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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

安全性確保の要件は厳しい—機能性表示の新制度

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2014年9月23日

 現在、パブリックコメントを実施中の機能性表示制度。事業者が機能性と安全性を確認し国に届け出て、自らの責任で表示するという、これまで国内になかった新しい仕組みだ。消費者は、製品の表示や事業者によるウェブサイト等での公開情報を見て判断し、製品を買うことになる。国は「消費者の誤認を招かない、自主的かつ合理的な商品選択に資する表示制度」と言うが、結局は消費者のリテラシー、つまり情報収集力や解析力を大前提としている。消費者にもそれなりの“覚悟”が要る制度だと思う。

 では、事業者はどの程度の安全性と機能性を求められる? 
 前回のコラムでも書いた通り、その肝心の点が、今回のパブリックコメントで示された食品基準案と関係資料ではわからない。今後出されるガイドライン等で具体的に示されるという。
 結論から言えば、安全性、機能性について事業者が求められる要件はかなり高くなると思う。検討会報告書とパブコメ資料を基に、なるべくわかりやすく説明したい。

 まずは、「安全性確保のあり方」について。
 「食品だから安全に決まっているでしょ!」とならないのは、皆さんご承知のとおり。たとえば、アマメシバはアジアで野菜として食べられてきたが、大量摂取や乾燥粉末化した健康食品が原因で健康被害が起き、日本でも粉末・錠剤などは販売禁止となった(「健康食品」の安全性・有効性情報のアマメシバに係わる健康被害の事例)。
 
 また、東北で昔から食べられてきたスギヒラタケは、2004年と07年に健康を害した人が現れ、今や林野庁は食べないように注意喚起している。詳しく調べた結果、腎臓に疾患のある人を中心に急性脳症を起こす場合があることが確認された。透析患者で発症した割合は4.3%。つまり、昔から食べてきたと言うが、腎臓疾患は大病であり生きながらえることがなかなか難しい病気だった。そして、医療の進歩により「腎臓疾患を抱えながらスギヒラタケを食べる」ということが実現したからこそ、スギヒラタケの有害性が明らかになったのだ(厚労省自然毒のリスクプロファイル:スギヒラタケ)。

 このように、農産物や水産物などだから安全とは言えず、さらに乾燥や抽出濃縮等が施されるカプセル・錠剤型のサプリメントであれば、よりいっそうの注意が必要だ。したがって、安全性を確保する要件はかなり厳しく規定されることになる。

 新制度では第一に、機能性関与成分は、その物質が特定され含有量も明らかにされなければならない。抽出エキスなど、すべての組成成分を把握することは難しいが、少なくとも主要成分は測定可能でなければいけない。
 そのうえで、機能性関与成分または、その成分を含んだ食品が、一定期間食べられてきたという実績、つまり「食習慣」があるかどうかが問われる。
 ある程度の年数、もしくは何世代にもわたって広く食べられてきたものであれば、つまりは非意図的な人体実験を経たものであれば、安全性は確保されているだろう、という考え方だ。

 今のところ、食習慣ありとみなしてよい年数や世代数、どのくらいの人口が食べてきたかなど、具体的な要件は明確でない。ガイドラインで示されることだろう。スギヒラタケの件もあるし、それなりの「ハードル」となることだろう。

 食習慣を検討し、機能性表示後も食べる量や食べ方が歴史的実績の範疇にとどまるのであれば、それで良しとなる。だが、機能性を表示した製品が出回ることにより食べる量が増えるなど、これまでの判断の範囲を超える場合には、さらなる試験が必要となる。
 
 具体的には、動物を用いた遺伝毒性試験や急性毒性試験、反復投与試験、生殖発生毒性試験などが求められるほか、臨床試験、すなわち人が過剰に食べてみる試験、あるいは長期に食べ続ける試験などを行って、問題ないことを確認しなければいけない。
 ただし、この試験は製造・販売する事業者が必ず行わなければいけないわけではなく、既存の文献等を収集して判断してもよい。

 もう一つ重要なのは、医薬品等との相互作用を確認することだ。もちろん、スギヒラタケだけでなく、病気の人が食べると影響あり、という食品はさまざまあるので、今回の制度では病気の人は完全に対象外。だが、健康な人も時には医薬品を飲むし、機能性を表示された食品を食べてきた人が努力の甲斐なく病気となり医薬品を投与される、ということもおおいにあり得る。したがって、相互作用はあらかじめ試験したり文献を収集したりするなどして、事業者が検討して評価しておかなければいけない。
 医薬品だけでなく、機能性関与成分同士についても相互作用は調べておけ、ということになりそうだ。

 ちなみに、一般消費者はあまり知らないことだが、医薬品と食品やいわゆる健康食品、特定保健用食品などとの同時期摂取は、どちらも摂取量が多いので、原則として要注意だ。愛知県薬剤師会のページや、城西大学薬学部で運用されている食品—医薬品相互作用データベースなどで、情報提供がなされている。病気だから健康食品に手を出す、というのは、医師などからの相談がない限り、止めた方がいい。

 このようにして「安全性を確保できる」となった場合、次のステップは「製造時に毎回、同じようにその安全性を確保できますか?」をクリアすることだ。
 今回の制度では、HACCPやGMPなどを実施して品質管理に取り組むことが求められている。これらは、食品の製造や加工工程で危害が発生する可能性のあるポイントをあらかじめ割り出して、その対策をきちんと講じて製造すること、また監視や記録などをしっかりと行うことにより、安定した品質、安全性を確保した生産を毎回行うようにする手法。民間の認証審査機関なども数多くある。
 さらに、製品を検査して規格に合致するか確認することも求められる。

 ただし、消費者が根本的に押さえておかなければいけないのは、これらの安全性の要件は「義務化されていない」ということ。あくまで自主的な取り組みであり、消費者庁も書類をチェックするのみ。事業者がきちんと実行するのかどうか、事前の監視はない、審査もしない。今、審査や監視をする組織が検討されているが、それもあくまでも民間ベースの話だ。
 さて、事業者はきちんとこの面倒くさい「安全性確保」をやってくれるのだろうか?

 義務化しない代わりに、事業者は取り組んでいる内容を、ウェブサイト等で情報公開することが求められている。それを見て、消費者は「食習慣は十分ね」とか、「なんだ、GMPをやっているけれど、聞いたこともない認証機関が認定している。大丈夫かしら?」などとチェックする。
 あなたは、できますか? つくづく消費者にとっても大変な新制度だと思う。

 実は、さらにもう一つ、重要なポイントがある。消費者庁は各事業者に「健康被害等の情報収集体制を整備しなさい」と要請する構えだ。企業内に相談体制を整え、なにかあったら保健所や消費者庁へすぐに連絡するように、としている。また、行政も地方の消費生活センターなどの対応を強化し、被害情報を収集し解析しすばやい対応に結びつけ、必要な場合には注意喚起、販売禁止等につなげる。そのことは、専門家による報告書で要請され、消費者庁のパブコメの関係資料にも記述されている。
  
 そこで、ふと我に返るのだ。これまで消費者は「食品は安全だ」という前提のもとに食べてきた。健康被害が起きると「起きてはいけないことが発生した」と憤り批判してきた。
 だが、よく考えてみるとこの新制度、「健康被害が起きる」ということがあらかじめ予測されて、対応が行政にも事業者にも求められている。これまでの「食」の概念を180度ひっくり返している。

 それくらいの新機軸、新制度なのだと理解した方がいい。それと引き換えに、消費者は「機能性」というメリットを得る。では、そのメリットを担保する要件はなに?
 安全性確保のほんの触りのエッセンスを紹介するだけなのに、これだけの字数を要してしまった。これほど複雑な制度である。次回、機能性の要件について、説明する。

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