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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

「佐々木敏の栄養データはこう読む!」で、判断する力を磨きたい

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2015年8月7日

 甘いソフトドリンクが非難の的だ。砂糖やトウモロコシから作られた異性化液糖が入ったドリンクの摂取量と、肥満や2型糖尿病との関係を調べ、リスクを上げるとする論文・報告は多い。ならば、人工甘味料で置き換えたらいいではないか。人工甘味料の多くはエネルギー量がほぼゼロ。あっても砂糖や異性化液糖に比べて著しく低い。

 なるほど! というわけで、今や、米国でも日本でも、人工甘味料を用いたゼロ飲料、低エネルギー飲料が、数多く売られている。でも、甘いソフトドリンク問題は、それで解決するほど単純な話ではない。そのことを私は、前回も紹介した東京大学医学系研究科・社会予防疫学分野教授の佐々木敏先生の月刊誌「栄養と料理」2013年7月号の連載記事で学んだ。

 日本の女子大学生3931人を対象に、最近1カ月間に食べた食べ物を細かく尋ね、ソフトドリンクの摂取量との関連を調べた研究が紹介されていた。佐々木先生も著者の一人だ。ソフトドリンクの摂取量が多い人ほど油脂類とお菓子の摂取量が多く、逆に魚介類やくだもの、牛乳・乳製品、野菜、大豆製品の摂取量が少なくなっている、という。主菜や副菜がそろった食事をとっていないことを想像させる。
 佐々木先生はこう書く。「ソフトドリンクの怖さは、ソフトドリンクに含まれているカロリー(エネルギー)だけでなく、それよりもむしろ、きちんとした食事をとるという基本的な習慣を奪ってしまうことだとぼくは思います」。

 食べ物と体の関係は難しい。私たちはすぐに「あれはいい、これは悪い」と食べ物を一つ一つ、簡単に判断してしまうけれど、それではいけないことを、この記事で思い知らされた。

 私自身も、月刊誌「栄養と料理」で連載しているが、読者としての一番のお楽しみが、佐々木先生の連載である。そのバックナンバーが、著書「佐々木敏の栄養データはこう読む! 疫学研究から読み解くぶれない食べ方」としてまとめられ、4月に女子栄養大学出版部から発行された(税込み2700円)。

 「和食」は本当に健康食か? 「そんなに食べていないはずなのに太る」のカラクリは? 栄養健康情報はなぜゆがむのか? 次々に、科学的に根拠のある“回答”が繰り出される。
 発行されたばかりの時に読んで、「素晴らしい書籍だなあ」と思ったのだが、機能性表示食品制度と格闘の3カ月を過ごして、さらに多くの人に読んでもらいたい、と願うようになった。栄養士や消費者だけでなく、機能性をアピールする食品を販売する企業の全社員に読んでもらいたい。農水省で和食を推進したり、機能性研究を推し進める職員も必読だろう。あなたたちが思うほど、食べ物の栄養、機能は単純ではない。「効果がある」「健康によい」などと簡単に言ってほしくない。

 ご著書から、興味深い事例をいくつか紹介しよう。
 カリウムは、血圧を下げたり上げない方向に働いてくれるありがたい栄養素。野菜や魚介類、くだものに多い。そして、日本人は野菜、くだものを多く食べる国で、イタリアに注いで2番目。だから、和食がいい?

 いやいや、日本人のカリウム摂取量は世界のなかでも少なめ。野菜はていねいに皮をむいて、さいの目や薄切りにしてゆで、ゆで汁は捨てるという特徴が、カリウムの摂取量の低さにつながっているのではないか、と「調理によるカリウム含有量の変化」のデータを示しながら佐々木先生は考察する。さらに、米を精白して食べることでカリウムの含有量が7割減になってしまっていることを指摘する。
 日本の食は、食塩を大量に摂取(24時間畜尿調査では、1日に13g程度を摂っている)し、カリウムが少ないという非常に大きな問題をはらんでいるのだ。

 中性脂肪と食事との関係も興味深い。健診の結果、血中中性脂肪が高いと言われると、だれでも揚げ物やいため物など、脂肪の多い食べ物を摂るのは控えようと思う。だが、それは間違いだという。総エネルギー摂取量は変えずに、総エネルギーの5%を炭水化物から脂質にかえると、なんと中性脂肪が下がるという。この結果は、27の試験のメタ-アナリシス(複数の試験結果を、数量的に解析したもの)によるものなので、信頼性は高い。日本人は、ほかの国の人たちに比べて炭水化物の摂取割合が多いので、とくに注意が必要だ。

 佐々木先生はこう書く。『栄養学はとても複雑な科学です。「だれでもわかる」的な単純な連想ゲームを目にしたら、「それは違うかも……」と感じて、専門家の話に耳を傾けるようにしましょう。』

 何万という論文に目を通し、自作の論文管理ソフトを使って分類管理されている、と聞いたことがある。「工学部を出て、それから医学部へ行ったから、そんなこともできるんですよ」と笑っておられた。その蓄積を基にして、栄養学、栄養疫学を語られる。しかも、日本人の食においてどのような意味を持つのかを、解きほぐして語ってくださる。だから、世間に氾濫するインチキ食情報とまったく違う、複雑でおもしろい食の姿が、くっきりと見えてくる。
 先生の言葉を通して、判断する力を磨きたい。

 最後に、私たち情報を伝える者にとって耳の痛い内容も一つ。
 佐々木先生は、マスコミの関係者と一般の人たち、そして疫学者では、研究の結果の読み方がかなり異なるという。少々長いが、そのまま引用したい。こんなマスコミ関係者にならないように気をつけようっと。

「キュウリの皮を食べるとお肌がきれいになるという疫学研究の結果が発表されました」
マスコミ関係者 おもしろそうだ、記事になるな。
一般の人 今夜はキュウリにしよう。
疫学者 おもしろいな。でも、偶然かもしれない。ひとまず置いておこう。

「キュウリの皮を食べるとお肌がきれいになるという疫学研究の結果がまた発表されました」
マスコミ関係者 誌面が余ったら使おうか。
一般の人 また? きのうもキュウリ食べたよ。
疫学者 同じ結果だ。ひょっとしたら本当かもしれないな。

「キュウリの皮を食べてもお肌はきれいにならないという疫学研究の結果が発表されました」

マスコミ関係者・一般の人 キュウリなんてもう興味ないよ。ナスでお肌、って話はないの。

疫学者 信頼できる方法で行われた研究かどうかという視点で三つの研究を見直してみよう。一つめと三つめの研究はお肌の調べ方があいまいだな。一方、二つめの研究はなにを食べたかをキュウリの皮以外は調べていないからキュウリの皮が原因だとは言い切れないかもしれないな。どうやら、まだ白黒はつけられないようだ。

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