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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

機能性表示食品「えんきん」の根拠は、お粗末すぎる

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2015年5月1日

 「機能性表示食品」として届出され、受理され情報が公開された製品は5月1日現在、11製品に上る。2回にわたって「蹴脂粒」について書いたが、今回とりあげるのは(株)ファンケルの「えんきん」だ。
 安全性や機能性などの資料を熟読しての個人的な感想は、「こんなレベルで、ここまで派手に機能性をうたってしまうのか!」だった。「業界の雄、この制度の検討会に社長が委員として出席していた“一流企業”が、ここまで無責任なことをするのか」とがっかりした。
 気付いた点を、消費者に情報提供したい。

<消費者庁公開情報>
えんきん一般向け公開情報
えんきん基本情報
えんきん機能性情報
えんきん安全性情報

 まずは、「機能性」について。
 「えんきん」は、1日の摂取目安量に含有される機能性関与成分が4種。ルテイン6mg、アスタキサンチン4mg、シアニジン-3-グルコシド2.3mg、DHA50mg。届出表示は「本品にはルテイン・アスタキサンチン・シアニジン-3-グルコシド・DHAが含まれるので、手元のピント調節機能を助けると共に、目の使用による肩・首筋への負担を和らげます」である。

 根拠は臨床試験だ。論文が消費者庁サイトで公表されている。実は、この論文が、科学ライター、ジャーナリストとしては、頭を抱える代物なのだ。論文の質が、一言で言えば低い。低すぎる。

 掲載誌は、Immunology Endocrine and Metabolic Agent in Medicinal ChemistryのVol.14-Number.2。2014年に出ている。この雑誌は米国の国立生物科学情報センターが運営しているデータベースPubmedには収録されていない。

 方法は、無作為化二重盲検群間比較対照試験。試験適格者102人から、45〜64歳/疲れ目を訴えている/目の疾病がない/まばたきなしで30秒以上、目を開けていることができる/肝疾患、消化器疾患、腎臓疾患の既往歴がない/眼精疲労に効果のある食品や医薬品等を摂っていない——などの基準により50人に絞り、25人ずつ二つのグループに分けた。片方には関与成分4種が含まれたサプリメントを、もう片方には関与成分が含まれていないプラセボのサプリメントを摂取してもらい、試験前と4週間後の変化を見ている。摂取した参加者も試験を実施した者もそれが関与成分入りのサプリメントかプラセボのどちらかがわからないという二重盲検である。

 各グループの1人ずつは、4週間後の検査前の睡眠不足や目を30秒間開けていられない状況により対象から除外され、結局24人ずつが比較された。
 その結果、関与成分入りのグループは、調節近点距離(Near-point accommodation、NPA)に改善が見られた。近点距離というのは、目からピントを合わせることのできる一番近い点までの距離。目は、水晶体と周辺の筋肉の調整により、水晶体が膨張して厚くなると近くに焦点が合う。若いうちはごく短い距離でもピントを合わせられるが、年をとると水晶体の弾性が低下して調節ができなくなる。これが老眼だ。近点距離の調節力低下は、パソコン作業による目の疲労などによっても起きる、とされている。
 この数値が、関与成分入りのサプリメント摂取により改善された、というのだ。
 このほか、「目のかすみ」「肩や首の凝り」についても、関与成分入りのサプリメントを摂取したグループに改善が見られた。この試験結果を主な根拠に、製品は「手元のピント調節機能を助けると共に、目の使用による肩・首筋への負担を和らげます」とうたう。

 これら3つは統計的に有意な差があったとされているわけだが、論文を詳しく読むと「あれっ?」ということになる。
 まず、調節近点距離については、片方の目ごとにみると、プラセボと関与成分入りサプリとで有意差はなく、両目でやっと、統計的に有意な差あり、という結果。つまり、効果はあったとしても非常に小さい。
 
 それに、「目のかすみ」「肩や首の凝り」の方はもっと問題がある。これは、質問表を渡して参加者に「症状がない=1点」から「もっとも重い症状がある=5点」までの間で答えてもらい、それをスコア化したもの。
 疲れ目/目の痛み/なみだ目/目の充血/いらいら/頭が重い/頭痛/小さいものが見えにくい/焦点を合わせにくい——等々、計15項目を試験前と、摂取し始めて4週間後に質問し、その中で統計的に有意差ありだったのが、「目のかすみ」「肩や首の凝り」の2項目なのだ。ほかの13項目は、プラセボと関与成分入りのサプリメントで有意差はない。

 たくさんの項目を挙げて調べれば、一つや二つは偶然、差がつく、ということはおおいにあり得る。通常の論文なら、この差が本当に意味のある差なのかどうか、13項目と作用メカニズムのどこに違いがあり、このような結果になるのかなどを試験で調べたり論考したり、ということになるのだが、この論文では、なぜこの二つのみ差があるのか、まったく考察していない。そもそも、一つ一つの項目に定義が書かれていないので、なにが違うのかがよくわからない。私なら、「肩や首の凝り」と「頭が重い」と「頭痛」を区別するのはかなり難しい。

 論文としてさらに問題なのは、各項目の対象とした数がそれぞれバラバラなことだ。48人の参加者のはずなのに、「目のかすみ」対象者は関与成分入りのサプリとプラセボ合わせて計25人、「肩や首の凝り」は計41人、「目の疲れ」は46人、「目の痛み」は9人、「頭痛」は9人などと、項目ごとに違っている。つまり、なんらかの理由により、参加者から相当数のデータが削除されている。なのに、まったく説明がなく、にもかかわらず、それぞれの項目について、平均値や偏差、P値などがもっともらしく記述されているのだ。
 
 一般消費者はこんな説明を読んでも、なにを細かいことをグダグダと、と考えるだろう。効いた人がいればいいではないか、と。
 いや、違う。こうしたヒトへの影響を調べる「疫学論文」では、このデータの取り扱いが、極めて重要だ。

 ヒトの試験は、動物試験のように小さいケージに閉じ込めて強制的に食べさせるようなことはできないから、アクシデントが起こりうる。途中でまったく別の病気にかかったり事故に見舞われたり、あるいは忙しくて「摂れと言われたものを、摂り忘れてしまいました」というような事態もある。だから、一定数のデータは削除して解析しないと、科学的な試験結果とはならない。
 一方で、このデータ削除を恣意的にやれば、論文筆者はどのような結論も導き出せるから、要警戒でもある。

 したがって、こうしたヒトの試験では、どのような基準によりデータを削除したかを詳細に記述するのが、科学の流儀だ。読者に「私は、都合の悪いデータを削除するようなことはしていません」と情報開示して、信用してもらわなければならない。私の印象では、論文を掲載する学術誌のレベルが上がれば上がるほど、データの取り扱いの説明が詳細になる。

 この「えんきん」の論文は、試験参加者に行った質問表のデータの取り扱いの記述がない。これは、科学的には信用に値しない。普通の学術誌なら、査読を通過できず、間違いなく掲載拒否される。
 しかし、この論文は査読のある学術誌に掲載された。消費者庁は論文のレベルについて、「国際的にコンセンサスの得られた指針に準拠した形式」も求めているが、私は要求レベルを満たしていない、と考える。

 付け加えれば、この論文を掲載した雑誌のeditor in chief、つまり主任編集者は、内閣府の規制改革会議で「企業責任により機能性表示を」と旗ふり役を務めた森下竜一・大阪大学大学院教授である。
 制度を作り、サプリメント企業最大手の研究者が出した非常にレベルの低い論文を、自らが責任を持つ学術誌に掲載し、「ちゃんと根拠があるのだから、表示していい」という体裁を作ってやっている、と見られても仕方がない。そして、論文があり書類が揃っているから、と受理した消費者庁……。

 次に「安全性」。「えんきん」は、「喫食経験あり」となっているが、これは2007年からのこの製品の販売実績を根拠としている。しかも、届出文書では、健康被害の連絡が寄せられたものの因果関係の特定はできなかったなどの理由により、「健康被害の発生は確認されなかった」と記述している。第三者による検証結果は示されていない。

 非常に意地悪く言えば、自分の企業で売り出して「人体実験」をし、自分たちで「問題がない」と判断したので大丈夫、というロジックである。

 そして、「表示」。消費者庁の所定の書式は満たしている。しかし、パッケージに「ファンケルのこだわり設計 多角的サポート設計」という文言が書かれている。私は、その根拠はないと考える。

 たしかに、4種の関与成分を組み合わせたサプリメントで、臨床試験は行われている。そして、一つ一つの関与成分の働きについては、論文でも届出書類でも、既存文献を引用する形で記述されている。しかし、「多角的サポート設計」とうたうからには、4種がどう関連して作用するか、一定の科学的根拠が必要だ。だが、論文でも届出書類でも推論しか書かれておらず、根拠となる科学的なデータはまったく示されていない。

 もしかしたら、臨床試験の結果は、アスタキサンチンのみの効果で、ほかの3種はまったく意味がないかもしれない。たとえば、「えんきん」1日分に含まれるDHAはわずか50mg。これは、まいわし4g、べにざけ10g分にしかならない。これだけ微量だと、「効き目などない」という可能性も十分にある、と私は思う。

 4成分がたしかに効いていることを確認していないのに、「多角的にサポート」と説明し売る。こんなロジックが通るようなら、多成分を組み合わせたマルチサプリメントが売られ放題になる。消費者は、不必要なものまで買わされ摂取させられることになりかねない。

 また、パッケージは「中高年の目の健康に」とうたい、「手元の小さい字が読みにくい」「メガネに頼りたくない」と文言が書かれている。高橋久仁子・群馬大学名誉教授の言う「行間を読ませるテクニック」で、老眼に悩む人向けであることをアピールしている、と私は思う。だが、臨床試験は、参加者が45〜64歳である、というだけで、老眼に効くのかどうかは、まったく確認していない。もしかすると、パソコンの見過ぎなど、一時的な症状にわずかに効果あり、というだけかもしれない。

 ここまで、機能性、安全性、表示について、どうしても気になるポイントを書いて来た。このほかにも、細かな問題点がたくさんある。一般消費者にとってあまりにも細部だから説明しないが、健康食品業界の関係者の多くは、「えんきん」の届出書類を見て、「機能性表示食品は、こんなずさんなレベルでいいのだな」と受け止めたはずだ。

 健康食品の問題を把握し消費者や患者にアドバイスできる「健康食品管理士」を養成する「日本食品安全協会」の長村洋一理事長は「この商品に入っている3つの成分のうち、ルテインは眼科領域でも実際に使用され、残りの2成分についても可能性は否定できない。だが、このレベルでの臨床試験でこれだけの効果ありとするのは問題だ」と指摘する。
 
 いわゆる健康食品は従来、機能性を表示できず、しかし広告や宣伝等で体験談や思わせぶりなキャッチフレーズにより健康効果を暗示し売る、といういびつなビジネスを行って来た。いわゆる健康食品にもピンからキリまである。「根拠のあるピンの製品を、胸を張って売りたい」と願っていた人たちも大勢いる。

 彼らは、この制度でレベルの低い製品が売られたり、安全性に問題が起きて「やっぱり、健康食品業界はダメだ」「信用できない」と烙印を押されないようにと、製品の改善と基準やガイドラインの遵守に大きな努力を払ってきた。
 だから、ファンケルのこの製品の書類を見て、一番残念がり悔しがっているのは、彼らである。消費者はまだ気付いていない。私に真っ先に、ずさんな臨床試験内容を教えてくれたのも、彼らの一人だった。業界の心ある人たちが「トップのファンケルがこんな姿勢では、もう業界は落ちて行くだけだ」と落胆している。
 
 ファンケルは消費者庁が情報を公開した4月17日、プレスリリースを出し、製品をPRした。
 新制度構築を進めた検討会で、委員として「粗悪な商品をどういうふうに排除していくか」「業界の浄化」などと、もっともらしい言葉を重ねて来たファンケル社長。たしかに、消費者の自主的、かつ合理的な選択に資するために情報を公開する新制度で、こんなにレベルの低い製品がこれまで売られ、さらに今後は堂々と機能性をうたおうとしていることがわかるようになった。それは、新制度の大きなメリットだ。

 社長は今、なにを思っているのだろう?

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