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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

異物騒ぎ……消費者の勘違いと、裸の王様セブン、ファミマ

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2015年1月16日

 あるアイスクリームメーカーの品質管理担当者から聞いた話を、まずは紹介しましょう。そのメーカーは、あるアイスクリームをバニラとチョコの2種類作っていたそうです。わずかに原材料が異なりますがほぼ同じ条件で製造していたため、異物混入の苦情があるとすればバニラとチョコ味の両方、同じくらいの確率で発生するはず。ところが、バニラはチョコの10倍のクレームがあるというのです。

 このことから、異物混入は工場や流通段階では発生していないと推測できます。もともとアイスクリームの製造は、人が介在する余地が少なく機械化、自動化が進んだ食品です。流通段階で開封することもありません。ふたを開けた後に、消費者の気付かぬうちに髪の毛や虫などが入ってしまう。バニラの方がチョコよりはっきり見えやすく、消費者は異物を見つけて「入っていた」とメーカーに苦情を言っているのではないか? そういうふうに考えないと、バニラとチョコの苦情確率の10倍もの開きを説明することはできないのです。

 でも、アイスクリームメーカーの担当者は「お客様には、申し訳ありませんとお詫びします」と言います。たとえば、髪の毛が混入して「うちの工場では入る余地がないのです」と説明しても、客は納得しません。客から髪の毛をもらって、混入していたという髪の毛と両方DNA解析したら、あっという間に解決かもしれません。しかし、苦情のアイスクリーム1個にそんなコストはかけられません。

 企業としては「申し訳ありません」とさっさと謝罪した方が、はるかに簡単でコストもかからないのです。こうした事例を、わたしは食品企業や生協等からしばしば聞きます。

 歯の詰め物の苦情も結構多いのですが、工場段階で入る可能性はまず、ありません。そもそも、作業している人が口を開けて作業して、詰め物がぽろりっだなんて、ほぼないでしょう。大企業は特に、金属探知機やX線検出機を備え付けて全品調べていますので、そこでもわかります。
 歯の詰め物は食べ物を食べている時にぽろっととれる。だれでも知っていることなのですが、一部の消費者は自分の詰め物だということを否定します。慌ててクレームしてしまって、引っ込みがつかなくなって頑強に企業のせいにする、という人もいそうです。

 苦情の定番品というのもあって、その一つがはさみのネジ。キッチンばさみのネジにはよく、赤いプラスチックのカバーがついていて、調理中にぽろっと落ちているようです。苦情を受けるお客様相談室の担当者は「赤い丸いプラスチックが入っていた」と聞くと「お客様、キッチンばさみからとれていませんか?」と質問するそうです。「あら、そうね」と納得する人もいますが、まったく聞き入れない人もいるそうです。

 このように、苦情の一定数は、企業の責任ではありません。「寄せられる異物苦情の半数以上は、うちの責任ではない」という企業もあります。FOOCOM.NETでは、消費生活アドバイザーの瀬古博子さんも「粉ミルクの中のトゲ状の異物、その意外な正体とは?」で、事例を解説してくださっています。
 しかし、企業は説明がうまく行かず問題をこじらせてしまうことを警戒して、根拠を挙げての説明を控えがち、そして、説明されても理解しない消費者もいて、消費者がこうした実情を知り学ぶ機会はほとんどないのです。

 飲食店でも同様のことが起きています。もっとも、飲食店は調理や盛りつけなど、人の手で細かな作業を行う時間が、メーカーの食品製造に比べて圧倒的に長いうえ、金属探知機もX線検出機も当然ないので、飲食店側による混入リスクは高まります。たとえば、人は1日に平均して55本、髪の毛が抜けるそうです。料理の盛りつけ中にぱらり、ということはやっぱり起こりうる。でも、客が食べている時にパラリ、その時には気付かず混ぜちゃった、ということだって、可能性は大きいのです。あるいは、おしぼりの袋の小さな破片が……。

 そして、昨今の異物混入への関心の盛り上がりに乗じた愉快犯が……。

 マクドナルドの異物混入苦情が騒ぎになった時に私が真っ先に思ったのは、「このうちの何割が、本当にマクドナルドの責任なのか?」ということでした。
 消費者の苦情をそのまま報道したテレビや新聞は、食品業界の異物苦情の実情を知っていたのでしょうか。SNSで情報を流す人たちは、消費者の勘違い、という可能性をどれくらい検討したでしょうか。

 さて今、食品業界最大の関心は、セブン—イレブン・ジャパンとファミリーマートの浮世離れぶり、責任転嫁の姿勢です。
 発端は、セブン—イレブンが1月7日や8日にメーカーや惣菜業者等に出した「異物混入対策の件」と題する文書。赤字で「社長様必見」などと記し、でかでかと、こう書いているのです。

異物混入⇒メディアに通報されていることを前提とした対応が必要
クレーム受付時は、保健所への報告・相談は必須
経営幹部が対策を確認し、異物混入撲滅への対応を徹底してください。

 大きなメーカーのお客様相談室には今、1日に何十という異物クレームが来ています。その中で、真にメーカー責任と言えそうなものは、ここまで説明した通り、多くはない。もっと調べなくては原因を確定できないけれど、たぶん我が社の責任ではないなあ、というものが相当数ある。つまり、玉石混淆をそのまま、保健所へ届け出ろ、というのですか?
そんなことをしたら、保健所業務はパンクします。それに、本当に重要な異物苦情、健康影響が起こりうるような苦情が埋もれてしまいかねません。
 私には、セブン—イレブンが自社の責任逃れを図り、後で消費者が騒ぎ始めた場合の保険のために、メーカーと保健所に責任を押し付けているようにしか見えないのです。

 それに、異物混入撲滅は無理。人がかかわり機械で作り、その機械も必ず壊れる、という状態で作るのですから、異物混入ゼロは無理です。一般的に、製品の品質管理は統計学的に検討して、欠陥品を100万個中の4個以下にしようとか10個以下にしようというふうに目標を定めて対策を講じます。できもしないゼロを目指して、セブン—イレブンが気合いを入れる進軍ラッパを吹く。滑稽としか言いようがありません。

 そして、同社は自主チェック表提出も依頼しています。チェック項目は24。「全従業員に対し、現状の食品業界が置かれている環境の変化を周知した」○、「ローラー掛けの時間はタイマー等で適正な時間掛けさせている」○、という具合です。あるメーカーに来た7日付の文書での回答期限は8日17時半、別メーカーに来た8日付文書での回答期限は9日12時。各工場の従業員の中には、当然、期限までには出勤しないというパートの方もたくさんいると思われますが、全ての働く人たちに伝えて、「伝えた」ということをセブン—イレブンに伝えなければいけない。

 いやはや、メーカーや惣菜業者等は、この文書を受けて大騒ぎだったそうです。結局、同社は実効性など求めておらず、「セブン—イレブンは確認した」という形を作りたいだけのように私には見えます。

 そして今週、ファミリーマートが同様の文書「異物混入 再徹底について」を出してきました。これまたお粗末なことに、書式も内容もセブン—イレブンによく似ている。セブン—イレブンの動きを見て、慌てて追随したに違いありません。
 対策徹底を求め、次の文言が大きく書かれています。

新たに以下のご徹底いただきたくお願い致します。
苦情受付時は、必ず管轄の保健所への報告・相談
苦情発生時の初動対応(連絡フローや対応手順)の整備・徹底

 チェック表を出せ、というのも同じ。さすがに、回答期限まで約10日あり、異物混入撲滅、ゼロも求めていませんが、あまりにも書式がセブン—イレブンに似ていて、思わず笑ってしまいました。

 異物苦情に限らず残留農薬やBSE、中国産食品などの問題が持ち上がるたびに、流通側は「基準超過していないという証明書を」とか「BSEでないことを保証しろ」などとメーカー、生産者に非科学的な要求を突きつけてきました。どこも似たり寄ったりの姿勢ではありますが、今回の保健所を巻き込む内容は一見、コンプライアンス上良いように見えて、実は責任逃れ、悪質。流通の横暴のレベルがまた一段上がった、という印象です。
 もはや、セブン—イレブン、ファミリーマートは裸の王様。でも、最大手なので、メーカー側は表向き逆らえない。そして、2社が動けば、他の流通もさらに同様の動きに走るかもしれません。

 異物混入騒ぎは、ここまで食品業界を揺るがしています。もちろん、農薬の意図的混入なども異物混入ですし、異物によっては口の中を切ったりする場合もありますから、十把一絡げに「つまらない」とは言えません。企業に十分に注意を払って対策を講じてもらう必要はあります。しかし、健康影響につながらない混入まで、あまりにも騒ぎすぎではないでしょうか。なんでも騒ぐ、では、オオカミ少年と同じ。本当に危ないものへの消費者の関心が低くなり、保健所も異物混入苦情に鈍感になり、なにか一大事があった時の対応が遅れてしまうのではないでしょうか。

 メーカー、飲食店等がこの騒ぎで疲弊しているのは間違いありません。消費者からの苦情殺到と、流通業界等の自己保身の狭間で、仕事が山ほど産まれています。疲れれば、間違い、ミスも増えてしまう。悪循環が始まっています。

 これは、企業にとって不幸ですが、消費者にとっても不幸です。
 異物混入はゼロにはできない。消費者側の勘違いもたくさんある。この事実を踏まえて、少し冷静になりましょう。落ち着きましょう。

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