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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

蹴脂粒問題、消費者庁の安全性評価を不十分と考える理由

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2015年9月9日

 蹴脂粒問題で、消費者庁の坂東久美子長官が9月9日、質問に答えていろいろ見解を示されたようだ。NET IB NEWSが、詳しく報じている。
 私は、食品に特定の機能性を追求する以上は、裏表の関係で安全性に問題が起きる可能性を否定できず、だからこそ、安全性もシビアに検討する必要性がある、と思っている。
 機能性表示食品も、そのような制度になっているはずだ。機能性、安全性について科学的に検討し、その根拠を公開することが求められている。
 その観点から私なりに検討した結果、蹴脂粒についての消費者庁の安全性評価は、8月31日の長官会見の説明では不十分であり、食品安全委員会の見解を超えるほどの根拠を見出せないと考えた。

 そのことについて、ウェブサイトのコラム機能性表示食品制度は、自壊した~蹴脂粒問題に思うでは詳しく解説していなかったが、先週9月4日に発行した有料会員向けのメールマガジンで説明している。その内容を、下記に公開する。あくまでも、個人としての見解である。

 なお、同じようなことを考えている人は少なくないと思う。国立医薬品食品衛生研究所の畝山智香子・安全情報部第三室長は、ブログで私のコラムを紹介してくださり、コメントを書いてくださっている。

……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
<会員向けメールマガジン第215号より>

 「蹴脂粒」についての消費者庁の判断が8月31日に公表されました。それについての考察は、先ほど「編集長の視点」で機能性表示食品制度は、自壊した~蹴脂粒問題に思うとして、公開しました。

 一般の読者に対しては、この程度の解説に留めますが、私が今、この問題について考えていることについて、会員の皆様にはもう少し詳しくご説明したいと思います。

 長官の会見内容を知り、原稿を書いて最初につけたタイトルは「機能性表示食品制度は死んだ」でした。以前から、「どうも消費者庁はこのまま、蹴脂粒を認めたがっているらしい」という話は漏れ聞こえていました。したがって、受理を撤回しなかったことについて、驚きはありません。しかし、長官の説明のロジックがショックでした。

 長官は安全性の根拠として整理すると、次の4点を挙げています。
(1) 人の試験で、問題のある結果が認められていない。そのことは、食品安全委員会の評価書にも書かれ、消費者委員会も確認している。
(2) 食品安全委員会は、安全性を否認したものではない。結果として安全性の評価を現段階ではできないということが示されている。
(3) 蹴脂粒と同様のアルカリ処理を行っているもの、まったく同じ過程によるものが、調べただけでも10年以上食べられ、4万kg以上が流通している。1日あたりの摂取量になおすと1億単位分。さらに、熱処理によるものを含めると30年、少なくとも25年以上の流通実態がある。
(4) 平成2年以降をみると、危害情報が届けられていない。

 まず、(1)は根拠としては希薄です。86人を対象とした試験と、24人を対象とした試験の二つの結果が評価書に載っていますが、人が食べる試験では摂取量はたかが知れていますので、この程度の試験で問題なしであっても、影響が出る可能性を否定できません。したがって、動物実験で大量投与して調べるのがまずは重要。ところが、動物実験については不備がある、と食品安全委員会は指摘しています。

 食品安全委員会は、主張される作用機序を真実とするなら、という前提で「関与成分がβアドレナリン受容体に対して非特異的刺激作用を有するとすれば、その作用によって心血管系、泌尿器系、呼吸器系、生殖器系等、多岐にわたる臓器に影響を及ぼす可能性は否定できない」と評価書に書いています。結論は、「提出された資料からは本食品の安全性が確認できない。そのため、作用機序及び安全性について科学的に適切な根拠が示されない限りにおいては、本食品の安全性を評価することはできないと判断した」です。
 ならば、(3)(4)で示された内容は、これらを補完し安全性を担保する情報、根拠となりえるのでしょうか。私にはそうは思えないのです。

 まず、「アルカリ処理でまったく同じ過程によるもの」を10年以上食べ続けて来たことを食経験として認めていますが、そうでしょうか? 同じアルカリ処理であっても、原材料の状況やちょっとした製法の変更等で、成分の含有量も不純物も大きく変わりうることは、会員の皆様ならよくご存知のはずです。
 10年以上、原材料の取り扱いも細かな製法や設備もまったく同じで作り続ける、ということは、常識的にはあり得ません。ましてや、熱処理した製品を同一のものとして扱うことはできません。しかし、肝心の内容を長官は説明せず、10年以上とか30年というような言葉を振りかざすだけなのです。

 (4)の危害情報がないという点については、笑ってしまいました。食品安全委員会の評価書は、「その機能性を主張するなら、安全性を確認できない」という内容ですが、私は食品安全委員会の真意は「機能性なし、故に安全性に問題なし」だと思っています。
 危害情報がないのは当たり前。だってたぶん効かないのですから。これが本当に効いたら、怖くてしょうがない、という作用メカニズムです。
 だから、「機能性は表示させない」というのが、トクホについての食品安全委員会の科学者たちの判断でしょう。しかし、危害情報がないことを理由に機能性も表示してよし、という判断を消費者庁は下したのです。

 このねじれぶりは、とても面白い。けれど、消費者庁が提示した安全性の根拠4項目が、どれも脆弱なことは否定できません。こんなに弱い根拠で、食品安全委員会の評価をひっくり返すのか、しかもよりによって、消費者の利益を第一に考えるという消費者庁が……。個人的には、本当にショックでした。

 長官がこんなに稚拙なことを言うようでは、もうこの組織に食品行政を託すことはできないなあ、というのが率直な思いで、思わず「死んだ」というタイトルをつけてしまいました。正確に言うと、「私の中で、機能性表示食品制度は死に絶えた」という思いです。私の貴重な時間を、この制度に費やすのはもう止めよう、という感じです。
 さすがに思いとどまって、消費者庁が制度をダメにしている、という思いを込めて、「自壊した」という表現にしました。

 制度がダメだといっても、参加している企業をも否定しようという気は毛頭ありません。機能性表示食品制度に応じて、さまざまな企業と製品が登場するのは構いません。誠実に取り組む企業も多いはずですし、そうした社員の方々にも出会います。一方で、「知識が足りないのではないか」という企業もありますが、それぞれ独自の経済行為なのですから、レベルがまちまちなのは当然のことです。

 しかし、所管する役所がグラグラで、リスクについての姿勢がその時々で違い、企業を指導できないようでは、やっぱり信頼はできません。機能性表示食品制度は、検討会の報告書でもガイドラインでも、安全性評価はトクホの考え方を準拠するもの、として位置づけられています。しかし、それを消費者庁はひっくり返してしまいました。

 しかも、食経験については、FOOCOMも「製法の変更などをまったく無視して同一のものとし、食経験として扱ってよいのか」「販売歴数年のものを食経験と認めるのか」等々、疑問を投げかけているのに、答えることはなく、考え方を示さないまま、個別判断で片付ける。トクホがだめなら、同じ成分で機能性表示食品を、というような企業に科学で立ち向かうことができず、「売り続けて来た」という企業の言い分を丸呑みする。あまりにも恣意的な食品行政です。

 所管官庁がこの状態では、よい制度にはなり得ないでしょう。消費者に利益をもたらす制度になってほしい、と私は願ってきましたし、できることはしなければ、とも思っていましたが、身の程知らずのことを考えていたわけです。

 この夏、機能性表示食品にどう対応して行ったらよいのか、個人的にいろいろと考えてきました。今、企画を検討中なのは、消費者に機能性表示食品の機能性の大きさやエビデンスの強さを、日頃の食事の変更や運動の効果などと比較しながら考えてもらえるような情報提供をしたい、ということです。どちらが優れているとか悪い、とかではなく、消費者が見比べて、お財布と相談し生活を変えることの実行可能性も検討し、「私はこちらを選ぶ」と自分の力で選べるようになるのが、一番好ましいのです。こちらの企画を早く具体化させたいと思っています。

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