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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

情報開示という名の責任転嫁か、機能性表示食品制度

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2015年3月13日

 さて、消費者の皆さん。次の三つの文章、違いがわかりますか?

(ア)本品にはA(機能性関与成分)が含まれるので、Bの機能があります(機能性)
(イ)本品にはA(機能性関与成分)が含まれ、Bの機能がある(機能性)ことが報告されています
(ウ)本品にはA(機能性関与成分)が含まれます。AにはBの機能がある(機能性)ことが報告されています

 消費者庁は事業者に対して、こうした文言を使い分けて機能性表示食品の容器包装に表示しろ、と言います。3月2日に公表された制度のガイドライン案で、明らかとなりました。消費者庁の説明会資料の資料4「機能性表示食品の届出等に関するガイドライン案」です。

 今回の制度は、情報を消費者に開示して、「消費者の誤認を招かない、自主的かつ合理的な商品選択に資する表示制度」とする、と消費者庁は宣言しています。だから、機能性の科学的根拠がどのような研究に基づくものなのか、容器包装を見てもわかるように、ということのようです。そして、ガイドライン案で上記の三つの文例が示されているのです。

 でも、なにが違うのか、わかりますか? たしかに、報告されているというような言葉が付け加わったり、AにはBの機能があると、もって回った言い方になっていたり、文面の変化はすぐにわかる。では、実質的に何が違うのか? 読んで即座に意味を読み取れる人は、消費者にはまずいない、と私は思います。
こんな情報の出し方をしておいて、消費者に「自主的かつ合理的な商品選択を」だなんて、責任逃れもいいところです。

 詳しい説明は、ガイドライン案に書かれています。
機能性表示食品の機能性、つまり効くという科学的根拠は、(i)最終製品を人に投与して影響を調べる臨床試験(ii)最終製品又は機能性関与成分にかんする文献調査(研究レビュー)のいずれかで行うことになっています。
機能性関与成分を含む最終製品(消費者が食べる食品)を人に投与しての臨床試験で効果が示されている場合は、ストレートに(ア)の「本品にはAが含まれるので、Bの機能があります」と書けるのです。

 しかし、最終製品による研究であっても、直接的な投与試験ではなく、「この食品を多く食べている人は、この病気にはかかりにくいことがわかった」というような「観察研究」で効果が示されている場合などについては、(イ)の「本品にはAが含まれ、Bの機能があることが報告されています」という表記になります。「報告されている」という表現で、臨床試験とは違うことを示す必要があるのです。

 さらに、最終製品ではなく、その食品に含まれる機能性関与成分にかんする学術論文等を集めて評価して、総合的に効果ありとする場合、機能性関与成分の効果は証明されたけれども、その成分を含む食品の効果は、明確に証明されているわけではありません。そのため、(ウ)の「本品にはAが含まれます。AにはBの機能があることが報告されています」と表記し、言外に最終製品では確認されておらず、しかも文献調査であり事業者が人で直接的に確認したわけではないことを伝える、という形になります。

 こういうことを、消費者は三つの文言を区別して、読み取る必要があるのです。信頼性から言えば、一般的には(ア)が一番高く、(イ)(ウ)の順に低くなりますが、試験の参加者数などによっても試験の信頼性は大きく変わってくるので、一概に(ア)の文面の表示のものを買った方がいい、とは言えません。うーん、難しい。
それにしてもそもそも、臨床試験と研究レビューの区別が頭に入っている消費者がどれほどいるのでしょうか。

 今回のガイドライン案を私が見る限り、このような形骸化した情報開示が目につきます。新しい機能性表示食品制度では、国は製品の安全性や機能性にかんする審査はしません。事業者に安全性や機能性等、詳細な内容の届け出を求め、それを“形式的に”チェックするのみです。形式的に、という言葉を、消費者庁自身が使っています。

 食品安全委員会や厚労省審議会等の食品添加物や特定保健用食品等の審議も、企業データのチェックなのだから、同じでは? と考える人がいるようですが、まったく異なります。これらは、データの妥当性や、各種の試験の整合性等について、かなりの時間をかけて検討し結論を出します。しかし、今回の機能性表示食品制度は、届け出られた書類に欠けている項目はないか、試験等の形式が水準を満たしているかなどを、確認するのみなのです。

 同庁は、ガイドラインでさまざまな要件、提出する書類の書式等を明らかにし、一般消費者向けには1000字以内で専門用語などを平易な言葉に置き換えた説明文を作り、これも届け出するように求めています。同庁は、届け出内容をほぼすべて、ウェブサイトで開示する予定です。事業者も、ウェブサイト等で情報開示するのが望ましい、とされています。
そして、国が審査する代わりに、消費者自身が容器包装を見て、開示されている情報も調べて、商品を選ぶのです。

機能性表示 tableでも、容器包装に表示される項目は、表で示すとおり、莫大な情報量です。字も小さくなるでしょう。それ以外の情報が開示されるのは、主にウェブサイト。こんな情報提供で、健康食品の主力購買層である高齢者が、中身、自分に合うものを判断できるのでしょうか?

 私は、消費者も知識を貯えて判断できる力を付けてほしい、と思い、このFOOCOM.NETの活動も行っています。だから、やみくもに「これでは、消費者はわからない。国はけしからん」と主張するつもりはありません。
例えば、特定保健用食品にノンアルコールビールを認めることについて消費者委員会が「健康に良いイメージにひかれて未成年者の飲用が懸念され、未成年者のアルコールへの入り口となる」などとして反対し、でも消費者庁が従わずに認可したことが話題になっています。私はこの話、消費者委員会は消費者をバカにし過ぎている、と思いました。説明を受け判断する力は消費者にあります。このようなわかりやすい事例なら。

 でも、機能性表示食品制度は、あまりにも複雑。科学的にも高度で難しいのです。このような制度を「情報を開示しているからいいだろう」とすることには、とても賛成できません。

 しかも今のところ、消費者庁は消費者をサポートし、相談に乗るためにどうするのか、具体的な内容を示していないのです。パンフレット作りに努力しているらしいのですが、役所のパンフレットの効果が薄いのは、だれもがよく知っている通り。そもそも、消費者庁は、下部組織を地域に持っていません。

 この制度、検討会報告書が出た昨年夏頃は、まだ理念がしっかりしているように思えました。しかし、規制改革会議などの意見も受けて結局は、消費者が情報を読み取ることが非常に難しいレベルの 「情報を出しときゃいいんだろう」という感じが強くなってしまいました。
 でも、4月1日には施行されてしまう。対抗するには、異議を申し立てつつ、やっぱり消費者が知識を貯え、判断力を上げるしかありません。その危機感を、消費者はまだ感じ取っていない、と思えてなりません。

<お詫びと訂正>
表の中で、「●バランスのとれた食生活の普及啓発をはかる文言」が抜けていましたので、追加しました。お詫びして訂正致します。(2015年3月19日)

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