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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

腸内フローラ番組を基に、消費者が情報を読み解く“秘訣”を考えてみた

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2015年2月27日

 NHKスペシャルで2月22日、「腸内フローラ 解明!驚異の細菌パワー」が放映されました。ウェブサイトの番組紹介では、「腸の中には実に100兆匹以上、数百種類もの細菌が住んでいて、その細菌の出す物質が、私達の美容や健康に様々な影響を及ぼしていることが分かってきました。がんや糖尿病などの病気から、肥満やお肌のシワなどの体質まで。さらには、その影響は脳にまで及び、うつ病とも関係しているのではないかと考えられています」と伝えています。

 実際の番組は、さまざまな研究者が登場し「こんなすごいことがわかってきた」と研究成果が紹介され、スタジオの井ノ原快彦さんや宮崎美子さんらが感嘆し、ゲストの識者が補足説明して行く、という流れでした。
CGは実に見事。でも、紹介された研究を一つ一つ丹念に見ると、疑問がわき起こります。大げさ、言い過ぎではないの?

 たとえば、「腸内フローラが全身の健康を決める!」事例として紹介されたWashington University School of MedicineのJeffrey I. Gordon博士らの研究例。おそらく、Scienceで2013年に発表された論文Gut Microbiota from Twins Discordant for Obesity Modulate Metabolism in Miceの内容でしょう。
番組では、完全な無菌状態で育てたマウスに肥満の人の腸内細菌と痩せた人の腸内細菌を移植したところ、肥満の人の腸内細菌を移植されたマウスは太る、と紹介します。なぜならば、と腸内細菌が作る短鎖脂肪酸の影響をヒトの体内を描いたCGで美しく解説します。

 うーん、でもこれ、マウスの研究です。Gordon博士の論文は非常に面白く、腸内細菌とその影響の因果関係を探るという点で画期的な実験系ですが、ヒトで、このマウスと同じくらい顕著な影響があり「健康を決めている」のかどうかわかりません。

 その後も、「腸内フローラが医学の世界に革命を起こす」とか「腸内細菌が、脳を操る!?」とか、派手なテロップが多用され、スタジオでは「うつ病の患者の中には、腸内フローラを変えるだけで不調が直る人がいるはず」などと発言するのですが、それらの根拠として示されているのも、多くは動物実験の結果なのです。

 ヒトの臨床試験の紹介もあって、腸内細菌が作るエクオールという物質を更年期の女性が摂取すると、皮膚のしわが浅くなる、という日本の研究結果が、長めの時間をとって解説されていました。おそらく、論文The effects of natural S-equol supplementation on skin aging in postmenopausal women: a pilot randomized placebo-controlled trialのことでしょう。

 これを受け、スタジオでは、腸内細菌を増やすには食物繊維が大事、と説明され、ごぼう、たまねぎ、アスパラガスなどの野菜と、納豆、大豆などの豆類がよい、という流れに。そして、「大豆を腸内細菌が分解してできるのがエクオールであり、日本人は大豆を多く食べる民族なので、分解できる菌を持っている人が多い。しかし、大豆を食べる人が少なくなってきて、恩恵にあずかれなくなって来ている」という大学教授の説明が入ります。

 「美魔女の秘密は、腸内細菌!?」というテロップが出て、教授が「彼女たちは、きっと快食快便でしょう。エクオールを作る菌をたくさん持っている人は、いくつの年齢になっても、魅力的ではないでしょうか」と言うのです。

 うーん、困った。まず、この論文、投与されたエクオールの量がかなり多いのです。1日に10mgとか30mgをサプリメントで摂取して、しわが浅くなったという結果です。大豆に含まれるイソフラボン類の一種、ダイゼインとその配糖体、ダイジンが分解されて全量がエクオールになったとしても、ざっと計算して、大豆を毎日、30gとか100gとか、食べなければいけません。ダイゼインやダイジンの全量がエクオールになることはないので、実際にはもっと多い量を毎日食べる必要があります。その量での、“効き目”なのです。

 日本人の大豆・その加工品の平均摂取量は、国民健康・栄養調査によれば、56.6g。その6割は豆腐で、豆腐のダイゼインやダイジン含有量は、大豆そのものの10分の1
にもなりません。少々多めに食べたところで、まったく足りません。
(参考:生物試料分析 HPLCによる大豆および大豆加工食品中の イソフラボン量の比較 

 それに、大豆イソフラボンからエクオールを産生できる菌を持っている割合は日本人の5〜6割、とされています。逆に言うと、4〜5割は持っていない。では、美魔女はみんな産生菌を持っている? 大豆を山ほど食べている? だれが確認したというのでしょうか?

 そもそも、論文自体、被験者数が少なく信頼度が高いとは言えません。エクオール(equol)と皮膚(skin)で、医学生物学論文の権威あるデータベース「Pubmed」を検索すると、わずか19報しか出てこず、まだ、ほとんど研究されていない分野です。大量摂取は、安全性の面でも懸念を生じかねず、検証が必要です。

 ほかにも、多くの研究が紹介され、治療法につながっている事例も解説されました。番組が言うように、腸内細菌、フローラの研究が今、画期的な局面を迎えていることはたしか。人と数百種類、100兆の細菌が共存しており、相互作用しているのも事実でしょう。
 たとえて言うなら、今まで霞がかかってなにも見えなかったのが少し晴れて来て、もしかしたら富士山級の大きな美しい山があるかも、ということがわかってきた、という状況。でも、精密な確認は登山ルートにもよりますが、多くはまだ1合目、2合目の段階です。これからの研究で、全体像がはっきりするよ、という時期なのに、番組が「あなたの健康を守る 驚異の細菌パワー」として、CGなどによりヒトで起きているように錯覚させ、あたかも8合目、9合目であるかのように伝えてしまった、という感じでしょうか。

 違和感を覚えたのは私だけではないようで、感想のtwitterの数々がtogetterでまとめられています。

 実は、番組中盤で赤座英之・東京大学特任教授がこう言っています。
「ほんとうに、それが医学、医療に通用するか、もう少し詳しく臨床試験をするなどしないと、表面的な話になってしまうが、確実に、この研究、学問は大事です」。番組の進行に危うさを感じて、言ってしまったのかもしれない。まったくその通りです。

 まあ、問題がいろいろある番組だったわけですが、「腸内フローラ研究のすごさを、なんとか普通の人たちに知ってもらいたい、興味を持ってもらいたい」という番組制作者の心は、伝わってきました。見事のCGに引かれて興味をそそられるのは、理解の端緒となるわけで、そこは肯定したい。ただ、信じ込んではいけない。この番組を見て、大豆ばかり食べたり、サプリメントに走るようなことは勧められません。

 というわけで、英国のNHS(国民保健サービス)のBehind the Headlines というコーナーを思い出しました。
 このコーナーは、主に新聞報道に問題があるとすかさずツッコミを入れて「科学的には、こうですよ」と解説します。こんなコーナーを、政府機関が作っている、というのが英国のすごいところで、もし日本にこんなチャレンジがあったら、今回の番組も槍玉にあがることでしょう。

 そのコーナーで、年末にHow to read health news、つまり「健康ニュースの読み解き方」が出されるのです。昨年も12月23日に公開されました。内容をおおまかに説明すると、こんな感じです。

●Who Does the article support its claims with scientific research?(科学的な根拠が示されている?)
●Is the article based on a conference abstract?(それは、学会発表を基にしてる? その場合には、警告には値しないのでパニックにならないように)
●Was the research in humans? (その研究は、人が対象? 動物の場合には、人で効く可能性は非常に少ない)
●How many people did the research study include? (何人の人を対象にした研究? 多い方が、信頼度が高まる)
●Did the study have a control group? 研究は、対照群が設定されているか。設定されていなければ、疑ってかかろう)
●Did the study actually assess what’s in the headline?(記事で主張されていることが、本当に研究されたのか。往々にして、研究されていない)
●Who paid for and conducted the study?(だれが研究費を支払いしリードしたのか)
●Should you ‘shoot the messenger’? (使者を撃つ? いや、報道関係者だけでなく、研究者等、さまざまな関係者によって、問題が生じている)
●How can I find out more?(より詳しい情報をどのようにして得るか? このサイトで見つけてね)

 これを基に、今回の腸内フローラ番組を検討すると、いろいろと気付けることがありそうです。

 日本でこのような、報道への“処方箋”を考える場合、「“天然自然だから安全”は信用してはいけない」とか、「効く量と実際に食べることが可能な量にどれくらいの乖離があるか、考えてみよう」などの項目を追加する必要があるでしょう。

 NHKスペシャルに限らず、あさイチやほかの番組、そして、民放のあまたの番組で、私から見れば「それは言い過ぎ」という内容が報じられます。雑誌でも目立ちますし、とりわけインターネットはとんでもない情報が氾濫しています。多くは、NHSの読み解き方の冒頭、「科学的根拠、論文が示されている?」の段階で、アウトです。

 報道を楽しみつつ、信じ込まずに考える、調べる。そんな「見る目」を、消費者も求められているのです。

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