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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

機能性、どの程度あれば表示できる?   新制度を読み解く

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2014年9月25日

 新しい機能性表示制度を解説する3回目。やっと、肝心の機能性にたどり着いた。いやはや、この制度は複雑、面倒くさい。そんな商品を、消費者は選べと言われている。
 機能性の要件については、食品表示基準案には盛り込まれておらず、今後出てくるガイドライン等で具体的に提示される。そのため、9月26日まで実施中のパブリックコメントの「関係資料」と専門家を集めた検討会報告書から、その概要を描いてみたい。

 機能性は、二つの方法のどちらかで根拠を固める必要がある。(1)最終製品を用いた臨床試験 (2)最終製品または機能性関与成分に関する研究レビューのいずれかである。

(1)最終製品を用いた臨床試験

 これは、ヒトが食べて効果を調べる試験。ヒト介入試験とも表現される。最終製品、つまり販売される食品を食べてみて「効果あり」が示されれば、かなり明確なエビデンスと言えるだろう。

 そのために要求される臨床試験のレベルは、消費者庁の関係資料では、「原則として特定保健用食品の試験方法に準じる」と記載されている。厚労省が出した通知などによれば、機能性関与成分を含む食品を食べるグループと、機能性関与成分を含んでいない「プラセボ」食品を食べるグループを設定し、食べている人はどちらを食べているか知らない、という状況で比較する。

 ただし、機能性関与成分を含有し機能性を期待する食品を食べるグループに不健康な人を集める、というような恣意的な割り付けをしてはいけないし、少人数の試験だと偶然差がつく、ということも起こりうるので、統計学的に必要な人数を参加者としなければいけない。そして、研究結果をまとめた論文を作成し、第三者がしっかりと掲載審査をする(査読という)学術誌に投稿して載ることも、今回の制度の機能性表示では求められている。

 不正対策は、ほかにもある。少人数の試験を何度も行って、都合の良い結果が出たものだけを論文にまとめ掲載にこぎ着け、それだけを公にして「効果あり」とみせる行為も、防がなければならない。そのため、臨床試験を計画した段階で、専門的なデータベースに登録することも求められる。事前登録してあれば、恣意的に論文発表していないかどうか、ある程度はチェックできるからだ。

(2)最終製品または機能性関与成分に関する研究レビュー

こちらは、事業者自身が製品のヒトへの投与試験をしなくてもよいやり方。既存の論文を集めてまとめて解析する「システマティック・レビュー」を実施して、効果があるかどうか判断する。
その際には、効果があるとする論文と効果がないとする論文の両方を偏りなく集めて、総合的に検討する必要があり、消費者庁のパブコメ関係資料でも「Total of Evidenceの観点から評価する」と記されている。

 ただし、システマティック・レビューは、集める試験の数や範囲等により質の差が非常に大きい。消費者庁は、一定のレベルをクリアしたシステマティック・レビューが実施されるように、今後公表されるガイドラインでかなり細かくやり方を指定してくるはずだ。
パブコメの関係資料でも、事例が説明されている。機能性があるとする論文が数多くあったとしても、第三者による査読付きの論文が1本もない状態であれば、その機能性は表示できない。また、サプリメントは、「細胞実験や動物実験で確認」では不十分で、ヒトが食べて効果をみる臨床試験で機能性が示される必要がある。

 消費者庁は検討会の席上で、(1)は主に生鮮食品、(2)はサプリメントなどの加工食品を想定している、と説明した。
 そのうえで、生鮮食品とサプリメントなどの加工食品に共通の要件として、機能性関与成分を特定し含有量を測定できること、それに作用機序、つまり体内でどの反応機構に作用し影響をもたらすのかの考察も求めている。
 当たり前のように見えて、実はこれは結構難しい。いわゆる健康食品の中には、「なぜ効くのか」「どの成分が効くのか」がわからないまま、「効くと言っている人がいます」というレベルで売られている製品がごまんとある。

 さらに重要なのは、このように機能性を (1)や(2)の方法で確認し「エビデンスあり」と明確にしたうえで、どの製造ロットの生鮮食品や加工食品、サプリメント等でも機能性を担保しなければいけない、ということだ。
 たとえば、生鮮食品は季節によって成分に大きな違いが出る。「夏場の野菜を用いて(1)の臨床試験を行い、機能性関与成分たっぷり、効果あり、という結果が出た。冬作はごくわずかだけど、年中表示します!」というようなことが起きてはいけない。ただし、含有量を一定にすることはできないので、変動は認められる見込みだ。どの程度の変動幅が許容されるかについてはまだわからず、今後のガイドライン待ちである。

 また、(2)の機能性関与成分の研究レビューはクリアし、「すばらしい効果です」となっても、「いや、この製品にはそもそも、その機能性関与成分は含まれていません、あるいはごくわずかしか入っていません」では話にならない。実際、国民生活センターの2008年度調査で、関節に良いとされる「健康食品」の関与成分含有量が、表示量を大幅に下回っているケースが多いことが明らかとなっている。
 国立医薬品食品衛生研究所の合田幸広・薬品部長らの調査でも、市販の植物系の健康食品が原材料として、本来使うべき種の植物ではなく、違う種を用いてしまっているケースがあることを、報告している(薬学雑誌の論文や合田部長の講演の日本食品機能研究会ウェブサイトでのまとめの参照を)。植物の種類が違えば、機能性関与成分が含まれていない可能性だってある。

 興味深いのは、植物の形状がよく似ていて採集段階で間違っている場合、おそらく採集者も健康食品の製造業者も「違っている」ということに気付かないだろう、ということだ。悪意があってダマしているわけではないが、消費者は結果的に、価格に相当する期待した機能性関与成分を摂れない、ということも、たぶん実際に起きている。また、意図的な「原材料違い」もある、と合田部長は指摘している。

 こうしたことを防ぐため、前回の安全性確保で触れたGMPなどの生産工程管理を行い、原材料を確実に確認し、機能性関与成分の含有量が確保された製造を行う必要がある。

消費者力を上げる仕組みがない

 ここまで、機能性について新制度で求められる要件を書いてきた。そのレベルは、事業者がまじめにごまかすことなく取り組もうとするなら、かなり高い。簡単にクリアして表示できる、というものではない。

 たとえば、2年前にトマトブームが起きたことがある。京都大学の研究チームが「トマトから脂肪肝、血中中性脂肪改善に有効な健康成分を発見」と発表し、「トマトでダイエット」と新聞や雑誌等でも盛んに取り上げられた。
 だが、あの論文はマウスを用いた実験であり、それは京大の広報文のタイトルでも明記されていた。それに、論文を読むと、機能性を期待される成分を与えられたマウスの血液検査や遺伝子発現のデータはよかったが、体重減少効果はまったくなかった。ところが、「トマトを食べれば、トマトジュースを飲めば痩せる」と伝えられてしまった。

 あの頃、当の研究者は「誤解されてしまった」と慌てておられた。だが、誤解を基にトマトブームが起き、それだけでなくトマトサプリメントは、活況を呈した。
 京大が見出した成分の当時の研究レベルでは、今回の新制度の表示要件はまったくクリアできない。そして今、Pubmedで検索しても、ヒトでの臨床試験の結果は出て来ないから、やっぱり表示は無理。それぐらい、ブームと表示要件には乖離があるのだ。

 論文発表から2年近くたった昨年12月、消費者庁はトマトダイエットをうたった製品を販売していた企業に対して、景品表示法違反 (表示を裏付ける合理的根拠が示されず、優良誤認に該当) として表示を禁止するなどの措置命令を出している。

 ほかの多くのサプリメントも、論文を検索すると臨床試験はほとんどなく、あってもごく小規模な試験にとどまるケースが目立ち、そんなレベルでは今回の新制度による表示は無理だ。
 国立健康・栄養研究所の「健康食品」の安全性・有効性情報を見ることをお勧めする。個々の成分の多くが、「ヒトでの有効性・安全性については、信頼できるデータが十分ではない」「ヒトでの有効性については信頼できるデータが見当たらない」と記述されている。

 生鮮食品の機能性も研究は進んでいるが、臨床試験が適切に行われている事例はごくわずかしかない。
 科学的根拠がないのに表示をしていることが見つかった場合、食品表示法違反に問われるだけでなく、景表法違反に問われる場面も出てくるだろう。

 個人的には、(2)のシステマティック・レビューの質の担保が非常に心配だ。そもそも、論文の審査が甘い学術誌もあり、査読付きだから結果を信頼できる、というものでもない。それに、論文収集は海外の研究も含めて行われる。海外での研究結果を、食生活のまったく異なる日本人にそのまま当てはめてしまってよいのか、という問題もある。

 そういうことを無視して、事業者が研究報告を集めてシステマティック・レビューの体裁を整える、ということが起きるかもしれない。何度も繰り返して恐縮だが、国はシステマティック・レビューがきちんと行われているかどうかを事前審査するわけではない。書類を基に、おそらくウェブサイト等で情報が公開されているかどうかは確認するだろうが、その中身は調べない。

 問題は、事業者が自己責任で表示をはじめた時に、だれが「この表示は不十分」「エビデンスが足りない」「システマティック・レビューの質が低い」などと、中身の不正や不実を“見つける”かである。
 国は、販売後の監視を徹底する、というが、「機能性の新制度がはじまるから、消費者庁の人員を増強する」という話は今のところ聞こえて来ない。ならば、都道府県等の消費生活センターや保健所等で監視できるか。いや、彼らがシステマティック・レビューを精査するような専門的な知識を有するわけではない。そもそも、彼らは悪徳商法への対応や感染症対策などの方が圧倒的に優先順位が高いし、それが当然でもある。

 では、消費者に可能か? それも難しい。そして、これが今回のパブリックコメント案で私がもっとも引っ掛かっている点なのだが、「企業責任で表示し、消費者が情報を基に選ぶ制度」と言いながら、案は企業に情報の提供を求めるばかりで、消費者をサポートし判断力を高めて行く仕組みが具体的に示されていない。
 わずかに関係資料で、「消費者の理解増進に向けた取組を継続的に実施」と記述しているだけだ。

 専門家を集めた検討会でも、この消費者へのサポートは事実上、審議がほとんどなかった。消費者を育てず、事業者に表示を認める。これでは「消費者よ、ダマされなさい」と言っているに等しい。事業者を疑いたくはないが、現実には事業者による悪質な商行為が山ほど起きているのが健康食品業界なのだから。

 消費者庁担当者は説明会で「世界初の試みが多数ある」と言っていたが、一番重要な消費者のサポート、消費者力を上げる仕組み作りがすとんと抜けた制度案になっている。そもそも、パブコメ自体が、一般市民・消費者にわかりやすいように、という配慮がまったくなされないまま実施中だ。こんな説明資料では消費者は理解のしようもない、ということを、消費者庁の担当者がもっともよくわかっているはずだ。
 だが、「今年度の措置」というデッドラインが決められている以上、時間がなく担当者にはどうしようもない。そんな国の姿勢が、私は気になるのだ。

 この新制度検討の最初の話を思い出してほしい。安倍首相は昨年、「トクホ認定はお金も時間もかかり、中小企業・小規模事業者には、チャンスが事実上閉ざされている」として、企業責任の表示制度創設をうたった(本欄「DHA、EPAのうつ改善効果に疑問? 規制改革と発表バイアスを考える」参照を)。結局、産業振興が第一だった。

 あれ以来、いろいろと取材してきた。安全性、機能性の要件の厳しさ、という点では個人的には異論がない。でも、このままでは、消費者力を上げる努力がなされないまま、「情報が公開されるからいいだろう」になってしまい、消費者は取り残される。そこに、大きな不安を感じている。

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