殖できる点です。健康な人は症状が出ないことも多いのですが、妊娠中の女性や胎児、新生児、それに高齢者は重症化しやすいとされています。

 リステリアが検出されやすい食品は食肉や生ハムなどの食肉加工品、ナチュラルチーズなどですが、野菜にもいます。とくに2011年に米国で起きたカンタロープという編目の付いたメロンの食中毒は衝撃的でした。147人の患者が発生し33人が死亡したのです。
 このメロンを生産したのは、コロラド州の1農場でした。収穫したメロンを集めて包装する施設がリステリアに汚染されていました。農場主は責任を問われ、今年1月に半年間の自宅勾留と5年間の保護観察処分などを命じる判決が下っています。

 欧米では、そのほかにもコールスローサラダやホットドック、チーズ等が原因のアウトブレークがしばしば起きています。米国では、年間に約500人がリステリア症で死亡しており、食中毒死亡の約1割を占める、という推定もあります。そのため、リステリアによる食中毒は非常に重視されていて、一般市民への注意喚起も厳しく行われています。米国疾病管理予防センター(CDC)は専用ページで消費者に情報提供しています。

 ところが、日本ではあまりリステリアに注意が向けられていません。厚労省の食中毒統計では、リステリアが原因の食中毒は記録されたことがありません。そのため、日本ではリステリア菌が少ないのでは、と思われていた時期もあったようです。

 しかし、詳しい調査で、食品の汚染率は諸外国と大差ないことがわかってきました。また、原因のわからない「リステリア症」も報告されています。日本ではリステリアは届出の必要な感染症とはなっていないので、統計データがないのですが、年間に数十人程度は発症しているようです。

 つまり、潜在的なリスクは相当に高いとみられるのに、消費者は関心が低く、事業者も中小を中心に注意不足という状況なのです。
 
 食品安全委員会が、リステリアについて食品健康影響評価書を出しており、季刊誌で説明したり、セミナーも開催しています。

 評価書によれば、国内の調査で汚染率が比較的高いのは食肉、輸入生ハム、輸入ナチュラルチーズ、マグロすきみ、めんたいこ、スモークサーモン、もやし、浅漬け(一夜漬け)等です。こうしたことから、輸入生ハムとナチュラルチーズについては、輸入検疫時に検査が行われています。厚労省も妊婦向けパンフレットを作っています。

 ふだんなにげなく食べている野菜。よもや食中毒なんて、と思いがちですが、やっぱり注意が必要なのです。家庭でも、野菜をよく流水で洗って菌を取り除いた後、菌を増殖させないようになるべく早く食べるのが鉄則です。米国CDCは、メロンやキュウリについては、清潔なブラシでゴシゴシ洗え、と書いています。もやしはゆでて食べましょう。一夜漬けも、家で漬けるならよく洗って調理を。買ってきたものは、できれば早く食べた方がいいでしょう。
 
 事業者にも、腸管出血性大腸菌やリステリア等を十分に管理した加工をしてほしい。わが家のごはん時、冷やしキュウリを話題にしたら、うちの娘も露店で何度か買ったことがあるとか。「お祭りの露店って、まずいものが多いんだけど、冷えたキュウリって、おいしいよ」と言っていました。そんなものを娘が露店で食べているなんて、知りませんでした。さっそく、なにが問題となっているのか、説明しました。たしかに、氷水で冷やされていて清潔感もある。でもね、という話です。

 もう少し家庭でも、微生物による食中毒の怖さを語り合うべきなのでしょう。微生物はいろいろなところにいます。食品にも必ず付いています。ですから、恐れすぎてはいけない。でも、侮ってはいけない。適切に対処するための私たちの“常識”を、科学的に深めて行く必要があるのです。

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