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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

全国消団連が意見書(2) 〜低レベルの製品は「機能性表示食品」に届け出しないで

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2015年5月27日

 全国消団連が5月26日に公表した機能性表示食品制度に関する意見書は、国への要請と事業者向けの意見の二つから構成されている。
メディア懇談会3 事業者団体等への意見書には、次の3項目を記している。

(1)機能性について科学的根拠(エビデンス)の弱い製品、安全性に疑義を抱かれるような製品の届け出はやめてください。
(2)科学的な情報を、正しく且つわかりやすく消費者に情報提供してください。
(3)消費者を誤認させないよう、正しい表示と適正な広告宣伝を行ってください。

 とくに、機能性については、到底根拠となり得ないような臨床試験結果を基に表示する製品が目立つ。

全国消団連から、事業者団体等への意見(クリックすると、大きな画像が見られる)

全国消団連から、事業者団体等への意見(クリックすると、大きな画像が見られる)

 臨床試験は、試験が終了してから都合のよい結果を導き出すために、解析する項目を減らしたり検定する方法を変更したり、というような“細工”をする事例があるため、そのような不正を防ぐために最近では、ルールを定め試験実施前に登録を求められるのが一般的になった。機能性表示食品制度においても、ルールであるCONSORT声明への準拠と登録システムへの事前登録が求められている。今後行われる臨床試験は、当然従うことになる。だが、施行後1年間は、これまでの臨床試験の結果等も活かせるように、これらが免除される。そのためか、これまでの臨床試験に基づく届け出に、レベルの低いものが目立つのだ。

 また、消費者が読む「一般向け公開情報」の説明も、専門用語そのままであったり、重要な説明をおそらく意図してであろう、省いたもの、さらに、論文内容と乖離のある説明をしている製品がある。
 さらに、届け出表示と消費者庁ウェブサイトで公表されているパッケージ見本のキャッチコピーの内容が離れ、消費者の誤認を招きかねないものもある。

 全国消団連の会見では、具体的な製品名を挙げての説明は行われなかった。会見から少し離れて、私個人が問題視している事例を挙げてみよう。

◇ (株)リコム「蹴脂粒」
 安全性への疑義については、本欄4月22日付の「安全性が確認できない」トクホ “却下”の製品が、機能性表示食品にで伝えた。
 この製品、安全性だけでなく機能性についても疑問がある。臨床試験の論文を基にした表示で、一般消費者向けの資料では、「プラセボ食群と比較して試験食群の体重、BMI、全体脂肪面積、内臓脂肪面積で有意な減少が認められました」と書いてある。
 試験食群は、機能性関与成分が入った製品を食べた人たち。プラセボ食群は、色や形状等はまったく同じで、成分が入っていないものを食べた人たち。それぞれ、どちらを自分が食べたか知らない。その両グループで違いを比較したところ、成分を食べた試験食群はこれらの数値が下がり、統計学的にも差があることが確認された、という説明。「体脂肪(内臓脂肪)を減少させる働きがあります。体脂肪が気になる方、肥満気味の方に適しています」と表示をすると届け出てある。

 しかし、論文を読むと、肝心の体脂肪量自体は、被験食群とプラセボ群の間で差がない。一方、CTで撮影した全体脂肪面積と内臓脂肪面積は、試験食群とプラセボ群で差があり、皮下脂肪面積は差なし。
 ただし、「差あり」という分析も、実は消費者にとっては“くせ者”だ。これ、「変化量」が有意差あり、というだけなのだ。
 このあたりが非常にわかりにくいところなのだが、まあお付き合いいただきたい。「205から200になりました。違いは5です」と言われた時と、「5下がりました」と言われた時、印象はまったく異なる。205→200だったら、「実質的にはあまり変化がないよね」と受け止めるだろう。一方、ベースラインが明かされず、「5下がりました」と言われると、「10が5になった」とか「7が2まで下がった」と勘違いして、「すごい」と感じる人も出てくるはずだ。

 蹴脂粒の論文の解析は、実は後者。ベースラインは考慮に入れず、変化量を見て「差があった」としている。
 健康食品業界で実際に開発に携わっている人によれば、これは倫理的にはかなり問題がある、とのこと。変化量で有意差があっても、それがベースラインに対してほんの少しの違いしかなければ、臨床的には、つまり人が実際に食べる時には、ほとんど影響ない、ということになりがちだ。

 だから、変化量で表面的に「有意差あり」というのはしてはいけない、というのが大原則。もし、理由があって「変化量」で検討した場合には、そのことをきちんと消費者に伝えなければいけない。実際に、他社で同じように、「変化量で有意差あり」を根拠にしている企業の中には、それを「一般向け公開情報」で明記しているところもある。残念ながら、この製品についてはその姿勢はなく、変化量における有意差であることが、一般向け公開情報では説明されていない。

 結局、統計学的には差があっても、実際に人の体にとって意味ある差にはならないのでは、と感じる。だから、肝心の体脂肪量も、下がっていない。そのことは、論文でも明確に示されている。
 こんな結果を基に「体脂肪量を減少させる」などと言えるのか? 疑問を感じる。

◇ (株)ファンケル「えんきん」
 この製品についても、本欄5月1日付機能性表示食品「えんきん」の根拠は、お粗末すぎるで、詳しく書いた。その後に「もっと深刻な問題が、この論文にはありそうですよ」という指摘を、読者からいただいた。
 この臨床試験では、「えんきん」摂取群とプラセボ群で、試験前と4週間後に調節近点距離(Near-point accommodation、NPA)を測定し、変化を見ている。論文を読んでいただければわかるのだが、NPAの数値がおかしい。片目ずつの平均値±SE(標準誤差)、両目の平均値±SEが論文には記載されているのだが、その数値に整合性がない。もし論文に記載されている数値が正しいとすると、いくつかのデータを、理由をつけて削除していることが考えられる。しかし、論文に説明がない。
 もっとも重要なデータで、なにかごまかしがあるのではないか。重大な疑義が浮上せざるを得ないのだ。

◇ キューサイ(株) 「ひざサポートコラーゲン」
 この製品の根拠は、臨床試験の結果だ。これも、被験食群が15人、プラセボ群14人のごく小規模な試験である。
自覚症状、他覚症状、バイオマーカー等、さまざまな角度から調べているのだが、有意差があったのは、他覚症状の日本整形外科学会膝OA治療成績判定基準(JOA)における「屈曲角度および強直・高度拘縮」。摂取開始8週間後、被験食群とプラセボ群で有意な差あり(Mann-Whiteny のU検定、P<0.1)。しかし、12週、16週は差が出ていない。全期間を通じて、疼痛・歩行能、疼痛・階段昇降能は、差がない。

 また、自覚症状である痛みのVAS(visual analogue scale)スコアも調べられており、安静時はやはり摂取8週間後には差があるものの、以降はなし。歩行時、階段昇降時は、全期間を通じて統計的に有意な差がない。
 つまり多くの項目の中の一部しか差がなく、ほかの項目の傾向と整合性がない。効果が継続することはまったく示されていない。なのに、届け出表示は「本品にはコラーゲンペプチドが含まれるので、膝関節の曲げ伸ばしを助ける機能があります。膝関節が気になる方に適した食品です」となっている。

 そもそも、コラーゲンの機能性を一つの臨床試験の結果で表示するのは、科学的には無理がある。結構な数の臨床試験が行われ、否定的な結果も出ている。本来、複数の試験を集めて解析するシステマティックレビューを行うべき成分である。

◇ライオン(株)「ナイスリムエッセンス ラクトフェリン」

 この機能性も、臨床試験の結果に基づいている。臨床試験は、被験食群とプラセボ群が各13人ずつで、非常に小規模の試験だ。
 もっとも問題だと思うのは、対象者のBMIが高いことで、被験食群の試験開始時の平均が30.0、それが摂食8週間後、29.4になったとのこと。一方、プラセボ群はスタート時点でのBMI平均が27.7。8週間後に28.0だ。

 統計上は、被験食群とプラセボ群とで、BMIと腹部内臓脂肪断面積において、統計的に有意差ありとなっている。つまり、この製品を食べることにより、BMIが下がり、腹部内臓脂肪断面積も減るということが、実験の結果、統計学的にもきちんと示されましたよ、ということだ。

 でもこれ、被験食群のBMI平均が30.0でスタート。つまり、被験食群の半数はBMIが30以上。日本人としてはかなりの肥満の方々が対象の試験である。BMIが30と言えば、身長170cmの場合、体重は86.7kgだ。そういう人を対象に試験をした結果が、BMIがそれより低い人にどの程度適用できるのだろうか。説明はない。

 この小さな小さな臨床試験を基に消費者庁に届け出た表示は「本品にはラクトフェリンが含まれるので、内臓脂肪を減らすのを助け、高めの BMIの改善に役立ちます」である。消費者は「高め」と言われて、どの程度のBMIを想定するのだろうか。現在のこの製品の広告宣伝を見ると、BMI 30などというイメージはどこにもない。企業姿勢を疑うのは私だけだろうか。

 たとえば、ということで事例をいくつか挙げてみた。科学者ではない私でさえも、資料をざっと見るだけで、いろいろ気付いてしまう。ましてや、科学者がしっかり検証したら、どうなることだろう。
 統計的に差があるから、結果が出ている試験があるから、表示してよい、と企業には考えてほしくない。その差が消費者にとって意味があるのか、商品を提供して消費者のためになるのか、ということを、まずは考えてほしい。論文内容をごまかして伝えてほしくない。

 だが、現実には、いかにして都合の悪い情報を消費者にわかりにくくして伝えるか、あるいは省くか、ということに注力している企業が多いように思えて仕方がない。

 もう一つ、すぐに気がつくことは、「本品は、事業者の責任において特定の保健の目的が期待できる旨を表示するものとして、消費者庁長官に届出されたものです。ただし、特定保健用食品と異なり、消費者庁長官による個別審査を受けたものではありません」というdisclaimer(打ち消し表示)が、目立たぬように配置されているパッケージが多いこと。表面で「手元のピント調節力に」「ひざ関節の動きを助ける」などと機能を大々的にうたい、裏面でほかの表示項目に混ぜて小さな字で表示している。
 ただし、ライオン(株)は表面で「内臓脂肪を減らすのを助け、高めのBMIの改善に役立ちます」とうたい、同じ面でかなり大きな字で、打ち消し表示も入れている。こうした企業もある。
 パッケージの表示の字の大きさや配置場所からも、企業姿勢が伺えるのだ。

 各製品の問題点は、ほかにもかなりの数ある。資料を見て検討を重ねた結果が、全国消団連の意見書の内容となっている。

 会見に参加した高橋久仁子・群馬大学名誉教授(食生活教育)の指摘が厳しい。「これで、科学的根拠があると言ってよいのですか? と言いたくなるものばかり。制度ができて、言った者勝ちになるのではないか、と懸念している」。最後には、こう締められた。「当初は、苦情を企業、消費者庁に申し入れるべきか、と考えていたが、今はばかばかしくてやる気になれない。こういうものに高いお金を出すよりも、おいしいものを食べた方がいいよ、という情報を提供する方に力を注ぎたい」。

 次回、記者会見の質疑応答でどのようなやりとりがあったのか、お伝えする。

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