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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

日本人と減塩 4日の「クローズアップ現代」は必見です!

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2014年9月3日

 東京大学大学院医学系研究科の佐々木敏教授から、4日のNHK「クローズアップ現代」に出ます、とお知らせをいただいた。テーマは「道は険しいけれど… ~“減塩社会”への挑戦~」だ。
 
 おそらく、減塩というのは日本人の健康にとってもっとも重要な改善ポイントの一つだろう。食塩(塩化ナトリウム)を多く摂取して行くと、確実に血圧が上がって行くという明確な科学的根拠、エビデンスがある。それが、心血管疾患につながる。

 日本人は、国内外の調査で食塩摂取量の多さが指摘されてきた。マスメディアはやれトランス脂肪酸フリーだ、無添加だ、とはやし立て、消費者も高価な健康食品を食べて健康になりたい、と願うが、減塩はそんなものとは比較にならないくらい、安くて確実な健康法だ。だが、あまりにも当たり前過ぎて、顧みられない。この番組は、食の安全、健康を考える人にとって必見の番組となりそうだ。

 佐々木先生の研究グループはこれに先立ち、学術誌Britich Journal of Nutrition8月号に論文が掲載された。番組でもこの論文が解説されるはずだ。非常に興味深い内容なので、ここでも少しだけ紹介したい。

 実のところ、日本の食塩摂取量調査はこれまで不十分なものだった。世帯ごとの食事調査の結果を、父親35%、母親25%、子ども二人分で40%というふうに割り振って算出していた。
 そこで、研究グループは、福祉施設で働く栄養士やその同僚など750人あまり(20—69歳の男女)に尿を24時間溜めてもらい、その畜尿中のナトリウムとカリウムの分泌量を測定し、そこから食塩摂取量を計算した。
 食事調査は記録や記憶の間違いなどで、実際の量とくい違いが出やすい。一方、24時間畜尿検査であれば、食べたうちのどれくらいの割合が尿に排出されるか、ほぼおおまかな数字がこれまでの調査研究からわかっているので、摂取量を食事調査よりもより正確に把握できる。

 結果は、ナトリウム摂取量を食塩に換算すると、平均して男性で14.0g、女性で11.8g摂取している、というものだった。論文で引用している2010年の国民健康・栄養調査では、20歳以上の男性の平均は11.4g、女性が9.8 g、2012年がそれぞれ11.3g、9.6gである(平成24年 国民健康・栄養調査結果の概要のP13参照)。今回の結果は、これらの数字よりも高い。そして、WHOの推奨量(1日5g)、厚労省の現行の食事摂取基準(男性9g、女性7.5g)を大幅に上回っている。同じ人を2回、日を置いて測定し、さらに極端なはずれ値も畜尿ミスなどを考慮して対象データから外すなど、非常に厳密な解析がなされており、今回の結果は信頼度が高いだろう。この数値を基に計算すると、WHOの推奨値をクリアしているのは、人口のわずか0.063%に留まるだろうと論文には書かれている。

 さらに問題は、カリウムの摂取量の少なさ。カリウムはナトリウムとは逆に、多いほうがいい。ところが、日本人はカリウムの摂取量がかなり少ない。WHOの推奨値をクリアしているのは人口の7.5%に留まるとの見込みだ。日本人は野菜や果物を多く食べるとされ、カリウムを多く摂取していると見られていたのだが、実際には少ない。論文ではこの理由については記述されていないが、佐々木先生は月刊誌「栄養と料理」2012年2月号で、日本人が料理する時に野菜のゆで汁は捨てるなど手をかけすぎていることや、精白度の高い穀物を好むことなどが、カリウムの摂取量の少なさにつながっているのでは、と考察している。

 今回の調査研究は、参加者が福祉施設の栄養士を中心とする職員なので、つまりは健康に気を遣っている可能性が高い。実際に参加者の97.1%が「ナトリウムの過剰摂取が高血圧につながる」ということを知っていた。ところが、塩分をかなり多くとり、カリウムは少ない。元気に働いている人たちなので、食事を食べる量も多いだろうとは言え、この数字。ということは、気にしない一般人の摂取状況は……。とても心配になってきた。

 これまで、日本人の減塩志向は進んでいる、と思われてきた。国民健康・栄養調査で減ってきていたし、伝統的なしょっぱい食事から洋風化してきた、という流れもあったからだ。
 だが、国民健康・栄養調査の食塩摂取量の減少は、高齢化に伴い総エネルギー摂取量が低下してきたためで、1000kcalあたりの塩分量はほとんど変わっていない。これは、佐々木先生の従来からの主張だったのだが、実際に今回の調査結果を見ても、日本人の塩味好みは変わっていないようだ。こうしたことが、論文ではきちんと説明されている。

 さあ、どうする? クローズアップ現代で、佐々木先生がなにをお話しされるのか、楽しみだ。
 日本人の食塩摂取量は、世界的に見てトップクラスの多さである。このままでは「和食は素晴らしい」「健康に良い日本食を世界に広めたい」と言っても、世界には通用しない。文化的な面は評価されても、各国の栄養学者にはせせら笑われるだろう。日本食が他にどれほどの長所を持っていても、食塩の摂取量の多さは、それらをすべて打ち消すほどのインパクトを持っていると私は思う。
 ところが、こうしたエビデンスをきちんと固めず、食塩摂取量の多さには触れずに、農水省などが盛んに和食、日本食を宣伝している実情がある。こうした世間の流れに、くさびを打ち込む番組になってほしいと思う。

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