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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

「安全性が確認できない」トクホ “却下”の製品が、機能性表示食品に

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2015年4月22日

 消費者庁が4月17日から、「機能性表示食品」の製品情報をウェブサイトに出し始めた。最初の公表は8件。見てとにかく驚いた。新制度は、こんなに緩いものなのか!

 8件の中でもっとも驚いたのは、株式会社リコムの「蹴脂粒」。このカプセルの機能性関与成分について、食品安全委員会の専門調査会は特定保健用食品としての審査を行い、「安全性が確認できない」とする評価書案を2月にまとめた。つまり、専門家が安全性に疑義を抱き事実上 “却下”という判断を下した成分が、機能性表示食品として登場する。消費者の安全は守られるのか?

 事実を整理して伝えよう。
 問題の機能性関与成分は、エノキタケの抽出物。食品安全委員会には、エノキタケ抽出物2.4mgを含む清涼飲料水「蹴脂茶」(350ml)として、2013年11月に申請が届き、12月から審議が行われた。そして、15年2月に評価書案がまとめられ、パブリックコメントが終了した段階だ。まだ、正式の評価書としてはまとまっていない。

 評価書案で問題とされたのは、機能性をもたらす関与成分が、βアドレナリン受容体と結合し作用をもたらす、というメカニズム。人でこのメカニズムが確認されたわけではなく、脂肪細胞を用いた実験でβアドレナリン受容体を刺激する作用がある、ということから、人でも腸管から吸収されて血液循環により脂肪細胞の表面にあるβアドレナリン受容体に結合し、脂肪の低減作用をもたらす、と推測されている。

 しかし、食品安全委員会は、この作用機序そのものに疑念を投げかけた。βアドレナリン受容体はβ1、β2、β3の3種があり、事業者側は機能性関与成分は三つすべてに結合しうるとしている。しかし、評価書案によれば、β1アドレナリン受容体になにかが結合すると、動悸や頻脈、不整脈等、血圧上昇等の影響が出る可能性がある。また、β2アドレナリン受容体は、呼吸器系や子宮への影響が懸念され、実際にこの受容体に結合するメカニズムを持つ医薬品は、副作用が報告されている。β3アドレナリン受容体に結合する医薬品もあるが、こちらは心臓に関係する副作用の報告がある。

 食品安全委員会は、「βアドレナリン受容体に対して非特異的刺激作用を有するとすれば、その作用によって心血管系、泌尿器系、呼吸器系、生殖器系など、多岐にわたる臓器に影響を及ぼすことは否定できない」とした。その結果、「本食品の安全性が確認できない」と記述し、「作用機序及び安全性について科学的に適切な根拠が示されない限りにおいては、本食品の安全性を評価することはできないと判断した」と結論づけた。

 さらに、安全性を示す根拠として提出されたマウスの投与試験については、飼育環境が不適切であった可能性が否定できず、安全性評価に用いることはできない、とした。

 これに対して、リコム側はウェブサイトで反論している。エノキタケ抽出物のβアドレナリン受容体への作用は医薬品よりはるかに弱く、一日摂取目安量も少なく、生のエノキタケに換算すると4g程度に過ぎない、というのが主旨だ。また、ヒトの摂取試験でも有害事象は認められていない、と主張する。

 同社が、食品安全委員会の評価にまったく納得しておらず、機能性、安全性に自信を持っていることは、ウェブページの文面から十分に伺える。
 同社と食品安全委員会のどちらに妥当性があるのか、人によって見解は分かれそうだ。だが、おそらく日本最高レベルである専門家たちが「安全性が確認できない」とした事実は重い。にもかかわらず、同社は、同じ成分をカプセル状の蹴脂粒という製品にし、1日の摂取量もトクホの蹴脂茶と同様にして、機能性表示食品として消費者庁に届け出た。トクホがだめなら次、ということなのか。

 消費者庁はこれまで、届け出内容を審議することはなく、書類が揃っているか、“形式的に”チェックする、と説明してきた。そして、同社の届け出は受理され書類が公表された。

 消費者庁のウェブサイトで公開された届出書類を見ると、トクホ審査で提出されたのと同じ試験結果が示されている。そして、食品安全委員会の疑義は、作用メカニズムについてもマウス試験の不備についても、まったく触れられていない。
 さらに気になるのは、医薬品との相互作用。βアドレナリン受容体への刺激により作用するのであれば、当然、同様のメカニズムで働く医薬品の作用に影響する懸念があるのではないか。しかし、届出書類では「相互作用なし」となっている。

 機能性表示食品は、企業責任で表示をし、情報を公開することで消費者が自主的かつ合理的に選択する制度だ。だが、食品安全委員会の疑義は、この制度の枠組みの中では情報提供されない。医薬品との相互作用も、企業が「ない」と思えば、それで通る。

 あとは、消費者のだれかが気付いて、食品安全委員会の情報を消費者庁の情報をつなぎ合わせないと、この問題は社会的に明らかとならない。議論の俎上にも載らない。なのに、消費者が選べる制度、ともてはやされる。
 私が疑問を持つのは蹴脂粒だけではない。次回、別の製品をつぶさに検証する。企業の良識に頼り、消費者庁は書類の形式的なチェックだけ、という機能性表示制度が抱える大きな欠陥が見えて来る。怖い時代が幕を開けたのだ。

<事務局より,4月25日>
 この記事に関連して、朝日新聞・4月25日付朝刊で、FOOCOMの活動と代表としての意見が掲載されました。

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