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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

12月5日、国際土壌年2015記念シンポジウムを開催

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2015年11月26日

 12月5日は世界土壌デー。2015年は、国連により国際土壌年と定められています。これを記念し来月12月5日13時から、東京・日本学術会議講堂でシンポジウム 「つち・とち・いのち~土のことを語ろう」が開かれます(国際土壌年2015年応援ポータル)。

国際土壌年企画実行委員長を務める小﨑隆・首都大学東京教授

国際土壌年企画実行委員長を務める小﨑隆・首都大学東京教授

 土はどこにでもあって、街路樹が植えられていたり雑草が生えていたり、畑では野菜を育て、田んぼでは米を実らせ……。どこでも、豊かに命を育んでいます。
ところが、世界的に見ると、土壌の劣化は大問題。首都大学東京教授の小﨑隆さんが、いくつかの事例を教えてくれました。

(1) 砂漠気候下での大規模灌漑に伴う塩類集積
 農業には水が必要です。水の少ない砂漠気候下で、人工的に水をくみ上げてまき植物を栽培すると、とりあえずは育ちますが、そのうちに土壌中の塩類が水に溶け、細い間隙を通って毛管上昇により表面に集まって来てしまう「塩類集積」が起きてしまうのです。海外には、表面に塩が吹いたようになってしまい放棄された農地があり、世界で年間に150万haが塩類集積等により放棄されている、という報告もあります。

(2) 温帯草原の大規模機械化畑作農業による土壌有機物の減耗とCO2排出
 長い間畑作を続けることで、土壌から有機物が減ってしまっているところがあります。本来、土壌は有機物を蓄えその結果、CO2を貯留しています。多くの農地では今も、植物を栽培して収穫を得た後の茎や葉などをすき込んだり、家畜糞尿から作った堆肥などを入れて有機物や養分を土壌に補給し、再生産する農業に取り組んでいるのですが、世界の農地の一部では補給が足りず収奪に偏り、土が“疲れた”状態です。CO2の貯留の減少は、地球温暖化を進めることにもつながります。

(3) 湿潤熱帯での焼き畑耕作に伴う養分損失
 熱帯圏では今も焼き畑農業が行われています。生えている草木を焼き、その灰を養分にして作物を栽培し収穫を得る方法。この農法のポイントは、収穫した後に数年間は栽培せずしっかりと休ませること。その間に生えた草や木が枯れることが繰り返されて養分が土壌に戻り土壌が肥沃さを取り戻します。そして、大きく育った草木をまた人が燃やすことで、人が収穫を得られる、というサイクルです。大昔から行われてきた農法ですが、近年は休耕のサイクルが早まり、土壌が回復しないうちに焼き畑が行われてしまう事例が出てきています。

春の足跡:能川慎弥さん撮影

春の足跡:能川慎弥さん撮影

 地球の長い歴史の中で、土壌は人類に多大な恵みをもたらしました。しかし今、人為(人の欲望)が土壌の破壊を招いてしまっているのです。

 でも、多くの日本人はこの現状を知りません。日本は、水田稲作を中心に社会が形成されました。雨がたっぷり降り、養分を土壌に運び入れ、過剰な塩類等は洗い流してくれます。そのために毎年、稲を栽培し収穫を得ることができます。

地に置く命:今里光志さん撮影

地に置く命:今里光志さん撮影

 何百年、何千年とまったく同じ作物を毎年栽培し続けることができる。畑地では不可能です。水田というあまりにも恵まれた農業システムを得て、それを非常に高度に利用してきたが故に、私たち日本人は土壌の疲弊を想像しづらく、気付きにくいのです。さらに、現代の日本人は、農業と大きく隔たった生活を送るようになってしまいました。そのことも、土壌への関心を薄めてしまっています。

 日本の食は輸入食品に大きく依存するようにもなりました。私たちが輸入により食品をふんだんに得るということは、海外の土壌から養分を収奪し土壌が疲弊し、農業者が懸命に補給と土壌の回復に努めている、ということにほかなりません。でも、私たちはそのことを忘れてしまっています。

 だからこそ今、海外で土にどんな問題が起きているのか、注目してほしい。先進国に住む者の責任(noblesse oblige)」を踏まえ、未来の土壌に思いを馳せ、自分たちになにができるのかを考えてほしい……。そう小﨑さんは語ります。

 土壌を研究する科学者のだれもが市民の土への関わりを求めています。そうした思いを込め、一般社団法人日本土壌肥料学会は日本学術会議土壌科学分科会などと共に12月5日13時から、東京・日本学術会議講堂でシンポジウムを開催します。
 基調講演は、作家のC.W.ニコルさん。引き続き、小﨑さん、黒田栄継・前全国農協青年組織協議会会長、慶應義塾大学教授の大沼あゆみさんが、短い講演を行います。さらに、パネルディスカッションでは、4人に加え農業ジャーナリストの榊田みどりさん、イオングループ環境・社会貢献部長の金丸治子さんを迎え、それぞれの取り組みを通して土の未来を語ります。司会を私、松永が務めます。

 詳しいプログラムは、国際土壌年応援ポータルのシンポジウムのページ参照を。土壌標本の展示や映像作品の上映もあります。
ぜひ参加してください。土ってなんだろう? 改めて、見つめ直してみませんか?

<写真は、土壌フォトコンテスト入賞作品>
最優秀賞:「春の足跡」能川慎弥さん
優秀賞:「地に置く命」今里光志さん

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