ホーム >  専門家コラム > めんどな話になりますが… > 記事

めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

蹴脂粒問題〜この場合、安全性と機能性は表裏一体

  • シェア
  • Check
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Share
2015年4月23日

 株式会社リコムが機能性表示食品として届け出た「蹴脂粒」について、前回の記事を出した後、いろいろな質問を受けた。この件、面白いのは、同社の主張する作用メカニズムが確かだとすると、機能性と安全性が表裏一体とならざるをえない、ということだ。つまり、「機能性がある」というなら、安全性への疑問が浮上する。安全であれば自ずと「機能性はない」という結論になる。
 この件に関しては、「安全性と機能性は別物だ」という言い分は通らない。

 特定保健用食品として申請を受けた食品安全委員会は「安全性が確認できない」と評価書案で書いているが、それは消費者委員会等が機能性を認めているから、国の機関としてはそういうふうに表現せざるを得ない、というだけだろう。真意は「安全性に問題なし。機能性もなし」だ。今回は、別製品について解説するつもりだったが、もう1回、蹴脂粒について考えてみよう。

 リコムが作用メカニズムとして主張しているのは、エノキタケ抽出物に含まれる物質が、βアドレナリン受容体に結合し、脂肪の低減作用を発揮しているというものだ。

 βアドレナリン受容体3種のうちβ3アドレナリン受容体は、主に脂肪組織に存在し、通常はアドレナリンなどのホルモンが結合することで、脂肪細胞に「脂肪を燃やしなさい」という指令を伝え、脂肪が減ることになる。
 同社は、このβ3受容体に別の物質を結合させ活発化させることで、脂肪燃焼がもっと増えますよ、と言いたいようだ。このあたりの作用メカニズムについては、消費者庁のウェブサイトで公開されている基本資料で説明されている。このメカニズムは、実験で確認されたものではなく、いくつかの傍証による推論だ。

 ただし同社は、エノキタケ抽出物に含まれる物質はβ3受容体に特異的に結合するのではなく、β1アドレナリン受容体とβ2アドレナリン受容体にも結合する、としている。

 ところが、βアドレナリン受容体は3種共、人体の中で非常に重要な働きを持っている。心臓には、主にβ1受容体とβ2受容体があり、心筋収縮の強さ等を調整している。血管にあるβ2受容体も、血管の収縮や拡張等にかかわっている。また、最近ではβ3受容体が脂肪細胞だけでなく、心血管系にも広く分布することがわかってきた。

 したがって、肥満細胞のβ3受容体に結合して「効き目」を表す物質で、β1受容体やβ2受容体にも結合しうる、となると、心臓や血管の収縮等にかかわる、と考えるのが普通の論理的な展開だ。
 β受容体に結合して作用を発揮する医薬品はいろいろある。もっともよく知られているのはイソプロテレノールだろう。β受容体に結合して心筋刺激作用をもたらすので、心臓が停止した時に注射する蘇生薬として用いられる。

 それくらい、βアドレナリン受容体に結合する、という作用は人体にとって影響が大きいのだ。この受容体に作用する医薬品においては、クスリの効果という「主作用」のほかさまざまな「副作用」も報告され、注意喚起されている。クスリは、主作用の大きな効果を狙い、副作用も覚悟のうえで投与されるものだ。

 
 βアドレナリン受容体の研究にはこうした背景があるので、食品安全委員会は同社から、「βアドレナリン受容体に結合する」と説明され、脂肪細胞以外のところにあるβ受容体への作用を回避できるメカニズムも示されないために、「安全性が評価できない」と言うよりほかなくなった。医薬品では副作用があってもいいが、トクホにおいては、副作用の存在は許されない。

 面白いことにこの食品安全委員会の見解に対して、リコムは「エノキタケ自体を食べるとして換算すると、わずか4g程度の摂取量にしかならない。だから、副作用は起きない」と説明している。医薬品は摂取量が多いから副作用も起きる。この製品は、摂取量が少ないから起きない、というのだ。

 普通に考えて行けば、摂取量が少なく副作用もないのなら、主作用である効果もない、ということになるのだが、同社はそうは考えないらしい。

 もう一つ、興味深い点は、「抽出」という加工方法に、同社がまったく触れていない点だ。同社は、効果が見られないエノキタケ、という食品に「抽出」という操作を加えることで、“効果”を見出している。ならば、抽出が安全性についてどのような影響を与えているのかについての考察も必要だが、その点の言及はない。

 食品安全委員会は、「蹴脂粒」が、わずかなエノキタケにしか相当しないことは当然、わかっている。抽出で、顕著な効き目が現れることなど起き得ないこともわかっている。だから、本音は「安全性に問題なし。機能性なし」だと私は思う。

ちなみに、1990年代から2000年代前半にかけて、この受容体をターゲットにした肥満症治療薬の開発に製薬企業は一斉に打ち込んだそうだ。だが、うまくいかなかった(薬学生新聞参照を)。
 その後、健康食品企業が乗り出し、今やダイエット食品として百花繚乱である。

 個人的には、なぜ、こんな製品を消費者委員会等が「機能性あり」とトクホに認めようとしたのか、不思議に思う。人に食べさせて影響を調べる臨床試験が決め手だったのだろうが、臨床試験は試験対象者が少なかったり実験設計に欠陥があったりすると、間違った結果が出やすい。だから医薬品の場合には試験条件の設定の仕方が厳格に決められているし、試験自体も何度も行われる仕組みになっている。

 一方、食品の場合にはトクホも機能性表示食品も、そのような厳密性は要求されない。今回、機能性表示食品として公開された他製品の中にも、試験の質に疑問を持たざるを得ない臨床試験で、「効果出ました!」と主張しているものがある。

 「効く」という主作用があるのなら、副作用の検証は必須だ。それが科学であり、食品全般の機能性を考えるうえでのポイントでもある。裏を返せば、食品は各成分の含有量が少なく、著しい効果がないから、安全に安心して食べられる。

 だからこそ、機能性をうたう食品の安全性評価は重要だ。トクホは、食品安全委員会が歯止めとなってきた。しかし、その見解は、機能性表示食品制度においては、このように無視され得る。もし、リスクの上昇あり、として食品安全委員会が却下した食品が、機能性表示食品制度に基づき届け出られたらどうする? いや、企業がそもそも、トクホに申請せずに、まっすぐ機能性表示食品として届け出たら、だれがどうチェックする? 今回のような、重要情報が書かれていないが体裁の整った公開文書から、消費者はなにを読み取る? 
 そう考えた時、この制度を活用することの難しさが見えてくる。

<事務局より,4月25日>
 この記事に関連して、朝日新聞・4月25日付朝刊で、FOOCOMの活動と代表としての意見が掲載されました。

⇒ めんどな話になりますが…記事一覧へ

専門家コラム一覧

FoodScience 過去記事

以前、他のサイトで掲載されていた記事をこちらより選択してご覧いただけます。
FOOCOM.NET 会員募集 科学的根拠に基づく食情報を消費者に提供するために、ご協力ください。

お知らせ

FOOCOM会員、執筆者がかかわる催し、講演(10/17)
<FOOCOM事務局よりのお願い> 「FOOCOM.NET」にアクセスいただきありがとうございます。私たちは201…【全文を読む】
FOOCOM お役立ちリンク集