ホーム >  専門家コラム > めんどな話になりますが… > 記事

めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

家庭でも生成するアクリルアミド・・・調理の秘訣、教えます!

  • シェア
  • Check
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Share
2014年12月5日

 食品を高温で加熱することによってできる「アクリルアミド」。遺伝毒性発がん性があるだろう、と考えられ、食品安全委員会で評価中だ。このことについては、「アクリルアミドの発がん性問題 「ポテチに多い」で慌てる必要はない」で詳しく書いた。

 食品中に含まれるごく一般的な糖類と、これまたごく一般的なアミノ酸であるアスパラギンが低水分下、120℃以上で加熱されると、メイラード反応により生成してしまう。おそらく、人類が昔から摂ってきた遺伝毒性発がん物質だ。
 火を使った加熱調理は、生物として人類だけしかなしえなかった大発明だ。火による高温加熱により、人類は食品を柔らかくしたり濃縮したりして、効率よく大量に食べられるようになった。味や香りも良くなり殺菌もできる。特にアクリルアミドを産み出すメイラード反応は、食品の色や香り、色に大きな影響を及ぼし、人は多くの場合、好ましく感じる。トーストの少し焦げた香り、フライドポテトの香ばしさ、黄金色に輝く美しさを思い出してほしい。
人類は、メイラード反応により多大な恩恵を受け、その陰でアクリルアミドというリスクも得ているのだ。

 そのことを知らずに人類はずっと生きてきたし、短寿命の時代はほとんどの人ががんになる前に死んでいた。しかし、寿命が伸び、老化に伴って増えて行くがんにかかって死ねる時代となった。
 科学研究も進み、アクリルアミドの遺伝毒性発がん性もわかってきた。ほかにも遺伝毒性発がん物質は数多くあり、アクリルアミドだけ神経質に心配しても仕方がない。アクリルアミドを排除しようとして、ほかの栄養成分を安価に摂れなくなるなど、弊害が出てくると困る。だから、極端な対策ではなく、「無理なく達成可能な低減策をとろうよ」というのが、現在の状況だ。これが、「ALARA(As Low As Reasonably Achievable)の原則」である。

 ポテトチップスやファストフードのフライドポテトをやり玉にあげる週刊誌記事やウェブページは相変わらず多いけれど、そんな単純さは笑って受け流したい。なぜなら、一般的な糖類とアミノ酸が原材料である以上、実に多様な食品にアクリルアミドは含まれているからだ。一部の野菜、黒糖、ビスケット、トースト、コーヒー、ほうじ茶…。調査で比較的高い濃度が検出された食品は数多い。
 それに、問題は市販品だけでない。家庭での調理でも、アクリルアミドは生成する。家庭調理にも目を向けて、やっぱり「達成可能な範囲」で低減を目指した方がいい。

 では、家庭でできることは? 農研機構などで研究が行われ、科学的根拠のある低減策がいくつか出てきた。現在のおすすめは次の2つだ。

1. 揚げ調理をするじゃがいもは、冷蔵庫には入れない
2. 食品の揚げ色、焼き色に注意して、控えめに

1. 揚げ調理をするじゃがいもは、冷蔵庫には入れない

 じゃがいもを低温で貯蔵すると、でんぷんが糖化し甘くなる。研究によれば、じゃがいもは貯蔵温度が8℃くらいまでは糖類が増えていないが、それより冷えると糖類が大きく増える。
 甘くなったじゃがいもは、サラダなどにするととてもおいしく、健康影響もない。だが、こんなじゃがいもは、ポテトチップスやフライドポテトには不向き。冷蔵によって、アクリルアミドの原料の糖類が、わんさか増えてしまっているのだ。だから、揚げるじゃがいもは8℃以上での保存がおすすめだ。
 農研機構 北海道農業研究センターなどの研究成果で、すでに論文も発表されている。

2. 食品の揚げ色、焼き色に注意して、控えめに

 農研機構 食品総合研究所の食品分析研究領域状態分析ユニットと女子栄養大学が、モデル調理による調理仕上がりと、アクリルアミド生成量を調べている。図1のグラフと写真を見てほしい。フライドポテトは2の「ごく軽い揚げ色」まではアクリルアミド量が少ないが、3の「全体に軽い揚げ色」で生成量が跳ね上がり1164μg/kgとなる。100g食べると、116 μgの摂取となる。

図1 モデル調理における調理仕上がりとアクリルアミド生成量(フライドポテト) 出典:農研機構 食品総合研究所、女子栄養大学

図1 モデル調理における調理仕上がりとアクリルアミド生成量(フライドポテト)
出典:農研機構 食品総合研究所、女子栄養大学

 いきなりフライドポテトを100gと言われるとわかりにくいが、大手ファストフードのフライドポテトのMサイズの重量を測ってみたところ151gだった。つまり、フライドポテトの100gというのは、比較的楽に食べられる量だ。
ちなみに、大手ファストフードはアクリルアミド低減を進めているので、含有量が1164μg/kgというわけではない。おそらく、もっとうんと少ない。誤解のないように。

 話を戻すと、日本ではリスク評価はまだまとまっていないが、FAO/WHO食品添加物専門家会議(JECFA)は、一般的な人々の平均的なアクリルアミド摂取量は1日当たり1 μg/kg体重、摂取量が多い人々は4 μg/kg体重と推定。平均的な人であっても多いとして、低減を勧めている。

 体重50kgの人が、「全体に軽い揚げ色のフライドポテト」を100g食べると、アクリルアミド摂取量は2.32μg/kg体重となる。これは、JECFAの平均的な1日推定摂取量を大きく上回り、かなり問題だろう。しかし、2の「ごく薄い揚げ色」のフライドポテトだと、体重50kgの人が100g食べて、アクリルアミド摂取量は0.54μg/kg体重にとどまる。揚げ方によって、こんなに摂取量に違いが出るのだ。

 写真を見る限り、私の好みは「全体に軽い揚げ色」くらいだろうか。しかし、ここはぐっと、がまんして、薄い揚げ色で食べようと思う。

 食総研などは、トーストでも生成量を調べていて、フライドポテトと同様に2の「部分的に軽い焼き色」までは少ないのに、3の「全体に焼き色」になると、生成量が跳ね上がる。フライドポテトに比べれば、生成量自体はかなり少ないが、こちらも知っておいてほしい。

図2 モデル調理における調理仕上がりとアクリルアミド生成量(トースト) 出典:農研機構 食品総合研究所、女子栄養大学

図2 モデル調理における調理仕上がりとアクリルアミド生成量(トースト)
出典:農研機構 食品総合研究所、女子栄養大学

同一銘柄の冷凍フライドポテト、食パンを40世帯に配り、好みに調理してもらい、アクリルアミド生成量を測定した(2反復計80点) 出典:農研機構 食品総合研究所、女子栄養大学

同一銘柄の冷凍フライドポテト、食パンを40世帯に配り、好みに調理してもらい、アクリルアミド生成量を測定した(2反復計80点)
出典:農研機構 食品総合研究所、女子栄養大学

 さらに、研究は進められていて、家庭ごとにアクリルアミド生成量がどの程度違うのかも調べられている。このデータが極めて興味深い。

 同一銘柄の冷凍フライドポテトを40世帯に配布して揚げてもらい、そのアクリルアミド濃度を測定したのだ。つまり、数値を変えるのは、調理者の「好みの揚げ加減」だ。

 結果は見事にばらついた。40世帯2反復計80点の分析で、中央値は207μg/kg、最大値は1881μg/kgで、最小のもののなんと39倍もアクリルアミドができていた。あなたの家の揚げ加減はどうだろうか?トーストも同様でばらつきが大きい(図3)。
 食総研の小野裕嗣さんは「アクリルアミド濃度の頻度分布を低濃度側へシフトさせなければ。家庭での調理法の啓発が重要」と言う。図1、2と見比べながら調節したい。

 ファストフードやポテトチップスの事業者は既に、じゃがいもの貯蔵や揚げ方の調節に注意している。ポテトチップスの揚げ色は昔に比べれば薄くなったという。ほかにも、品種の吟味や貯蔵温度の調節などに取り組んでいる。
 農水省消費・安全局が挙げる低減の3方針は次のとおり。(1)原材料中の糖類とアスパラギンを少なくする(2)加熱条件を吟味する(3)アクリルアミドの生成を抑制する原材料(食品添加物)を使用し、促進効果がある原材料はできる限り不使用にする。
 農水省は、食品事業者ができることというページを作り情報提供し、指針も作成している。じゃがいもだけでなく小麦製品などにも言及されていて、消費者にも役に立つ。

 農水省は、炒め野菜のアクリルアミド生成低減についても、検討を進めているそうだ。野菜の切り方や加熱の仕方、下ゆでなどの効果についても、研究を推進している。
 農水省の取り組みについては、11月19日に開かれた「食品安全セミナー(化学物質編) 〜科学に基づいた汚染物質の低減対策〜」の資料がわかりやすい。

 ちなみに、米国では遺伝子組換えにより、アクリルアミド生成量が少なくなるジャガイモが開発され、11月に農務省が栽培を認可した。規制上は遺伝子組換えに分類されるが、導入されたのはジャガイモやその野生種が持つ遺伝子断片だ。開発したのは、米マクドナルドの長年のサプライヤー。米マクドナルドは今のところ、原材料として採用しない、と声明を出したと報道されているが、この後の動向に注目したい。

 いずれにせよ、アクリルアミドのリスクはかなりの程度、消費者がどんな食品をどれくらいの量食べ、どう調理するかに依る。アクリルアミドはさまざまな食品に潜む。だからまずは、バランスのよい食事を。そして、調理にご注意を。

(写真、グラフをクリックすると、大きな画像が見られます)

⇒ めんどな話になりますが…記事一覧へ

専門家コラム一覧

FoodScience 過去記事

以前、他のサイトで掲載されていた記事をこちらより選択してご覧いただけます。
FOOCOM.NET 会員募集 科学的根拠に基づく食情報を消費者に提供するために、ご協力ください。

お知らせ

FOOCOM会員、執筆者がかかわる催し、講演(10/17)
<FOOCOM事務局よりのお願い> 「FOOCOM.NET」にアクセスいただきありがとうございます。私たちは201…【全文を読む】
FOOCOM お役立ちリンク集